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エイブラハムをかじっただけの男と弟子 その70 いつかビッグな男に

エス太 :ソラ、アイツずっと何してんだ?あの集中力、ハンパないけど、写経(しゃきょう)でもしてんのか?

ソ ラ :あぁ、マッキーさんですか?確かにスゴい集中力で何かを書いてますよね。僕も気になってさっき聞いてみたんですが、どうやらサインの練習をしているみたいですよ。

エス太 :え?サインって、あの、有名人とかが書く、あのサイン?

ソ ラ :そうですね。あのサインです。

エス太 :マッキー自身の・・・?

ソ ラ :そうみたいです。

エス太 :・・・イタイ、イタイイタイイタイ。イタすぎるって。アイツ、今何歳だよ!そんなん、暇をもて余した小学生が休み時間にやることだろっ!!

ソ ラ :しかもですよ、彼、超一般人です。

エス太 :言うな、ソラ。なんだこの、胸をエグられるような感情は。世の中でこんなに悲しい光景があるのか。ソラ、俺は今泣きそうだよ。

ソ ラ :ですよね。いい大人が、自分のサインを考えている姿が、こんなにも切ないなんて・・・。

マッキー:よし、できたっ!!おっエスタ!来てたのか?すまんな、つい集中してて気づかなかったわ。

エス太 :お、おう・・・。

マッキー:調度よかった。今俺のサインが完成したところなんだ。記念すべき1枚目はお前にやるよ。はいよ、サイン色紙だ。

エス太 :マジでいらねぇぇえ~~~。ソラ、どうしよ、断るとアイツ怒るかな?

ソ ラ :本人もご機嫌みたいなんで、ここは貰ってあげましょうよ。断ったら、かわいそうですよ。

エス太 :そ、そうだな。んじゃ、マッキー、貰ってやるよ。

マッキー:そうか、そんなに欲しいか?ほらよ。

エス太 :あの集中力から生まれた作品がこれか・・・。休み時間の小学生以下だなんてとても言えねぇぇえ~。

マッキー:どうだ?いいだろ?

エス太 :あ、あぁ。何て言うかあれだな。うん、とてつもなく、あれだ。味わいとかが、その~、あれだ。なぁ、ソラ?

ソ ラ :え!?えぇ。確かに、これは、とても、あれですね・・・。

マッキー:そっか。だよな!めっちゃいいよな。俺もさ、自分で言うのもなんだけど、めっちゃいいと思うんだよ。

ソ ラ :ちょっと先生、何で急にふるんですか?危なかったじゃないですか!

エス太 :しょうがね~だろ。本当のことなんて、とても言えね~よ。

ソ ラ :ところで、マッキーさん、何で急にサインの練習なんてしてるんですか?

マッキー:そりゃぁ、俺もいつかはビッグな男になるだろうからな~。サインの一つくらい持っておかないとダメだろ。

ソ ラ :マッキーさんは、何でそこまで自分の未来を信じられるんですか?

マッキー:ん?だって、エイブラハムが、夢は叶うって言うから。

ソ ラ :そんな理由でっ!?たったそれだけの理由で自分の未来を信じてるんですかっ!?今、目の前の現実は何も変わってないのに?

エス太 :ソラ、それでいいんだよ。それでマッキーの気分がよければ、それでいいんだ。目の前の現実は、どうだっていいんだ。

ソ ラ :僕にはまだ、そこまで自分への信頼が追いついていません。
きっと、マッキーさんだって、そんなことを周りに言ったら100%笑われますよ。アイツは頭がおかしくなったって、バカにされるでしょう。

エス太 :それでもいいんだよ。周りの声はどうだっていいんだ。いくら笑われても、自分だけが自分を信じていれば、それでいい。

ソ ラ :でも、僕が僕を信じきるまでには、もう少し時間がかかりそうです・・・。マッキーさん、僕にもサインを書いてくれますか?

マッキー:だよね~。やっぱ欲しくなっちゃうよね~。もちろん、ソラの分も書いてます!

それから数日後、エス太の家でみんなで鍋を食べた。

マッキー:エス太・・・この鍋敷き・・・俺のサイン色紙じゃね?

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