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おじさんがおじさんに連絡先を渡そうとしていた

2023/1/12の日記

貧血気味の身体を無理矢理、常磐線に押し込んで大学に向かう。

北千住で、ポローンいうウクレレの音とともに、おじさんが電車に乗り込んできた。
おじさんはポロポロとウクレレを弾きながら「言葉は誤解を生む」と呟いた。

「スタバで赤ちゃんに『可愛いね』と言ったら、警察を呼ばれて出禁になったんですよ。ただ可愛いから『可愛いね』と言っただけなのに。おかしいと思いませんか」

おじさんは1人でぶつぶつ呟いた後、近くでスマホを見ていたおじさんに
「何を見てるんですか」
と話しかける。
スマホを見ていたおじさんは驚いたあと
「一家5人が殺害されたんだってさ」
と告げる。
ウクレレおじさんは
「嫌なニュースばかりですよね、私は…」
と、先ほどの警察を呼ばれた話を繰り返す。

「ハードオフでね、10歳ぐらいの女の子に『可愛いね』って言ったんですよ。私にも11歳の娘がいるから。そしたら店員がいっぱい来てね、『警察呼びますよ』って言うんですよ。おかしいと思いませんか」

スマホおじさんは「うーん」とか「あぁ」とか言いながら面食らいつつ
「とりあえず警察呼んどこうって話になるのよ、なにがあるか分からない時代だからね」
とコメントする。

ウクレレおじさんは明るい顔になり
「あなたは話がわかる人だ。今度お酒を飲みましょう。私が全部おごるから」
と述べ、
「これ、私の連絡先」
と、紙切れを渡そうとする。
スマホおじさんは
「いいよ。私お酒飲めないから」
と断る。

ウクレレおじさんは更に、自分が障害者であること、社長であること、今は人と会うためにちゃんと身なりを整えているが普段はパンツ一丁で過ごしていることなどを矢継ぎ早に告げる。
スマホおじさんは途中
「ぱ、パンツ…?」
とか言いながらも一応話を聞いてあげている。

ウクレレおじさんは再びスマホおじさんに自分の連絡先を渡そうとする。スマホおじさんはそれを拒み続ける。
日暮里に停車した時、ウクレレおじさんは無理矢理スマホおじさんに連絡先を握らせ、下車する。一瞬の攻防(私はスマホを見ていて見逃した)。スマホおじさんは
「困るよ。ったく」
と怒り、空いている座席の上に連絡先を書いた紙をおざなりに置いた。

空いた座席に置かれた1枚の紙が、電車に揺られていく。(見出し画像参照)
誰もその紙を見ようとしない。

最近読んだ宇佐見りんの『かか』で、狂人を見分ける方法を書いてあったことを思い出す。満員電車で両脇に人が座らなかったら、その中央の座席に座る人は狂人なのだそうだ。

上野で電車を降りて大学に向かった。 
大学に着いた時、授業は終わっていた。

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