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欠落こそが魅力になる――体験共有時代のコンテンツ消費

これまでの投稿で、地方における不便さ、都会での「当たり前」が存在しないことが逆に魅力になるということを述べてきました。地方の魅力を発信する映画を作る際に、従来の劇場上映や100分超といった枠組みではなく、YouTubeにウィンドウを特化して、尺も30分というコンパクトな物語とした富山県高岡市の「すず」は象徴的な例だと思います。

日本全体のトレンドとしても可処分所得が低迷するなか、地方で大学生たちと向き合っていると、もはやモノを持たずに、しかし上手く日常を楽しむ術を持っているかどうかが逆に価値になっているようにさえ感じられます。それは逆に言えば、そういった技術・手段には投資を惜しまないということも意味しています。

夏休みに学生(女の子5人組)にTRPG(テーブルトークRPG)に誘われ参加したのですが、そのことを再確認できました。TRPGとは、ロールプレイングゲームをゲーム機やスマホのようなデジタルデバイスを用いず、会話で物語を進めサイコロによる確率判定を行う、極めてアナログな遊びです。

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普段はSkypeなどを用いてオンラインで遊ぶことも多いそうなのですが、新顔の私が入るということで空き教室を利用してゲームは行われました。「呪われた学校からの脱出」という比較的短いシナリオだったにも関わらずクリアまでには5時間以上掛かかりました。しかしゲームマスターの手慣れた進行も相まってとても楽しい充実した時間を過ごすことが出来ました。

実は私も中学・高校生のころはTRPGにはまっていた時期もあり、何十年ぶりかというプレイでした。紙と鉛筆、そして複数のサイコロが欠かせなかった当時とは異なり、いまではキャラクターの能力を自動で生成したり、スマホで確率判定をしてくれるサービスがあったりと、かなり効率的にプレイを進められるようになっています。これらのサービスは広告が表示され、無料で利用できます。ただ全くの無料で遊べるわけではなく、これ(↓)こそが「投資」にあたるものになります。

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いわゆる「ルールブック」です。書影を引用したAmazonでも購入可能なこの本は360ページ以上あり(恐らくこの本自体が武器の1つになり得ます)、クトゥルフ神話の独特の世界観の解説、各種ルールだけでなくシナリオも収録されています。お値段は彼女たちが購入する大抵の教科書よりも高い6千円以上する一冊です。

私がTRPGを遊んでいた頃は、正直「オタクな学生が教室の隅で何か怪しげな遊びをしている」と奇異な目で見られていたと思います。しかし、ロールプレイングゲームやテーブルゲームが普及した現在では、そんな偏見の目をむけられることも少なくなったのだと思います。そして会話をベースで進むことで表現力や理解力といったコミュニケーション能力を鍛えることになりますし、複雑なルールを理解し、確率計算に基づいた戦略シミュレーションを行うトレーニングにもなっています。(実際、彼女たちのこれらの能力は授業でも高いということを確認しています)

「モノ消費」時代のコンテンツ消費は、とにかく沢山のグッズを集めその量を競っていたような面がありますが、体験を中心とした「コト消費」が主流となった現在においては、いかに良質な体験を得られるか、また友だち同士で共有できるかが重要です。TRPGのルールブックは決して安いものではありませんが、そういった価値を得られるのであれば投資に値するということになるのです。

これから大学のある新潟は、地元の人が「白い季節」とも呼ぶ雪に閉ざされるシーズンに徐々に入っていきます。そんな中、どんな体験に学生たちが価値を見いだしているのか、引き続きフィールドワークを続けたいと思います。





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