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左官が本質的である理由

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左官という職業が本質的であると考える理由を述べていきたいと思います。 

結論として、『人間自体が自然の一部であり、左官で用いられる材料(自然素材)との親和性を考えると、人間と左官との関係が初源的であり本質的である』と考えます。

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全生命が、『日光、空気、土、水』といった大自然の4つの力で生きていると言われますが、左官はそのいずれとも深い関係があり、『人間は自然の一部である』という考え方にも合致します。 

『日本の壁 / 山田幸一著 / INAX出版』に、左官工事の起源の説明が次のようにされています。 

土(砂混じり粘土)は生活の手段に利用し得る材料として、世界のどこの地域でも最も入手しやすいものである。たとえば、土器は人類が文明生活を始めたごく初期から現われる用具であるが、およそ古代人の遺跡のあるところには、必ずといってよいほどその遺物が発見されている。 その土をナマのままで建築に利用しようという技術が左官工事の起源に他ならない。したがって左官工事は建築関係のあらゆる技術のうち最も古いもののひとつで、しかも土器と同様きわめて普遍性の大きい技術である。もっとも、その普遍性は必ずしも材料入手の容易なことだけに起因するものではない。左官工事には可塑性*、展伸性*という現代の新建材をもってしても代替することのできない優れた特徴があるほか、耐火、耐水、断熱、遮音、吸音といった建築材料として要求される諸性能を一通り具備しているからであり、これらの特徴、性能が世界各地において数千年来一貫して左官工事が用いられてきたいま一つの理由である。

 *可塑性とは現場の実情に応じ、いかに複雑な形にでも自由に成型できる性質。展伸性とは、いかに広い面積であっても継目なしに仕上げることのできる性質。 

昨今、人間によって完全にコントロールされた人工素材が一般的になってきて、施工性や経済性の面で大きな貢献を果たしています。

一方で、『人間は自然の一部である』という考え方から見ると、人工素材が人間との関係において距離があり、どこか不自然な存在として捉えられるように思います。 

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2015年に所員として所属してた六車工務店+六車誠二建築設計事務所一同でインドにあるスタジオ・ムンバイの現場に赴く機会がありました。

その際、帯同いただいた日本人左官太田さん、現場のインド人左官集団を指導するスイス人左官さん、現地のインド人左官さんたちで、各々の技法で仕上げのスタディーを作成する様子を見学しました。

そこには自然素材に対して頭と手を使い、自然の一部である人間が自然の素材を扱い、同化しながらも素材を通じて言語化以前の会話が成立していたように思います。

本質的な高揚した感動があり、どの仕上げにも人の手による魅力的な表情が見て取れました。 

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左官の魅力は、自然素材とのやりとりに尽きると考えます。

そのやりとり自体は、人間本来の本質的な存在であり、今後も現代にあった形で、居住環境の選択肢のひとつとして残しておくべきものではないでしょうか。

設計、左官、古民家改修等、日々の活動から得た考えや気づきを共有させていただけたらと考えています。