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昭和生まれのちょい悪男?

デコトラのフロントガラスの端から端まで、
黒の筆文字フォントで書かれて、
背景の銀色がピカピカ輝きまくっていた言葉だ。

トラック野郎め。

笑わせてくれるじゃないか。

「昭和生まれのちょい悪男」


随分前の話ということらしい。

そのおじさんは手術の必要があり、入院したのだという。

術後は、ナースステーションの真ん前にある回復室に移され、
丁寧な管理を受けることになる。

「そう言えば」と思い出して話し始める。

麻酔が切れて、回復室で目が覚めた時に、
枕元に見知らぬ年上の男性が座っていて驚いたらしい。

しかも、あきらかに入院患者の着衣だったからだ。

(誰だ?)

術後の痛みよりも、不審な様子に戸惑いを覚えたらしい。

その年上の男性は、不思議なことに、自分を見てニコニコしているし。

「あの、、、どなたですか?」

思わず問うてみたところ、自分はお前の母親の従弟で、
手術をしたと耳にしたが、誰も回復室で見守る家族がいないと聞き、
私がこうやって、術後に回復室で見守っていたのだ、と話し出す。

しかし、聞いたその名前は自分には良く分からないし、
そういう人がいただろうか、そうだろうかと思ってしまった。

「あの、人違いじゃないですか?」

そう返したところ、その男性は静かに怒り出し、
親戚付き合いがどうだとか、そんなことも聞いたことがないのかと、
延々と親戚である証拠を喋り続けた。

その合間合間に、痛みの具合を尋ねたり、
痰を出すためのティッシュを取ってくれたり、
回復室らしく世話をしながら、病院内の世間話をしてくれた。

随分元気そうな方だと思ったらしい。

手術直後の自分は動くこともままならないし、
このまま、母の従弟だという男性の話に耳を傾けるしかなかった。

しかし、もうひとつ不思議に思っていたことを質問した。

「あの、もしかして入院してるんですか?」

尋ねると、やはり外科手術をすませたとのこと。

落ち着いてはいるが、退院には日にちがあるらしい。

しかし回復室には名前も書いてないし、手術の時間だって、
どうやって自分のことを知ったのだろうと、さらに疑問が湧く。

そもそもどうやって、
ナースステーション前の、この回復室にもぐりこんだのだろう。

実家の兄から、そういった人のことを聞いてもいないし、
入院してからも、誰からも、何も聞いていないし。

しかし思い直すと、従姉の息子のうちのひとりの自分に、
このように心を掛けて、自分も入院中の大変な身なのに、
ずっとつきっきりで、自分の様子の変化などを
見守ってくれたのかと思うと、大変ありがたいことだ。

一度も会ったことのない人なのに、私のことをちゃんと知っていて、
その関係性や昔話なども、枕元に座って教えてくれた。

術後の心細さも救われた気持ちで、本当にあの時は感謝したんだよ。
それにしても、あなたのお父さんは話の面白い人だった。

たまたま仕事で出逢った遠縁のおじさんに、そんな昔話をされた。

「父とそんなことがあったんですか。
聞かせていただいてありがとうございます」

頭を下げて、早々に話題を変えた。

たぶん他の入院患者さんからでも情報を仕入れて、
看護師さんになんやかんやと申請して、
これ幸いと回復室の見守りに入ったのじゃないのかな。

大きな声では言えないのですが、
きっとただ入院生活に飽きていたところに、
新鮮な変化に飛びついただけだと思うんですよ・・・。


付き合っていただいて、
こちらこそご迷惑おかけしました(ホントにもうっ)。


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