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コロナ禍をクラウドファンディングで乗り切った地域の小さな遊園地(前編)

コロナ禍によって、営業休止を余儀なくされた新潟県阿賀野市の老舗遊園地サントピアワールド。2011年に経営破綻を経験し、その再建中に、未曾有の危機に向き合うことになった高橋園長が採った手段は「クラウドファンディング」で存続資金5,000万円の支援を呼びかけるというものでした。この支援活動が始まった経緯や、成功に至る過程、そして今後について詳しくお話しを伺いました。

クラウドファンディングはやりたくなかった

――クラウドファンディングのきっかけは?

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(取材に応じる高橋園長)

高橋:2011年に1回倒産して、2012年の6月に民事再生の許可を裁判所からいただいて、翌7月から私はここに来ています。法律上の民事再生は終わっているけれど、金融機関に対する返済がまだ終わってないので、コロナだからと言って、そんなに簡単には融資してくれない。そんな中、コロナ禍でかき入れ時のゴールデンウイークに営業できない可能性が出てきた。

3月末時点で、融資がどれくらい必要かが分かりましたが、これは相当足らなくなるなと危機感を強めました。ゴールデンウイークに営業できないと、大体1億~1億2千万円ぐらい収入が減りますが、8月はある程度(客足が)戻るだろうって思ってたので、そこまでの資金繰りのためには5千万~6千万円ぐらい足りなくなると考えていました。

しかし、その後の感染拡大で今年はずっと営業が難しくなる可能性が出てきて「融資では全然足りない、どうするかな」と頭を抱えました。
 
以前ちょっとだけクラウドファンディングに関わったことがあるので、仕組みそのものは分かってたんです。ただ自分でイチからやったことはない。そこで、クラウドファンディングを何回か阿賀野市で立ち上げたことのある人を知っていたので、すぐに電話したんですよ。何とかならないかっていう話をさせてもらったら、「CAMPFIRE (キャンプファイヤー)がいいですよ」って言われて、彼の力を借りながら立ち上げました。

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――クラウドファンディングの開始が5月27日、つまりゴールデンウィークは終っていて、すでに1億円以上の減収が生じていた。クラウドファンディングが成功していなければ本当に未来がないっていう状況だったのですね。

高橋:実はクラウドファンディングは「立ち上げたくなかった」んです。もう最終的に選択肢がそれしか残らなかったのでやったんです。目標を達成しないのも当然地獄、一方で成功するのも地獄だった。

当然達成しなければ資金が足りないのでイコール潰れるっていうこと。そして、達成を目指すと言うことは、広く世の中に「サントピアが潰れるかも知れない」って宣伝するようなものです。そんな宣伝をすると金融機関も手を引くかもしれない。取引先も(債務が)回収できなければ手を引くっていうこともありうる。結果として応援に回ってくださった方も多くいたんですけどね。

さらに成功しても、こんどはお客様の期待がものすごく大きくなってしまう。というのは、危機を訴えてクラウドファンディングで支援したからには、今後どう変わるんだろうっていう期待を人は持つものだからです。その期待を裏切らないためにはどうしたらいいんだろうということを通常の営業に加えて考えなければいけない。

クラウドファンディング「だけ」ではメッセージは広がらない

――しかし地域で暮らしていると、都会に比べてネットの活用度合いが低いことを実感します。「クラウドファンディング」と言われても「何それ?」という人も少なくなかったのでは?

高橋:スタートですぐ1,000万円は達成しました。すごいと思いつつも、いつこの勢いが止まるんだろうって思ってもいました。勢いが止まっても7月30日の期日に目標額を達成するにはどうしたら良いか、クラウドファンディングが始まって一週間くらいでもうそれを模索しはじめていたんです。

例えば「4,000万までは達成したけれども、1,000万足りませんでした」となったときに、それをどうやって補って、しかも世間に納得してもらえるか、むしろ喜んでもらえるような、その補い方ってなんだろうかと考え始めたんですね。例えばホワイトナイト(他の企業による応援)などですね。でもそれだって、そんな企業を見つけないといけないし、もし企業が見つからなかったらどうするんだと、やっぱり考えてました。

そんな中「クラウドファンディングってなに?」という電話が掛かってきたんです。その問い合わせを受けて、スタッフとチラシを作ることになりました。郵便局で名前と住所を書いて支援ができるチラシですね。(画像はその後、支援者の一人加藤雅一氏が自主的に制作・配布したもの)

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――ついインターネット・オンラインというメディアに関心を向けがちなんですけど、いざ幅広い人に何かを届けようとしたときに、それだけでは届かないっていうのはまた一方で実感しますね。

高橋:チラシ・ポスターを見た人からの直接の募金や郵便局からの入金も大きかったですし、そこからマスコミが取り上げてくれました。少なくとも県内のテレビでは全局2回以上は紹介してくれています。

――しかもその後は全国放送でも取り上げられたりもしました。

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(画像はプレスリリースより引用)

高橋:それはこのクラウドファンディングの支援金を用いて実施した「ぎりぎりアトラクション」のおかげですね(笑)コロナ禍のなか、地域を問わず広く自粛が求められて皆が困っているなか、取り上げられやすかったという面はあると思います。

そして、実際に廃業するところが出ているなか、「遊園地は思い出が詰まっている場所」ということをメディアを通じて再認識頂けたのかなとも思っています。もしこれが無くなってしまったら、みんなの楽しかった記憶の寄る辺もなくなってしまう――それはなんとかしたい。馴染みのご飯屋さんがコロナ禍で、ある日行ったら閉店になってたときの、あの辛さ・侘しさみたいなことですよね。<後編に続く

インタビューイ:高橋修 氏(サントピアワールド株式会社 園長)
株式会社クボ製作所(精密部品、航空機部品の製作、加工)より2012年7月1日よりサントピアワールド株式会社(2011年10月民事再生手続きをして2012年6月民事再生計画認可決定確定)に入社。2020年5月27日~7月30日5,000万円のクラウドファンディングを立ち上げて5,500万円を達成した。

※本インタビューは敬和学園大学国際文化学科学生の小掠愉未・長谷川勇人と共に加藤雅一氏の協力のもと2020年11月22日に実施した内容を再構成したものです。

※この記事は日経媒体で配信するニュースをキュレーションするCOMEMOキーオピニオンリーダー(KOL)契約のもと寄稿しており日経各誌の記事も紹介します。詳しくはこちらをご参照ください。

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