![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/137527307/rectangle_large_type_2_95d480d4895042e8238b8c54a605dc77.jpeg?width=800)
青春が帰ってくる
横浜に、背番号25が帰ってくる。
私は横浜DeNAベイスターズが大好きだ。
スポーツ経験がなく、スポーツ好きな家族がいたわけでもない私が、ベイスターズを好きになったのは2016年のことだった。
当時高校生だった私は、漫画や自校の野球応援などを通じて、高校野球を好きになっていた。そんな私を見て友人が、プロ野球も面白いよと、私をハマスタに連れて行ってくれたのだ。
最初にハマスタで観た試合のことは、今でも鮮明に覚えている。
2016年の8月、対阪神戦だった。井納が先発し、ボロボロに負けた。
思い返すと、人生初の観戦がこんな試合で、よくまあ愛想つかさなかったよなと笑えてしまうくらいの試合だったのだが、初めて味わうお祭りのような雰囲気や、炎天下の下で食べるみかん氷の美味しさ、間近で行われる白熱した戦いに酔いしれ、すっかりプロ野球の虜になった。
その後も、その友人と頻繁に観戦をした。好きになり始めた私にたくさんグッズを貸してくれたり、美味しい球場メシを教えてくれたりと、私が野球観戦にハマるようにたくさん尽力をしてくれた(おそらく、本人にそんな気負いはなかったはずだが)。
その友人が教えてくれたことの一つが、現地での応援だ。
現地で観戦をする野球ファンは、大きく2パターンに分けられると思っている。ひとつは応援歌を歌わず静かに観戦するタイプ。もうひとつは声を枯らして応援歌を歌い、嬉々としながら観戦をするタイプだ。
友人は、紛れもない後者だった。スタメンの応援歌はもちろん、代打の選手の応援歌も完璧に歌えるし、チャンステーマも知り尽くしていた。そんな友人が、外野の応援に合わせて楽しそうに歌っている姿を横目で見て、私も見よう見まねで応援歌を歌ってみた。
その楽しいこと楽しいこと。もともと私は声を出したり騒いだりすることが大好きなので、大声で応援歌を歌い、リズムに合わせて手拍子をすることが非常に性に合った。この、球場ならではの応援の楽しさに、骨の髄までやられてしまった。
とはいえ、球場に行き始めてすぐに応援歌やチャンテを完コピできるわけはない。早く歌えるようになって現地での観戦をもっと楽しめるようになりたいと思っていた。
その私が、一番最初に覚えたのが、筒香の応援歌だった。
とにかくインパクトのある応援歌だった。他の選手の応援歌にはついていない前奏のようなものがあること、前奏で両手を前に掲げるという謎の振り付けがあること、「Go!Go!筒香」に合わせて手で5,5,225と数字を示すことなど、応援歌を知らない私でもすぐに分かる異色っぷりが満載だった。
すぐに覚えられた。そして、歌ってみるととにかく楽しい。他の選手の応援歌よりも一体感を強く感じ、筒香の応援をすることが大好きになった。
そして、それに応えるかのように、筒香は目覚ましい活躍をした。
ヒットはたくさん打つし、ホームランもどかどか打つしと、その活躍っぷりはまさに「横浜に輝く大砲」だった。プロ野球に詳しくなかった当時の私でも凄さを理解できたし、筒香が打席に立つといつも「何かしてくれるのではないか」という期待を感じた。その期待を応援歌に乗せ、声を枯らしながら応援したものだった。
期待に応え、前奏が終わらない段階でホームランを打ってくれることもあれば、期待が実らず三振やゴロに倒れてしまうこともあった。しかし、活躍っぷりがどうであれ、圧倒的な貫禄を備えた筒香を生で観ることができ、大勢の観客とともにあの応援歌を歌って一体感を味わえるだけでも、私は満足だった。
この年のベイスターズはリーグ3位になり、2位の巨人を破って首位の広島と直接対決をした。流石にこの年の広島は強く、圧倒的な負けを喫してしまったが、最後まで奮闘して楽しみを与えてくれたベイスターズを、さらに好きになった。
翌年の2017年に私は高校3年生になり、大学受験に全力を注ぐようになった。
高校入学直後から受験勉強に本腰を入れていた私は、この年に全てを賭けており、あらゆる娯楽やSNSを断って勉強に勤しんでいた。
しかし、そんな中でも野球の動向チェックは忘れておらず、ベイスターズの試合結果を見ることを唯一の楽しみとしていた。
この年のベイスターズは強かった。昨年苦戦した広島相手にも勝ちをつけ、球団史上初の日本シリーズに進出したのだ。
そして私は、ベイスターズを教えてくれたかの友人とともに、日本シリーズを現地で観戦することができた。友人家族が奇跡的にチケットを当ててくれ、私を誘ってくれたのだ。
試合は忘れもしない、7戦中の4戦目だった。それまでの3戦で相手のソフトバンクが勝っていたため、この試合を落としたらベイスターズの優勝はなくなるという、非常にヒリヒリした試合だった。この日は我々の高校で文化祭があったため、文化祭が終わった瞬間に友人と学校を出て、制服姿のままダッシュでハマスタへ向かった。
結果は、ベイスターズの圧勝だった。ペナントレース中に最強だったソフトバンク打線を抑え、0-6で快勝した。
ここで活躍したのも筒香だった。主砲として圧倒的な打撃を見せ、チームを勝ちに導いていた。帰宅後、テレビで試合を観ていた父親が言っていた「打つべき人が打ち、守るべき人が守っていた」という言葉を、今でも覚えている。そんな試合だった。
その後も奮戦したが、優勝することはできなかった。しかし、この日のヒリつきや勝利時の喜び、すごい試合を見せてくれたという余韻は、今でも鮮明に思い出すことができる。受験勉強で手一杯だった私の、この年唯一の娯楽として、個人的にも非常に感慨深い試合だった。
シーズンが終わって年が変わり、私も友人も大学生になった。
それぞれ違う大学に行ったが、連絡を取りあって月一くらいで一緒に球場へ観戦に行った。私もこの頃には応援歌とチャンテを覚え切り、ベイスターズの英才教育を受けている友人と遜色ない熱量で応援できるようになっていた。
この時にももちろん筒香はベイスターズで活躍していたが、そろそろメジャーに行くのではと囁かれるようになっていた。いちファンとして、夢だった大リーグに挑戦してさらに羽ばたいてほしい気持ちと、横浜の大砲としてずっととどまってほしい気持ちが混在していた。筒香の行く末を固唾を飲んで見守っていた。
翌年の2019年に、筒香は海を渡った。横浜生え抜きの選手がメジャーで活躍するのは非常に誇らしい。が、しかし、横浜で筒香を見られなくなってしまう喪失感と、大好きだったあの応援歌を歌えなくなる悲しみは甚大だった。
筒香がいなくても、日本プロ野球の日程はつつがなく進行されてしまう。寂しかったがそれ以上に野球が好きだったので、筒香がいないハマスタにも頻繁に足を運んでいた。いつものように友人と応援歌を歌いながら観戦していたが、やはり筒香のあの応援歌を歌えないことに、どこか物足りなさを感じていた。
時が経ち、世の中をコロナの猛威が襲うようになった。もちろんプロ野球もその煽りを受けた。無観客試合、球場に行けても飲食禁止、声出し禁止など、制限だらけのシーズンが続いた。
私は野球そのものも好きだが、現地で観戦するという非日常感が大好きだったので、正直コロナ禍のプロ野球はほとんど追っていなかった。横浜に牧くんという、なんだか筒香に似た選手が入ってきたなとか、それくらいの温度感だった。
とはいえ、プロ野球への熱が消えたわけではない。
種々の規制が解錠された2023年、過去数年のロスを取り戻すように、ひたすらハマスタに通った。牧くんの応援歌をすぐに覚え、筒香と似た一体感を味わって感慨にふけったり、三浦政権のベイスターズの行く末をひたすらに追ったりしていた。さながら高校生の頃のように。
その熱は今年も続いている。開幕から2週間ほどしか経っていないが、もう何回もハマスタに行き、現地でたくさん試合を観戦している。ハマスタに行けない日も、家のテレビで試合を観て、遠くから応援歌を熱唱している。
そんな時に舞い込んできたのが、筒香復帰のニュースだった。
メジャーを自由契約になった彼が、古巣のベイスターズに帰ってきてくれることになったのだ。あの頃と同じ、背番号25を引っ提げて。
高校生の頃の私は、キラキラした青春時代を送っていない。
そう思っていたが、友人と毎日ベイスターズの話をしたり、放課後一緒に球場に行ったりという当時の日常は、思い出すとどこか輝かしく見える。制服姿でみかん氷を頬張り、スターマンのカチューシャをつけながら応援していたなんて、今考えると非常にキラキラしている。
そんな日常の思い出の中には、必ず筒香がいた。
当時のベイスターズで圧倒的な4番を張っていて、球場に行くといつもその姿を観ることができたし、ベイスターズの話をする時には常に筒香が話題に上がっていた。本人にスター性があったわけではないが、日々の努力が珠玉の結果となり、輝かしい記録を残していた。
そんな筒香の活躍っぷりは、私の青春とどこかリンクする。
思い返してみると、筒香は私の青春そのものだったのだ。
筒香がいない間に、私は成人になり、球場で飲むビールの美味しさを覚えた。
筒香がいない間に、我が家はみんなベイファンになり、一家で観戦に行くようになった。
筒香がいない間に、高校の頃の友人とは疎遠になり、何をしているのかもわからなくなってしまった。
筒香が帰ってくる。私の青春が帰ってくる。
この数年の間に多くのものが変わったが、筒香を待ち焦がれていた私の気持ちは変わっていない。ずっとずっと、背番号25の活躍を見たかったし、ハマスタであの応援歌を熱唱したかった。
それが叶うことが、嬉しくてたまらない。
いつか再び使うと信じて大事に取っておいた筒香のタオルとユニフォームを、今こそ引っ張り出そう。筒香のグッズを身に纏いながら、ハマスタで思い切り彼の応援歌を歌うのだ。もちろん、あの友人とともに。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?