🅂16 シンプルすぎる結論…

「A little dough」 第５章　貯蓄と投資　🅂15 ポートフォリオ理論(4)

　株式にははそれぞれ個別リスクがありますが、これを消去し分散効果を最大限に取ろうとすると結果的に市場ポートフォリオを持つことになります。市場ポートフォリオの効率的フロンティアは、リスクとリターンの交わるある１点を示すことになるため、見方を変えると分散によって個別リスクを消去することは、リスクとリターンの選択肢をなくすことになってしまいます。

➤CML（資本市場線）とは
　下は、🅂14で掲載した2つの銘柄で作ったポートフォリオとその効率的フロンティア（グラフ上の点YPZ）をグラフで表したものです。

ポートフォリオＡＢのパフォーマンス
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

ポートフォリオABの効率的フロンティア
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

　また下記のグラフは、この銘柄ABによる効率的フロンティア（点YPZ)と、リスクフリーレート（点G）を結ぶ線、つまりCML（資本市場線／Capital Market Line）を示しています。

効率的フロンティアとCML
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

　まず青の曲線（Y→P→Z)は、資産ABの組み合わせによる効率的フロンティアで、これにリスクフリー資産（国債、銀行預金など）を組み合わせるポートフォリオをつくります。点Q（0%のリスクと1%のリターン）が安全資産100％のポートフォリオとなります。この点Qから資産ABの効率的フロンティア上の点P（接点ポートフォリオ）を結ぶオレンジの点線が、このポートフォリオのCML（資本市場線）となります。
　点Qから少しずつリスク資産の構成比を増やす（無リスク資産を減らす）ことでリスクとリターンはともに上昇し、点Pの地点でリスク資産100％となります。従って自己資金で行う投資であれば「点Qから点Pの間の許容リスク、あるいは希望リターンから安全資産とリスク資産の構成比を選択する」ことになります。
　ところでCMLは、点Pより更にリスクを上げていくと、資産ABの効率的フロンティア（P→Z)より同じリスク上でのリターンが高くなっています。これは借り入れによるレバレッジを想定しており、接点ポートフォリオの比率を保ちながらレバレッジをかける方が、リスク資産内の構成比を変えるよりも一定の条件下では効率的であること示しています。

➤意外なほどシンプル…トービンの分離定理
　冒頭で記載したように、個別リスクを分散によって消去した市場ポートフォリオでは、リスク／リターンが１点に集約されますが、これを安全資産と組み合わせることで新たな選択肢が生まれます。下のグラフは、安全資産の金利を２％、市場ポートフォリオのリスク15％／期待リターン10％という前提で作成したものです。

市場ポートフォリオとCML
（引用元: ChatGPT, OpenAI, 2024）

　市場ポートフォリオの効率的フロンティアは分散によって個別リスクを消去した結果、点Pで示されています。安全資産100％の点Qから点Pを結ぶ直線が、このポートフォリオのCMLとなります。CMLは、リスクフリー資産と市場ポートフォリオを結び、その間の異なるリスクレベルに対する最適なリターンを示します。したがって私たちは自己資金を前提にする場合「自分のリスク許容度（0～15％）に応じて安全資産と市場ポートフォリオの比率を調整すればいい」というとてもシンプルな結論に到達します。この理論はノーベル経済学賞を受賞した米国のジェームス・トービンによって提唱され、「トービンの分離定理」とよばれています。また前述の通り、点Pより右側は借入によるレバレッジでリスクを高めた場合を示しています。

　私達個人投資家にとってポートフォリオ理論の重要性は「分散効果」にあるといっても過言ではないと思います。投資を行うためにはリスクをとる必要がありますが、そのリスクのうちボラティリティが高いといわれる個別リスクを回避できるからです。もちろん個別リスクを全消去してしまえば、その分のリスクプレミアムも消去されますが、繰り返し述べている通りその結果リスク／リターンの関係は、より効率的になることがわかっています。
　これについてウィリアム・シャープは「シャープ・レシオ」というポートフォリオの効率性に関する評価ツールを用意しています。この理論は個別リスク（プレミアム）を消去した後の市場ポートフォリオが、リスク／リターンの関係において最も効率的であるという結論を導き出します。次回はこのシャープレシオについて考えます。