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寺山修司(85歳)、アイドルグループをプロデュースする! その名も…「TRY48」

 えっ! 寺山修司は1983年5月に亡くなってるはず。享年47歳でした。それがアイドルグループをプロデュース? マジか…と。

 寺山は昭和10年(1935年)生まれ。美輪明宏や倉本聰、大江健三郎と同い年。石原慎太郎より3歳下、筒井康隆や田原総一郎より1歳下…存命なら85歳、現役で活動していて何らおかしくはない。短歌や詩、演劇、映画、評論、競馬エッセイ…と元祖マルチ・クリエイターでした。『書を捨てよ、町へ出よう』『家出のすすめ』等の青春論を読まれた方もいらっしゃるでしょう。若者たちの教祖にして、サブカルチャー…いわゆるサブカルの原点的カリスマで、稀代のスキャンダリスト、何より世を騒がせる超絶に面白い人物でした。
 没後30年の2013年に出た記念ムック『寺山修司の迷宮世界』に私は「もし寺山修司が、いま生きていたら」と題する一文を寄稿しました。寺山が生きてたらツイッターやインスタグラムで演劇をやったんじゃないか? いや、アイドルグループをプロデュースしたかも…そう、TRY48(ティー・アール・ワイ・フォーティエイト)だ! というオチだったんですが。その記事の画像を添付します、見てください。

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 イラストでオチを思いっきりネタバレされちゃってます⁉︎ これは参ったな。とはいえ、なるほど寺山プロデュースのアイドルグループ「TRY48」はよほどインパクトが強く、イラストレーターさんも思わず絵にしたくなったんじゃないか? えっ、おい、ちょっと、待てよ…ひらめいた! そうか、これを小説にすればいいんだ‼︎ …突如、インスピレーションが舞い降りた瞬間でした。
 寺山のお弟子さん的存在で、高取英という人がいます。月蝕歌劇団という劇団を主宰されており、長く親しくさせていただいていた。私は公演にご招待されてよく拝見しました。2014年2月の『寺山修司の万華鏡世界/家出のすすめ』という阿佐ヶ谷ザムザでの昼公演を観劇後、高取さんに年配の女性を紹介されました。「中森くん、こちら…九条今日子さん」…えっ、寺山修司の奥さまだった方です。高取さん、九条さん、何人かの方々と阿佐ヶ谷の昼営業のバーへと流れて歓談。九条さんは寺山と同い年、当時78歳でしたがとても若々しく、昼間っから水割りを何杯も飲まれ意気軒高でした。私が先の寺山ムックに書いた一文のことを話すと「ああ、あれを書いてくださった方なの? 面白かった!」と九条さんは微笑みました。『TRY48』という小説を書きたいんですよ、九条さんにご許可をいただきたいのと、寺山さんのこと、いろいろお訊きしたくて…と私が言うと「あら、いいわよ。いつでも話しを聞きにいらっしゃいよ」と快諾してくれて、お名刺をいただきました。
 それから2か月後、九条今日子さんの訃報を聞いた。ガツンと殴られたようでした。お通夜に駆けつけ、ご遺体に手を合わせて「九条さん、お約束した小説は必ず書き上げます」と心の中で声をかけました。あれから7年の歳月が過ぎた。小説『TRY48』のことを「どうなった?」とずっと気にかけてくださった高取英さんも3年前に亡くなりました。ああ、もっと早く書くべきだった…と後悔しきり。
 寺山修司は巨大な存在です。著書だけでも膨大にある。また寺山を論じたもの、関連書も数知れず、いまだ毎年、新たな本が何冊も刊行されています。それらに目を通し、さらに映像・戯曲・音源をチェックする…気が遠くなる作業です。こつこつと資料にあたりながら、ああ、これはもう無理かも…と一瞬、弱音を吐きました。
 事態が急転したのは、昨年春のことです。緊急事態宣言が発令されました。そう、コロナ禍です。めっきり外出することも人と会うこともなくなりました。私は一人暮らしの文筆業者です。家で一人で仕事をしています…が、それでも行きつけの呑み屋へ顔を出したり、知人らと会って歓談したり、映画関係の若い仲間が増えたので、映画館での上映後のトークイベントにゲストで出て、居酒屋に流れて朝までわいわいやったりと、楽しい時間がありました。それもパタリと途絶える。ひたすら外出自粛生活、誰とも会わない、話さない日々が長く続くと、さすがに鬱々とします。私はもう61歳、前期高齢者です。体調も良くなく、あちこちガタがきている。もし、コロナに感染したら…と恐れました。いや、相当にヤバい…正直、命の危険を感じます。一人暮らしで、倒れたりしたら、誰も助けてくれません。年齢的に言っても、人生の残り時間もそう多くはないでしょう。さて、自分は今、いったい何をすればいいのか…。
 小説を書こう、と思いました。九条今日子さんや高取英さんに約束していた寺山修司の小説を…そう、『 TRY48』を。幸いにして、コロナ禍であっても小説を書く作業は、自宅でたった一人でできます。それからは、もう無我夢中の日々でした。溜まった寺山の膨大な著書や関連資料の山を枕元に積み上げ、ひたすら読み耽り、ひたすら考え、ひたすら執筆に努めた。必死でした。ともかくこの小説を完成させるまでは、なんとしても生き抜こう…本当に、そんな想いでした。それは猛烈に大変で、猛烈に刺激的で、猛烈に充実した日々でした。正直、この小説を書いていなければ、長く続くコロナ禍の日々をたった一人で耐えられたかどうか、わかりません。
 何より、この小説はまず自分を励ますために書きました。10代半ばで上京して高校を中退して家出していた日々…読んで励まされたのが、角川文庫で次々と出た寺山修司の本でした。寺山の挑発的な散文は、若い私に刺激をくれた。寺山本人と会う機会はなかったけれど、83年5月の青山葬儀場での告別式には私も駆けつけました。寺山修司はめちゃめちゃ面白い人物だった。寺山が亡くなり、世の中がつまらなくなった。もし、寺山が生きていたら、今、どうするだろう? 小説を執筆しながら、寺山修司とずっと対話している気分でした。
 そうして、およそ一年をかけて、小説は順調に書き進み、なんとようやく完成のメドがつきました。やったぁ〜! これまでに無い爽快感。自分の持てる力を振り絞った。ともかくブレーキを掛けるのはやめよう、何の邪心も忖度もてらいもなく、ひたすら、ただひたすら面白い小説を書こう…そんな一心で突っ走って書いている小説です。我ながら、これは何かを突破したんじゃないかな? と思いました。
 さらにこれを書き進め、手を入れブラッシュアップした上で発表します。文芸誌「新潮」12月号(11月6日発売)に第一章が掲載、連載小説です。第一章が2万字以上の分量があり、毎回各章ごとに独立して読める体裁ですので、ぜひ「新潮」を手に取って読んでいただきたいです。

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 思えば、私の小説「アナーキー・イン・ザ・JP」が一挙掲載されたのが、「新潮」の2010年5月号でした。百年前のアナーキスト・大杉栄の魂が現代の17歳の少年の脳内に甦り、大暴れする…この小説は幸いにも評価を得て三島由紀夫賞の候補にもなりました。その後、いくつかの文芸誌から小説執筆依頼の声をかけていただきましたが、「アナーキー・イン・ザ・JP」に続く小説は書けなかった。なんと11年ぶりの純文学雑誌に掲載の小説です! 「新潮」といえば明治37年(1904年)創刊、今も続くもっとも歴史ある文芸誌です。創刊117年! 太宰治「斜陽」や坂口安吾「堕落論」、三島由紀夫「金閣寺」も載りました。そんな歴史と伝統ある純文学の総本山雑誌に中森明夫の「TRY48」が載る。いや〜、感慨もひとしおです。いまだパソコンも持たず、手書き執筆の私がガラケーでツイッターを始めたのが、11年前、『アナーキー・イン・ザ・JP』刊行時に「新潮」の矢野優編集長の強い勧めによってでした。あの小説を発表したこととツイッターを始めたことで、私の50代の人生は劇的に変わりました。今回の「TRY48」も矢野さんに担当していただいたことは、とてもうれしく本当に光栄です(新しい小説のことをもっとも本気で考えてすべての労力を費やしている、最高の文芸編集者です)。11年前のツイッター開始以来、今回もまた何か新しいことをやりたい。そういう想いで、このnoteを始めることにしました。なんだか新鮮な気分です。20歳の頃からずっと文章を書くことを仕事にして生きてきましたが、(原稿依頼も締め切りもない!)こういう文章を書くのは初めての経験です。
 さて、ツイッターで8年前に声をかけてくれたホリーニョ(@horinyo)…朝ドラ『あまちゃん』のファン組織「関西あまちゃんオフ会」主宰…が何かと私を励ましてくれ、助けてくれます。今では大切な友人です。ホリーニョにはいち早く「TRY48」の第一章を読んでもらいました。そうして、なんと…なんと素晴らしいイラストを描いてくれた! いわゆる「あまちゃん」のファンアート「あま絵」ならぬ、85歳のテラヤマを描いた「テラ絵」です。すごい!

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 さらに物語に登場する、アイドル志望の少女ユリコと天才メガネ少女サブコのかわいいイラストも…素晴らしい。ありがとう、ホリーニョ‼️

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 なんだか自分の書いた小説のキャラクターが、姿を持って現れ、血が通い、その声や鼓動や息づかいが聞こえるようです。甦った老・寺山修司や物語の中の女の子らは、この危機的なコロナ禍の一年間の私を救ってくれました。それが活字化されて世に出て、未知の人々に読んでもらえることを考えると、ワクワクします。寺山の本に出逢った少年の頃、初めて雑誌に文章を書いて発表した…若き日のような気分です。残りの人生、思いっきり書きたいことを書いて、やりたいことをやろう! 今は、そんな気持ちでいっぱいです。
 ぜひ「TRY48」、読んでください‼︎

追記(2021・11・10)=なんと「TRY48」第1章が無料で全文公開されました!

https://www.shinchosha.co.jp/shincho/special/try48/

ぜひ、ぜひ…😄👍

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