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終わった恋の、正しい始末のつけ方

「本当の愛」というものを知らないくせに、大きな口を叩きますがね。

大人になると、時々、常軌を逸した失恋を経験してしまうことがあるじゃないですか。

あれ、なんとかならないもんですかね。

「あの経験をして良かった」

そんな風に思えるのは少なくとも数年先で、あいつに似た姿を街中で見かけるだけで、普通にパニックになりますからね。

「可愛い私を見ろバカ後悔しろ死ね」という思いから、SNSをアヒル口の自撮りアイコンに切り替えてしまいますからね。

その人の名前によく似た駅や、土地を通過するごとに、白目を剥きたくなりますからね。

もう、会えないのに。

お酒を飲んでしまえば「あいつに連絡を」と思ってしまうので定期的にお酒は控えなきゃいけないですし、その恋のテーマソングにしていた曲を聞けば条件反射で記憶が蘇り、どこにいてもエビ反りをしてしまいますからね。

「恋_終わらせ方」とググってみても、「失った恋の傷は、新しい恋で癒やすしかない」という謎クソコピペサイトのURLしか出てきませんしね。

もう、会えないのに。

人の心というものは、おかしなもの。

数年前、つまらない失恋をしたことがありました。

詳細を書くほどのこともないけれど、お相手は才能溢れる方で、芸術や表現や、そちらの世界で生きておられる方でした。

今でこそ「どうでも良い恋ナンバー1」の座に輝くほど、どうでも良いのですが、その時は一大事でした。

(補足しておきますが、彼の人間性を否定しているわけではありません。あくまで関係性の話)

私は彼との関係性を全て断ち切り、彼といた時の自分の人格を捨て去り、髪をベリーショートに刈り上げました。

それでも”恋の病”が治らない私は、彼に連絡がしたくてしたくて。

その時、事あるごとに私は親友のAちゃんに「辛すぎて頭がおかしくなりそうだ」と連絡をしておりました。

ある日、見かねたAちゃんが、

「そんなにその男に連絡がしたいのなら、今度から私のことをその男だと思って、連絡してこい」

と、無茶を言うものですから、まったく意味がわかりません。

AちゃんはAちゃん、彼は彼。

代わりになるわけがありません。

Aちゃんが言うには、こういうことです。

「彼に向けて今まで言いたかったこと全部、言えなくて苦しかったこと全部、これから私に連絡してこい。私が、彼と同じ口調で返事をしてやる」

と言うのです。

こいつはいよいよ、私の負のオーラを受けてAちゃんの頭も狂ったのかな、と思いました。

けれど、仕方がないものですから、彼の顔や特徴や性格、口癖や文面の特徴まで、Aちゃんに全て伝えました。

私は「本当に良いの?」とAちゃんに念を押しましたが、「いいからそうしろ」と言うのです。

そこから”役作り”を終えたAちゃんに、私は彼と最後まで答え合わせできなかった気持ち、伝えたかったこと、他愛もないことを、日々粛々とメッセージで送っていきました。

  私「あの時は素直になれなかったけど、本当はわりと好きだという気持ちを、もっとダイレクトに伝えたかった」

  私「いつかカフェで待ち合わせした時あったじゃん? あの時、伏し目がちになった君が、世間ではブサイクに分類されると思うけど、かっこよすぎて本当は卒倒しかけた」

 私「君が時々マジで変な服を着ていた時げんなりして、一緒に歩くのが恥ずかしかった。ただ、あの青い服を着ている時はかっこよかったから、これからもあの服は捨てないで」

私「時々、髪が顔にかかって、あれはめっちゃ変だからやめたほうがいい。今度からはワックスでしっかり前髪をあげて、かきあげたほうがいい。アリミノのスパイスワックスを使え」

そんな風に、すべて私の一人舞台、オナニーのように成仏しきれなかった思いをAちゃんに吐き捨てていきました。

そのたびAちゃんは、

「俺も素直になれなくてごめん。あの時は嬉しかった」

「そんな風に思ってくれてありがとう。OK。あの服は、捨てない。あと、前髪は気をつける」

「あの時のオマエ、可愛かったよ。ケツはでかかったけど」

「余計なお世話だバカ。でも、ありがとう」

など、彼の口調を真似して返信をくれたのです。

お互いに、頭のおかしいことをしている実感はとうにありました。

それに、彼のニュアンスを最大限コピペしても、細かなディティールは変なので、Aちゃんが完璧なる「彼bot」になることは、いよいよありませんでした。

それでもあの時、私はAちゃんに救われたのです。

Aちゃんは、出血が止まらない私の心の状態をどうにか止血してくれて、辛すぎる私の気持ちをラップにくるみ少しずつ捨ててくれました。

Aちゃんによる突然の「なりきり心理療法」は、私に様々なことをもたらしてくれました。

伝えたい相手に、どうにもこうにも”本当の気持ち”が伝えられないことが、大人になると多々あって、私はそれが、いつも苦しいのです。

でも、せめて。

当事者ではない誰かに、その思いを聞いてもらうことが出来たなら、人は救われるのかもしれません。

それがたとえ、「なりすまし」であっても。

Aちゃんのトチ狂った英断に、私は、今でも心から感謝しています。

最後にひとつ、興味深い話を。

ある脳科学者の実験によると、女性は恋人と別れた後、その人のことを「完全に過去の人」として判別すると、その男性のことを「亡くなった人と同じフォルダ内」に脳内で分類する生き物らしいですよ。

あれだけ苦しい思いをしたあとも、一旦どうでもよくなると心からどうでもよくなるのは、過去のものとしてしっかり引き出しにしまわれているからなんですね。

いつか誰かに聞いた話なので、クレームは受けつけませんが、今日も元気に生き抜くしかありません。

それと、今日もどこかで、しんどい思いと戦っている人。

それ、私も経験ありますから、だからあなたも生き抜いて。

さようなら。

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ライター/タレント。日本テレビ系ドラマ『野ブタ。をプロデュース』で女優デビュー。数々のドラマ・映画に出演後、2010年、秋元康氏プロデュースSDN48として活動。2015年、しらべぇ編集部に入社。PR記事作成(企画〜執筆)を担当する。2018年、フリーランスライターとして独立。

コメント6件

その友達ええやつや。。泣けるね。そしてあなたの素直な言葉にわたしも昔の恋思い出して泣けそ。
わたしも馬鹿みたいに10数年たっても忘れられない恋があるよ、苦しかったけどでもだんだんと思い出して泣けるくらいの心に引っかかる恋ができたことが良かったって思ってきてる。あなたの文が大好き。
Aちゃん、大好きです。そんなお友達もってて、うらやましいです。それから、そんな、いなくなって、ハートが血を流すほどの恋ができてうらやましい・・・。
ほんと、サイコーの友だち。そんな友だちがいるのはサイコーです!
グサッときました…
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