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🅂8 支出行動と報酬系回路…

 「A little dough」 第4章 支出して生活する 🅂8

 前回まで、支出判断において認知エラーを引き起こしやすい事例として「ヒューリスティックス」を使うケースを記載しました。その中でも度々登場したのが、「誘惑に反応してしまう衝動」の存在です。もちろん「誘惑」には外的な要因が絡むことが多い訳ですが、それに敏感に反応してしまう衝動的な自分がいるのも事実です。そこでこの厄介な存在の正体を知る為に「報酬系回路」について確認していきたいと思います。

➤報酬系回路とは…
 今までにややしつこいくらいに「メタ認知」という言葉を使ってきましたが、自分自身の行動を意識的に観察していると、もう少し根源的な部分、つまり何かにつけて「なぜそんな行動をとるのか」という疑問がわいてきます。その答えの一つに「報酬系回路」という存在があります。以下の引用は「脳科学辞典」の抜粋になります。

▷報酬系回路
 行動嗜癖(こうどうしへき)と物質依存において、同じ脳内回路の異常が指摘されており、その主なものが脳内報酬系あるいは辺縁報酬系回路(reward system)と呼ばれるものである[3] [4] [5]。
報酬系回路とは、食行動や性行動などの本能的行動を快感として感じることで、行動の継続を図る種の保存のための神経系であるが、②生存のための本能的行動が快感追求だけの目的で行われると、快感追求の継続と反復という嗜癖や依存に強く関わる神経回路として機能する
➂報酬系回路は、中脳辺縁系を中心とするドーパミン神経系(別名A10神経系)からなり、中脳の腹側被蓋野から側坐核に投射するが、側坐核を含む腹側線条体のみならず、眼窩前頭皮質、前部帯状回皮質、扁桃体、海馬、大脳の前頭前野へも投射している。依存性物質や、飲食、性行為などの快情動をもたらす自然の強化因子は、腹側被蓋野から側坐核へ一過性のドーパミン放出を誘発することで、報酬系を活性化させる。
なお、腹側被蓋野は、必ずしも報酬により快感覚を得られる状況だけではなく、報酬を期待して行動をしているときにも活性化するため、日常生活における意欲の向上や動機づけにおいても重要な役割を担う。

 行動嗜癖「脳科学辞典」より抜粋 文中[]については下記リンクを参照
文中太字および番号は筆者

 脳科学辞典というくらいなので、あまりなじみのない専門用語がたくさん出てきますが、言葉は言葉として要はどういう仕組みなのかということをまとめてみます。
 ①まず「報酬系回路」とは「本能的行動を快感として感じることで行動の継続を図る種の保存のための神経系」という説明があります。これは文字通り「私たち人間の本能的行動は、報酬を得ることで継続され、それが種の保存を可能にする」ということを意味しています。ここでいう報酬とは私たちが感じる快感や満足感のことを指しますが、「脳内が活性化している」という状態はこれを含めて、④のように期待感で心拍数が増加しているような状態も指しているものと思われます。
 ②次に「快感追及だけの目的で行われると嗜癖や依存に強くかかわる神経回路として機能する」という側面も記載されています。後段に記載のように「経験をもとにした予測」によっても脳内の活性化は起こりますが、予測誤差の調整や繰り返しによる感覚の鈍化により、更に強い報酬を求める行為が反復される場合があります。こうしたケースでは嗜癖や依存のリスクが高くなります。
 ➂また「活性化」とは「ドーパミン」という脳内伝達物質が中脳の腹側被蓋野から側坐核に投射される状態をいいますが、一方でそれ以外の前頭前野(報酬系回路の抑制に関与)などにも投射されていることから、単に行動促進だけではなく制御面も含めて総合的に機能していると考えられます。
 ④また「報酬を期待して行動する時にも腹側被蓋野が活性化する」とありますので、うまく機能すれば動機付けや意欲の向上などに繋がりますが、悪くすると依存症などの誘因にもなります。予測に対しては結果の誤差に反応し、期待値以上の結果に対しては活性度が高まります。

➤報酬系回路と依存症
 上記①によれば、例えば食品を買うという支出行動は食欲を満たすという本能的行動の代替行為として行っていますから、これによって得られる満足感は報酬系回路が働いた結果ということになります。食品を買うという行為が、その後の食べるという行為を予測して満足感を生成しています。このように「支出行動」は、もともと私たちの欲求(本能的行動)を満たすために行われますから、全般に報酬系回路が働いていると考えてよさそうです。

 また支出が報酬系回路と密接な関連を持っている事例として「買い物依存症」とよばれる行動嗜癖があります。まず「依存症」ついてのWHOの定義を以下に引用します(「よくわかる依存症」(榎本稔著/主婦の友社))。

▷「依存症」WHOの定義
 精神に作用する化学物質の摂取や、快感・高揚感を伴う行為を繰り返し行った結果、さらに刺激を求める抑え難い渇望が起こる。その刺激を追及する行為が第一優先となり、刺激がないと精神的・身体的に不快な症状を引き起こす状態

「よくわかる依存症」(榎本稔著/主婦の友社)

 これを踏まえると買い物依存症とは「買い物に対する異常な執着心から、不必要な買い物を繰り返し、多額の借金を伴うなど通常の範囲を逸脱して買い物による満足感を渇望している状態」ということができます。
 とはいえ、わたしたちが日常的に2~3千円程度の買い物を繰り返したとしても、そこから先に「さらに刺激を求める抑え難い渇望が起こる」ということはありませんし、時々アウトレットまとめ買いをするという方でも同じでしょう。つまり買い物依存症は、ストレスなどが原因となり、買い物による満足感を得る行為がエスカレートし、報酬系回路を自らコントロールできなくなっている状態といえそうです。前述の「よくわかる依存症」(榎本稔著/主婦の友社)では、次の4つを依存症の大きな特徴としています。
①強迫性~ある考えが頭にこびりついて離れず抑制できない状態
②反復性~何度でも繰り返す
③衝動性~思いついたらすぐに行動しのめりこむ
④貪欲性~貪欲に追求し執拗に追い求める
こうした特徴が揃うと、依存症や嗜癖の疑いが高まるということになります。

➤報酬系回路と支出行動
 このように支出行動は、私たちの本能的行動の代替として報酬系回路と密接な関係を持っているようです。またこれは、支出行動によって得られる報酬を求めて「買い物依存症」という行動嗜癖を起こしてしまうことからも、確認できます。
 支出をして楽しいのは、報酬系回路によって楽しさを感じることができるためで、無駄使いの言い訳をするつもりはありませんが、報酬系回路に従順であれば「誘惑と衝動」に身を任せて、多少の散財もやむを得ないということになります。ただ度を越してしまうと行動嗜癖の原因ともなるため、まずはこれ自体を人間の根源的な仕組みと理解し、その上でその仕組みに内在しているリスクをしっかりと認識することが大切だと思います。

※尚こうした脳のはたらきを、わかりやすく詳細に記載されている本としておすすめなもの2冊ご紹介します。興味のある方はぜひトライしてみてください。


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