「年に二度来る誕生日」
子供の頃は誕生日が一年に二回あった。
まず四月にやってくる僕の誕生日で一度祝ってもらい、十月にやってくる姉の誕生日にもう一度僕もプレゼントを買ってもらうのだ。そのうえに誕生日ケーキも姉が好きな生クリームではなく、僕の好きなチョコクリームに変更されていた。
とてつもなく甘やかされたガキだと呆れるだろうが、一つだけ言い訳をさせてもらうと、ちょっと自分の誕生日から、姉の誕生日までのスパンが長すぎたのだ。
姉の誕生日が六月辺りであれば僕だってわがままは言わず、「いやいや僕はついこの間祝って貰ったばっかりなんで、全然こっちは気にせんと盛り上がって下さい」ぐらいは言えたのだが、これが十月となると、自分が祝って貰えた日が遠い過去のように思えてきて、「なんかお姉ちゃんだけプレゼント貰ってズルいなぁ」という、悪魔のような思考が首をもたげるのである。
「ちょっと僕もプレゼント欲しいねんけど」と初めて言った日、父や母よりも姉が一番驚いた顔をして、自分のプレゼントを抱えながら僕のプレゼント選びに付き合わされていた。
僕がもし兄の立場だったら、そんなかわいくない弟は完膚無きまでいじめ抜いただろうけど、姉はちゃんと僕の面倒を見てくれていた。
小学一年頃まで常人の二倍のスピードで誕生日を祝われ続けたせいか、二十代の中頃には僕の誕生日に対する情熱が全て失われてしまっていた。「誕生日に何が欲しい?」とか「何処か行きたい所はない?」とか「おめでとうメール」への返信とか、そんな全部が億劫になり、「もう放っといてくれ!」と喚き、仕事が入って誕生日が一日潰れることに安堵していた。
そこから「なぜ誕生日を祝わなければいけないのか?他の日と比べなぜ特別なのか?」という、浅いエセ哲学みたいなものを考え始め、「そうか、自分が祝われる日ではなく、おめでとうと祝ってくれる人達のおかげで自分は生きてこれた。その人達に感謝をする日なんだ」と真っ直ぐシンプルな答えに二日ほどで辿り着き、三十代からは支えてくれる人達に感謝する日として持ち直した。
最近の悩みは自分の誕生日ではなく、他人の誕生日に送る「おめでとう」LINEのタイミングである。
友達の誕生日だと0時ちょうどに気づいていても、この歳になって0時ちょうどに男友達へ「おめでとう」はちょっと恥ずかしい気がするし、一時間ほど遅めにしても、たまたま皆が寝ていた場合には僕が一番になる可能性がまだ残っており、その場合LINEが送られて来た友人は「いや、やっと一人目のLINE来た思うたらお前かいっ!」となるだろう。
しかもそれが、好きな子からのLINEを待っているタイミングだったらなんて考えると、夜中のメッセージはリスクが高すぎて送ることが出来ない。
しかし当日の朝10時頃から昼過ぎにかけては、僕以外の友達や仕事関係の人、目上の丁寧な返事をしなくてはいけない人などからのメッセージが沢山送られてくるだろうから、僕への返信でわざわざ仕事を増やすのは如何なものかと躊躇してしまう。
夕方の18時ぐらいになるときっとピークは過ぎ、余裕のある状態で僕からのメッセージを受け取り、「おっ、こいつちゃんと覚えてるやんけ」とニンマリしてくれるのではないだろうかと考える。
逆に19時を過ぎてしまうと少し遅すぎて、スマホを見たタイミングや、打ち合わせや、食事の席での会話の流れで今日の日にちに気づき、慌ててlLINEをして来た感じがでてしまう。
結果、僕の中での友人へ「おめでとう」LINEを送るタイミングは、17時半〜18時45分がベストということになる。
そして今年も無事に迎えられた僕の四月八日の誕生日に、友人から「おめでとう!」とLINEのメッセージが送られてきた。
それはまるで申し合わせたように、18時35分という時間だった。
僕の考えるベストタイミングでLINEをくれた友人に、「ありがとう!」と返しながら、心の中では「ちょっと遅いなぁ〜、もしかしてこの時間まで忘れてたんちゃうか、こいつ」と思っていた。
プレゼントを二つ欲していたあの頃から、結局僕は何も変わっていない気がした。
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