きものリアルクローズ 4
半衿の縫い方には道理がある
年に2度ほどきもの箪笥の整理をしますが、なんとなく無視し続けてきたものがありました。長襦袢の引き出しの一番下にこっそりとあった礼装用の長襦袢。きものを着始めた頃、礼装用だけはうそつきではいけないとわかっていたのでしょう。お茶会や披露宴の時には、この長襦袢を着ていました。
先日、そおっと開いてみたら、嗚呼、タイムマシーン。過去の、あかん私がありありと見えてきたのです。教本を読んだのだか、うろ覚えのままやったのだか、定かではありませんが、半衿の縫い方が表裏反対なのです、内側はきちんと折り込んで丁寧に塗っていて、外側は裁ち落としを見せたままざっくりと縫っている。上からきものを着てしまえば、まあ気にならなかったのでしょうが、畳んで収まった姿は美しくないし、何より、この縫い方では、衿ぐりのカーブがきれいに出ません。
本来は外から縫って、内側は、少しいせ込んで自然な衿のカーブをつくります。外側はアウトコース、内側はインコース。インコースの方が短いからカーブになるわけで、柔らかなカーブを作るための順序と道理があるわけです。だからこそ、自分で縫うのですが、今以上に針を持つのが苦手だったきもの初心者の私は、縫えたことだけで満足していたのかもしれません。
こんなことを書いているうちに、ある女性のお話を思い出しました。海外できものを着るその方は、半衿をメイドさんに縫わせているとおっしゃっていました。メイドさんは東南アジアの方で、半衿の意味を知りません。だからまっすぐ縫っちゃうの、でもまあそれでもいいのよ、と。いやいや、衿ぐりから覗く部分がシワシワになるし、全体にもっさりしてしまいます。でも、それはそれで、その方の持ち味になっていました。衿の考え方は人それぞれだなあとしみじみ思ったものでした。
ただ、千差万別ある洋服の衿もととは異なり、きものは半衿ときものの衿のバランスが全てですから、簡便さや、まあこの程度で、と目をつぶらず、着るたびにきちんと向き合い、自分にとっての美しさを追求できたらなあと思うのです。
きものを着るようになって、自分の長所短所がありありとわかるようになりました。だからこそ、良いところを生かして、まずいところは隠す。どう頑張っても、毎日着ていた昔の人のような緩やかさは望めないし、モダンな都会の風景の中で着ることを考えると、きりりと清潔な装いを心がけたいと思います。
「きもの、いいですね」ではなくて、「その装い、素敵ですね」と、そんな言葉をかけていただけたら嬉しいなあ。日本の民族衣装として、というよりも、日本が生み出したオシャレとして、現在形のかっこよさを味わえるもの=きもの、であって欲しいと思っています。
※トップの写真、いつの間にか集まったピンクッション(針山)。裁縫苦手なので、道具で気持ちを盛り上げる作戦。