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コロナ禍をクラウドファンディングで乗り切った地域の小さな遊園地(後編)

コロナ禍によって、営業休止を余儀なくされた新潟県阿賀野市の老舗遊園地サントピアワールド。2011年に経営破綻を経験し、その再建中に、未曾有の危機に向き合うことになった高橋園長が採った手段は「クラウドファンディング」で存続資金5,000万円の支援を呼びかけるというものでした。この支援活動が始まった経緯や、成功に至る過程、そして今後について詳しくお話しを伺いました。<前編はこちら

園長になって「何じゃこりゃ」と驚いた

――8年前に園長に就任するまでは、遊園地などの経営には携わってきたのでしょうか?

高橋:いえ、私は阿賀野市の精密部品などの製造に関わる会社から来たんですが以前に経営数値に関わることもしていたのである程度は分かっていましたが、遊園地経営のノウハウは皆無でした。

ここにやってきていざ数字をみたら「なんじゃこりゃ」となりました。これ成り立つのかって正直思ったんです。そこから、コスト削減に取り組みましたが、その後8年で黒字になるまでも、天候にも左右され赤字と黒字の繰り返しでなかなか軌道に乗らない。そして、僕は売上を150%くらいまでアップさせたのですが、お客さんが増えるとコストも増えてしまうので、利益が上がらないのです。

人口の問題もあります。1970年代にここが安田アイランドとしてオープンしてからこれまでで、新潟県の人口は約9%減っています。特に遊園地にとって重要な5~14歳の子ども達の人口が開業当時38万人くらいいたのが、現在では18万人と半分以下に減っている。この傾向は全国的にみても特に新潟県で顕著です。

このままでは売上を上げるのは相当難しい。今までのやり方は間違っていたんじゃないかと思ったんです。経営の基本に立ち返ると、経営者がコントロールできるのは経費だけで、売上はコントロールできない。そこで、徹底的に経費を管理して何とか黒字化はできたのですが、昨年2期連続で黒字にできるかなというときに、コロナ禍が始まってしまった。3月決算で2月時点では黒字化が確実だったのに、3月の売上が3分の1になってしまいましたからね。

――遊園地は安全も確保しないといけませんから、経費を削ると言っても削れる場所は限られませんか?

高橋:アトラクションが33もある中、電気代・人件費は営業している限り掛かってきます。今日このアトラクションはお休みです、なんてことはできないので、であれば、思い切って遊園地そのものをお休みにしようと、水曜日、木曜日そして悪天候の日は休みます、という具合に休園日を増やしたんです。(編注:降雪地帯に位置するサントピアワールドは、冬季の12月~3月も休業となる)そうやってベースを作ったうえで、今度は「経費をかけないでどうやって楽しんでもらえる仕掛けを作るか」ということを考えて行きました。

――その1つが既存のアトラクションをユニークな味付けで演出を施し、クラウドファンディングに続き、メディアにも取り上げられた「ギリギリアトラクション」というわけですね。

地域の遊園地の「これから」

――クラウドファンディングの成功と、メディアの注目も集めるユニークな取り組みで閉園の危機を脱したサントピアワールドですが、お話しされたように、人口減少、少子高齢化という大きな波からは逃れられません。高橋園長はどんな未来を描いているのでしょうか?

高橋:子供たちをターゲットにした、当然遊園地としてそれは核となるんのだけど、それ自体に注力するととてもじゃないが経営としては成り立たない。だから伝統的な遊園地としてのサントピアワールドを残したいっていうんじゃなくて、サントピアワールドという企業を残すためにどうしたらいいんだってということを考えています。

例えば森のなかに光の演出でオーロラを作るオーロラフォレストだとか、いろんなものを採り入れていかなきゃいけないです。

――遊園地の場所・設備などを活用しながらターゲットの年齢層を上げていくんですね。

高橋:大人の年齢層を狙って色々試行錯誤していくつもりではいます。どういう反応があるのか、果たして来場してくれるのか、運営の方向性を何回か模索しながらやっていかなきゃいけないなと。

(サントピアワールドはJMA:一般社団法人日本マルチコプター協会が主催するドローンレースの競技会場となったり、サバイバルゲームフィールドを整備するなど新しい取り組みを続けている)

――遊園地、特にこういった地方でこういった場所を維持していくことの意義とはなんでしょうか?

高橋:遊園地の存在って。“思い出を作る場所”だと思うんです。親子の思い出とかそういったものを特に作ってほしいなと思うんですよ。

例えば遊園地の思い出と、大型ショッピングモールで親子で買い物してる時の思い出とどっちが20、30年後残ってるかというと、買い物した思い出はあまり残ってないと思うんです。でも遊園地に親子で来たっていう思い出は、「ああ、あの時ジェットコースター乗ったな」とか、「メリーゴーランド乗ったな」とかは残っている可能性が非常に高いと思うんです。

――なるほど。遊園地は思い出となる「非日常」が生まれることを前提とした場所ですからね。

高橋:入り口から子どもたちの顔を見ていると、もう目が輝いてますよね。はなっから今日は遊ぶぞ~って、そういう顔をして入ってきて、帰るときはものすごくいい笑顔をして帰っていく。そういう施設って他では代えられないと思うんです。

親子がそんな共通の思い出を持っているほうが、子どもが親にすぐ話ができたりとか、もし困ったときに相談ができたりとか、そういったことがしやすくなるんじゃないかと。ほんとに困ったことがあったときに同じ思い出を持っていることによって、持っていない人よりは話しやすいんじゃないかと。あるいは友達同士で来ても同じ思い出を持っている友達であれば、より話しやすいんじゃないかとか、そういう事を含めて同じ思い出を持つっていうことの意義ってものすごくあるような気がするんだよね。

――ちょっとアカデミックな言い方をすると、コミュニティを強靭化するための記憶、経験、体験の共有化が行なえる場所、特別な文化資源という風に言えるのかも知れません。

高橋:遊園地の存在意義ってそこだと思うんですよ。

――本日はお忙しいなかありがとうございました。これからのサントピアワールドの展開にも期待しています。

株式会社クボ製作所(精密部品、航空機部品の製作、加工)より2012年7月1日よりサントピアワールド株式会社(2011年10月民事再生手続きをして2012年6月民事再生計画認可決定確定)に入社
2020年5月27日~7月30日5,000万円のクラウドファンディングを立ち上げて5,500万円達成する。


※本インタビューは敬和学園大学国際文化学科の小掠愉未・長谷川勇人と共に加藤雅一氏の協力のもと2020年11月22日に実施した内容を再構成したものです。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。


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