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|回|(20xx+0)年11月 回る鎖鎌と藤四郎

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藤四郎が洋燈で週刊誌を読んでいると、葵さんが突然疑問を挟んでくる。
『これって、本当に強いのかしら、、、。』
葵さんの指さしたイラストは、野盗が、某剣豪に鎖鎌で立ち向かっているところだった。
藤四郎は頭を搔くと、、、。
『剣術相手だと結構厄介だったようだなー、でも素手でだったら俺でもこれと戦う方法知ってるぞ。』
葵さんがうれしそうな顔をする。
『え、本当?どうやるの?どうやるの?』
誠志がため息をつく。きっとまた俺の出番だな。
、、、そして、誰もいない神社。
藤四郎の手には、縄跳びを改造して鎖鎌っぽくしたもの。
なんだかよくわからないが、いつもの成り行きで誠志は藤四郎に鎖鎌の使い方を伝授されて、いよいよ準備が整ったところ。
『これでいいだろ』
藤四郎が誠志から距離を取る。
『当たっても怒らないよね?』
相手をするからには、藤四郎をとらえたい。頭の上で、縄跳びの取っ手の片方を時代劇のようにブンブンと回す。
『気にすんな、思いっきり来い!』
藤四郎が、誠志から5メートル程離れて誠志と向き合う。ギャラリーの葵さんはシャープペンシルとノートを片手に二人を眺めている。
『じゃあ、行くぞー?』
最初、軽く走り込んできた藤四郎が、3メートル程の距離で急に加速して姿勢を低くする。
『(ヘッドスライ、、、あ!前回り受け身!?)』
体を投げ出した藤四郎の右肩が地面につくかつかないかのころに慌てて縄跳びを振り下ろすが、とても間に合わない。
前転した藤四郎は、勢いも無くなりきらない内に左ひじと、くの字型に曲げた左足で体を地面に固定して鋭い蹴りを、、、途中で緩めて、誠志の右膝をポンっ、と足で軽く圧す。
そして、空振りした縄跳びが、コツンと地面をたたく。
『な?簡単だろ?』
、、、だよなー。だよなー。地面すれすれだったら、重りの部分は当たらないし、紐の部分が当たっても威力なんてほとんどないよなー。
熱心にメモを取る葵さんをみて、また藤四郎にしてやられたな――と思う。
“武道に必殺技はない”
どこかで、そんな言葉を聞いてそれが自然のように思ってきたが、藤四郎はなんだか必殺技っぽいのをたくさん知っている。
『(まあ、僕の体力だったら、不意打ちしても大きなダメージにはならないんだろうけどね)』
そんなことを考えながら、藤四郎の見よう見まねで、こっそりアパートで藤四郎の真似っぽいことをやり始めてから、度胸が据わってきたような気がしていた。何だか、ひねくれていた部分が解消して、純粋に善をほめて、悪に対しては批判し、悪の側にたって弁解してしまう事だって減ってきたし、体もちょっとしまった気がするし、、、。
『俺が鎖鎌やってみるか?』
藤四郎が誘ってくる。
『この服じゃ、飛び込むのはできないなー。』
誠志は自分のカーディガンを羽織ったYシャツにゆるゆるに結んだネクタイの、誠志お決まりの服を指さす。
『上着脱いじゃえばいいのに、、、って、ズボンもそれじゃまずいか』
下は、スラックスで、全く運動することを考えていない自分自身の服装をちょっと悔しく思った。こんなことなら、藤四郎みたいな、動きやすい服装をするのも悪くないな。
『アントニオ猪木も、このぐらいやれよー!』
藤四郎が、なぜかプロレスラーの名前を出す。
微かな笑い声と、葵さんのシャープペンシルの芯がパキッと折れる音がした。

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