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映画「PERFECT DAYS」が良すぎた

今更すぎるが、先日「PERFECT DAYS」を観に行った。

本当に、本当に良かった。
この余韻の深さを表すのに「良かった」という言葉しか持ち合わせていないのが悔しいほどに、良かった。

出てくる音楽や小説の素晴らしさも、役者陣の演技も、何もかもが素晴らしかったが、一番食らったのは人生観を根底から覆されたことだ。

私は、動的な人生こそ正義、という人生観を持っている。
自分から動くことで出会いを見つけ、それを育てることで人生の核を作っていこう、というものだ。
したがって、退勤後はひと遊びするし、土日もどちらか一方は必ず予定を入れ、外に出るようにしている。

極端に言えば、毎日変化があることが是で、ルーティン通りに送る生活は味気なくてつまらない、と考えている。
こうした人生を送っていることに何の後悔もないし、たくさん動いているからこそ生活が豊かになっているという実感はある。この人生が正解だとも信じている。

ただ時々、この過ごし方が嫌になる。
毎週予定が入ればいいが、さすがに毎週必ず友達がつかまるわけではない。
それに、退勤後に遊びに行くといっても、時間やお金の都合上、毎回必ず街に繰り出せるわけでもない。
こういう事情が重なり、手帳に空白の日ができてしまった時に、どうしようもない恐れと焦燥感を抱くのだ。

若くて体力があること、自分のお金を100%自分に使えるということから、今の私は人生のなかでかなり恵まれた状態にあると思う。
そんな恵まれた時期の私が、予定もなくひっそり過ごしていることに、大きなもったいなさを感じるのである。
このもったいなさや、そこから生まれる恐れと焦りから目をそらすために、必死こいて手帳を埋めているのが、今の私だ。

そんな中「PERFECT DAYS」を観て、今まででは考えもつかなかった静的な人生の豊かさを知った。目が啓かれた。

この作品の主人公は、トイレ掃除を生業とするおっちゃんだ。
いつも決まった時間に起き、決まったルーティンに沿って日常を送っていく。
その様子が淡々と描かれる。

作中では、日々の暮らしの中のちょっとした変化が、これでもかというくらい丁寧に描かれる。
天気、出勤中に聴く音楽、行きつけのご飯屋さんの混雑具合など、一見取るに足らない瑣末な変化が、大事に丁寧に描かれているのだ。

この様子を見て、いつも通りに会社へ行ったり、休みの日に近所を走ったりする、何でもないひとりの時間の中にも、変化と刺激がたくさんあると気づいた。
変化がない日常なんてものはなく、自分の心性が貧しいがゆえに、目の前の変化を変化と気づけないだけなのだ。

ダイナミックな変化でなくとも、ちょっとした変化ならそこらじゅうに転がっている。それを丁寧に拾い上げることだけで、豊かで満ち足りた人生を過ごせるのではないか。
これが、私の中にインストールされた新たな人生観だ。今までの考え方とは180度異なる。


また、人との関わり方についても啓蒙される部分があった。

最近の私の人生の課題は「コミュニティづくり」で、仕事と家族以外のコミュニティを作ろうと躍起になっている。
ボランティアに首を突っ込んでみたり、とにかく知らない人と知り合いになってみたりと、居心地がよい場所を探そうと日々もがいている。

ただ、そんなに頑張りすぎなくとも、居心地のよい場は作れるのだと知った。
作中で主人公は、さまざまな場所で緩やかなコミュニティに属している。
毎日行く銭湯、休みの日にだけ通う本屋さんや小料理屋さんなど、色々な場所に顔見知りがいる。
そこで彼は積極的に周りの人に働きかけるわけではなく、空気のように自然にその場に身を委ねている。とても居心地が良さそうに。

この様子が、心底羨ましかった。
さまざまな場所に自分を知る人がいて、深入りせずともお互いの様子をちょっとづつ気にかけているというこの状態こそ、私が求めている「コミュニティ」の理想系だからだ。

そして彼は、こうした「コミュニティ」を作ることに精魂を傾けていない。平穏に日々を送る過程で、自然とこれらの関係を築き上げているのだ。
居場所を作るために積極的に行動し、とにかく自分をアピールせねばと躍起になっていたが、どうやらその必要もなさそうだ。ルーティン通りに過ごしていたら、自然と居場所もできてくる。


観終わって私は、人生を頑張りすぎていたことに気づいた。
体力的にも金銭的にも時間的にも、今の生活は全く負担ではないが、たまに精神的に負担を感じることがある。
ので、一旦ここらで頑張りすぎることをやめて、いつもの日常を丁寧に過ごしてみよう。
日々の小さな変化に気づき、よく見かけるあの人に対してアンテナを高くし、心穏やかに毎日を送ってみたい。
そのためには、イヤホンやスマホで自分の世界を囲わず、世界に対して自分の心と身体を開くことも必要だ。ネットの海を漂って世界と繋がった気になるのではなく、近くの外界ともっと接続しろ、私よ。


深い気づきを得られる映画が大好きだが、その観点で考えるとこの映画は、今まで観た中でトップクラスだ。これからの人生の指針になりうる考え方を、たくさん収穫することができた。
今年初めて観た映画でこんなに豊かな体験ができて嬉しい。今年はこれ以外に、どんな映画と出会えるのだろうか。

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