ゲームの競技性、バランス調整

最近、などと言うまでもなく、eスポーツは確実に市民権を得た。
今や一般プレイヤーにとっても見るだけでなく、その体験を味わえるものとなっている。

しかしゲームはあくまでゲームであって、その遊戯性を超えた競技性があるかどうかには疑問が浮かぶことが多い。99%のプレイヤーはプロを目指すわけでもない、趣味の領域であるから気にしなくてもいいはずだが、今一生懸命プレイしているゲームは果たして努力をする価値があるのか、または裏切られる可能性といった不安を抱えながらは楽しめない。

私は昔『World of Tanks』というゲームにどっぷりハマり込んだことがあるが、今思えば、あのゲームに費やした時間は無駄だった。ただ娯楽的に楽しかったことは良かったのだが、対人ゲームとして勝利を追い求めた時間は完全に無駄だっと言える。なぜならあのゲームは競技性が無く、調整もよくなかったからだ。大げさに例えると、一見楽しいように感じたゲームに対する攻略行為の正体は、サイコロを如何にして振ると6が出るのかという荒唐無稽な研究だった。
勝つことだけが全てではないが、どうせ努力するなら別の対象にしておけばよかったと後悔した。

では一体どのようなゲームこそ、努力する価値があるのか?


将棋こそが最も完成されたゲーム

全てのゲームが行き着く先は将棋であるべき。加えて、各ゲームの調整とは、意図的にメタを変遷させるのではなく、将棋のような完成されたゲームバランスを目指すべきである。(残念ながら現実的には、調整が「完了」したゲームは遊ばれなくなる可能性が高いのだが……。)

では将棋はどの様に優秀なのか?
現代のeスポーツタイトルになぞらえ、そして共通するところは以下三つの要素にて解説出来ると考えた。
三つの要素とはAA、ult、戦略だ。
この三つが良いゲームは競技性があり、調整も上手く行っている可能性が高いのではないか。

(※余談だが、先に述べた現実問題のように、全てのゲームが将棋のようなルール、システムを目指せるかといえばそうもいかない。なぜならゲームはビジネスだから。売れるためには、将棋は超骨太すぎてプレイヤーを集め続けることは出来ないだろう。将棋が今尚この様にして存在しているのは「歴史」のお陰である。そう、崇高だが地味でプレイヤーが極少数の極太ゲームでも、100年も運営を続ければ立派なeスポーツとして愛されることになるだろう。その前に運営が倒産する可能性を除けば。)


AAとは? ―最も地味であり、最も重要。―

「AA("Auto Atack" オートアタック)」とは、低火力、そして地味であるゆえ、それだけを使って勝てるわけではないが、相手の必殺技をも制する可能性があり、またプレイスタイルを問わずほぼ全員のプレイヤーに使用を強いられる重要なアクションのこと。

将棋において「AA」とは、「歩」を差すことと考えていいだろう。前に1マスのみという限られた移動能力だが、これを如何にして使いこなすかが勝負の鍵となる。

MOBA(というか『LoL』)では文字通りAAが「AA」である。まずそもそもLoLとは、誰しも頷ける世界一のeスポーツタイトルである。その世界一たる理由は、ゲームバランスが良く、競技性が高いからだ。『LoL』は今や140を超えるキャラクターが存在するが、それでもバランスを取り続けているのは、どのチャンピオンにも共通したアクションである「AA」という存在が大きいと考える。
LoLでは新しいキャラクターが出るたびに、驚くような過激なスキルが実装されるが、どのキャラクターも「AA」は殆ど一貫してヒョロヒョロしたパンチやビームである。まさに「歩」のような存在だ。
「AA」は地味なアクションだが、ゲーム内においての1v1やウェーブコントロールなどといった、勝利に繋がる重要な行動には必ず「AA」が絡んでいる。

FPSで例えると初期ハンドガン、格闘ゲームでいえば小P、Kがこれにあたるといえるだろう。これらが優秀な調整をされているゲームは、あらゆる調整の元となる基礎がしっかりしていると判断できる。
逆に言えば、この部分の調整をコロコロ行っているゲームは、まだ根幹に悩みがあると考えられる。


ultとは? ―勝負を決定づける大技。―

「ult("ultimate" アルティメット)」とは、数分おきに一度、そして1ゲームにおいて2,3回使える大技を指す。
その能力は強力であることに間違いはないが、使える機会が少ないため、失敗するとそのスキに漬けこまれたりしてハイリスクハイリターンな側面もある。そして強大故に使い方が通常能力よりも難しく、プレイヤーの習熟度が特に試されるパターンも多い。とにかく何にせよ大局面を創出する花形の装置である。

将棋においては、例えるのは難しいが、龍そして馬が「ult」という存在に近い。相手の陣地にこちらの駒を進めることは難しいが、決まれば大きなリターンを得られる。逆に失敗すれば、強い駒を失った上に相手に渡してしまう。

「ult」のデザインが美しいゲームは多い。やはりゲームを飾る花となるため、プレイヤーにとって刺激的な体験となるようデザインされているゲームが多い。
最近だと『VALORANT』の「ult」デザインは素晴らしいと思った。使えば戦況を有利に持ち運べることは間違いないが、ポチッと押せば勝てるほどではない。使うタイミング、または使った後の行動がとても重要になる。(例えば『Overwatch』ほどの「ult」を外した時の絶望感は無い。)


戦略とは? ―勝利へと繋げる行動―

「戦略」とは、勝利条件から導かれるプレイヤーの行動指標を指す。

将棋では、王(玉)がお互い対象に中央奥に存在するというのが「戦略」である。相手の駒を取る、陣形を組むなどの全てのアクションは、相手の王が中央最奥にあることによって導かれている。言い換えれば、強い陣形を組むことが勝利条件ではない。相手の王を取るという最終目標に到達するために強い陣形を組むのだ。

「戦略」のデザインは良し悪しに加えて、分かりやすさが重要となる。しかし残念ながら、現状において人気なesportsはこれがとても分かりにくい。例えば『LoL』における「戦略」は、相手のネクサスを破壊することと、そのためのレーニング、集団戦、オブジェクト奪取といったアクションだが、これは理解され辛いと言える。多くのアクションが複雑すぎて、一見孤立したミニゲームの集合のように見える。ゲームに慣れてくれば、それぞれのアクションが結びつき、長い目で見た「流れ(=戦略)」を理解できるようになるが、そこまでなかなか辿り着かない。要するに『LoL』は将棋のように骨太なのである。
一方、『ストリートファイターV』などの格闘ゲームは、画面上部に常にかなり目立つように敵と自分の体力が表示されているので、「戦略」が分かりやすい。相手の体力を0にするという勝利条件と、そのためのアクションを起こしている理由を忘れづらい。シンプルな例で、波動拳を一生撃っていても、ガードされ続けていた場合は相手の体力バーが減らない。そこでこのままでは勝てないと気付ける。
この例えはあまりにもシンプルで初心者向けなことの様に思えるが、他のゲームではこの悪い現象がよく起こる。『LoL』では一生クリープを漁っているjgだったり、『Apex Legends』で一生武器を漁っていたりするプレイヤーが多発する。やはり「戦略」が難しいと、孤立したアクションばかりをこなすようになってしまう。


最後に

とにかく私が言いたいのは、冒頭で述べたような『wot』の悲劇を起こしたくないということだ。その悲劇が今まさに『Apex Legends』で起きているような気がしている。果たしてこのゲームにのめり込む価値はあるのだろうかと……。

しかしそれでも、努力する価値があるゲームが必ずしも最高のゲームであるとは思わない。競技性を求めた末に、ランクの数値ばかり気にしているようではダメだ。何事もまず「楽しい」という要素が一番重要だと思う。今日の投稿は、ゲームを楽しむことを忘れないための記事だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?