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泥まみれの花畑の結末*植物の声を聞いた日

ほんの数年前のある日。

上流の山の泥を含んだ鉄砲水が流れてきて、
私の花畑が黒い湖になって、ただ、黒の広がる空き地みたいに変わった。

まだ春の足音も聞こえない寒い時期だったので、
これといった変化は、その黒の広がりだけだった。

その黒い湖状態を見た時に、なにもかもやる気が無くなりそうだった。

スムーズに流れて行かないのは、
いまだ復興工事が終わっていないせいかもしれない。

地盤沈下した土地の傾斜具合がちょうど、
道路よりも、こちら側に流れやすかったのかも知れない。

誰のせいにも出来ないので、誰からの慰めも得られない。

いわばただの空き地なのだし。

でも恐ろしいほどの、生きるためのパワーダウンに見舞われた。

何日か経って、気持ちを切り替えて ( 片付けなければ ) と腰を上げた。

( 泥だって乾いてしまえば黒土と同じなんじゃないの?) と思ったのは、
気のせいで、その細かすぎる粒子は虫にも微生物にも、
あまり魅力はないように見えた。

( 仕方ない ) とあちこち泥を剥がし始めた。

( めんどくさいなあ ) と思いながら。

これから咲き出す、桜の根本の水仙のところが最初か、と思って
土に三角チョンチョンの刃を入れる。

球根の芽を傷つけないように、表面の泥を掻き取る。

何か規則的な感じの白い点々が見えてきて、
何かの病気かと思い、自分の目をこらす。

慌てて手のひらで土を払っていく。

痩せたモヤシのような、水仙の根だった。

泥に蓋をされた土の中で、苦しがった水仙のその根が、
1本残らず、空気を、酸素を求めて地上に向かったのだ。

それほど苦しさに耐えていたのだ。

小さい頃に下敷きで頭頂部をこすって、
静電気で髪を立ち上げて遊んだみたいに、
水仙の根がすべて地中深くではなく、地上を目指していた。

思わず「ごめんね」と呟いて、汗をかきながら、
あちこちの乾いた泥を剥ぎ取って1ヶ所に運び続けた。

水仙が咲く場所、すべてそうだった。

ようやく咲く準備を始めたのに。

私しか助ける人間がいないのに。

ふて腐れ気味の散らかった頭が、
テトリスのようにカシャカシャと動き出して、
花畑をほったらかしにしてた反省を放り投げて、
ともかく体を動かした。

やれば終わる。

いつかは終わる。

少しずつでも絶対終わる。

そうしたら、また一からやり直せばいいんだ。

泥を剥いで、一か所に集めて、
剥いだあとの場所も少し耕して空気を入れる。

気になるところは土壌改良剤を足す。

終わる、終わる、いつかは終わる。

ちゃんと花を咲かせてあげなければ。

そうやって、水仙が命からがら咲いてくれた年があった。

嫌になっても、命のかかわることはリセットできないことを知る。

命はいつも誰かを必要としているんだし。

この子たちにはいつも私が必要。




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