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ITは地方創生の特効薬たり得るか?

今年度から新潟の大学で教員の仕事をするようになり、学年末が近づくこの時期、学生たちの成果発表を見たり、指導する機会が増えています。

学生たちに自ら課題を発見し、その解決策を考えさせるという教育のトレンドは18年に改訂された学習指導要領で「総合的な学習の時間」を置き換える形で設けられた「総合的な探求の時間」という科目によって一層強まっており、高校・大学で学生たちは「発表」を行うことで評価を受けるようになってきているのです。

特に地方においては、「地域の課題解決」がそのテーマに選ばれることも多く、当然ながら高齢化や人口減少、商店街など地域産業の衰退をどうするか、という課題に取り組む学生が多く見られます。そのこと自体はとても良い傾向なのですが、その発表を見ていて毎回「おや?」と首を捻ることがあります。それはITがあたかも課題解決の特効薬のように扱われ、評価者である先生方もそこに疑念を挟まないことです。

例えば、以下の様な提案が「発表会」でよく見られます。

地域に埋もれてしまっている魅力的な○○を、地域の人々に写真投稿サービス(Instagramなど)にアップロードしてもらう。それを見た地域外の人々はそれをシェア(共有)し、やがて地域に観光客としてやってくる。
著名なYouTuberなどのバズ(話題)を喚起できる人々を地域に招き、地域の魅力を断続的に発信してもらうことで、地域の観光資源に光を当てる。

筆者のように、広告・宣伝の実務経験があり、話題喚起に掛かるコスト・リスクがどの程度のものかを知ってる人であれば、「そんなに簡単なものではない」ということはすぐにピンと来るはずです。著名YouTuberを地方に招いて動画を1本投稿してもらうだけで、何百万も掛かることもあると話すと学生たちは目を丸くします。

また、地域の人々が(1)Instagramを使うようになり→(2)ハッシュタグをつけて魅力的な写真を投稿し→(3)それが他の多くのユーザーに共有され→(4)それを見た地域外の人々がその地を訪れる、という行動を起こしてもらうには、それぞれのステップに対して、やはり広告・宣伝活動が必要であり、そこが具体化されていない限りはアイディアは絵空事に終ってしまいます。

つまり「探求」の授業が目標に掲げる「よりよい社会を実現するための課題解決の資質・能力の育成」について、ITという特効薬があたかも存在し、高校生・大学生=若者たちがそれを「扱える」という仮定が漠然とあり、評価者である先生方も「若者らしいフレッシュなアイディアが出てきた」としてその是非にまで踏み込めていないようなのです。

たしかにITサービスを適切に活用すれば、従来よりも効果的に情報発信を行うことができ、地方創生にも貢献できることは間違いありません。しかし、他の情報発信手段と同様、手法が適切でなければ効果を得ることはできません。

どうしてこうなってしまうのか? その答えは比較的簡単に見つけることができます。そもそもスマホの使用が学内で禁止されており、教育の中でITサービスを課題解決のために「実際に」使うということがほとんど行われていないのです。(画像はMMD研究所の2018年調査より引用)

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地域の高校で出張講義を行ったり、関係者にお話しを伺ったところでも授業中に学生にスマートフォンの利用を認めている学校はほとんどないようです。課題解決の場面で頻繁に「特効薬」としてITサービスが提案されるにもかかわらず、授業の中で「では実際にスマホとITサービスを使って課題解決を試してみよう」という展開が行われていないというのが実情です。

もちろん高校ではコンピューターを扱う授業はありますが、「プログラムを組んでみる」「MS-Officeの扱い方を学ぶ」といった操作習得に終始しており、やはり課題解決のために様々なサービスを活用し、その巧拙を評価するまでには至っていません。(引用元は同上)

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学生だけでなく先生方も学校の外で1ユーザー(消費者)として、接する人気ユーチューバー、インスタグラマーの華やかな面だけを見て、ツールさえ活用すれば同様の効果が得られるような錯覚に陥っているのではないかと感じています。

結果として、せっかく「地域課題の解決にITを用いる」というアイディアが絵に描いた餅になってしまっており、「やってみたけれどもダメだった」という残念な結果があちこちで生まれてしまいかねない、という懸念が拭えません。しかし、ヒト・モノ・カネといったリソースが小さくなってしまっている地方においてはITの活用は欠かせないのです。その人材を育成する学校においてもスマホの負の側面だけを見て一律使用禁止とするのではなく、逆に積極的に活用し、指導する先生たちもそこで生じる課題と可能性に向き合って欲しいと思います。その取り組みこそが、本来のITが持つポテンシャルを発揮し、地方創生に活かせる道筋につながると考えています。






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