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カプチーノとブレンド*20年目の彼女と私

細く細く、つながりはあったものの、
本当に久しぶりの友人と美味しいカフェで待ち合わせした。

本当は紅茶の方が好きだけど、私は悩んでカプチーノ。

コーヒーのブレンドが趣味の彼女は、オリジナルブレンドを注文。

「ちょっとお腹が空いたから、おやつ食べない?」

そういって二人が選んだのは、同じ好みのラムレーズンの入ったケーキ。

ホイップした生クリームに、砕いたナッツが散らされている。

見た目もっこりで、可愛い。

随分昔に、雑踏の人ごみの中で待ち合わせしたり、
コンサート会場で同じ時間を過ごしたり、
それから同じもの、美味しいものや、お洒落なものを一緒に食べた。

落ち着いて、こんなお店で話すのは何十年も間があいた気がする。

最後に電話した時に、ご主人が出て、
「今、分娩室に入ってるんです」と教えてくれたのを思い出す。

あれからは手紙やメールばかり。

お互いに住む場所も、家族の環境も、さまざまな隔たりがあって、
一緒に過ごす時間は無くなってしまった。

お互いの生活の輪郭は知っていても、
お喋りのタネをいくつ放り投げても、今日は30分の制限付きだった。

みなそれぞれのタイミングで、年老いた親と過ごす時間が必要になる。

昔話をするなんて、何が面白いんだろうと思っていた。

「元気?」が一回りして、こういうこともあったよね、って
繰り返すことの、何が面白いんだろうと思っていた私。

相手によるのだと、初めて知った気がする。

まるでパズルゲームような会話が進む。


「歌舞伎座行った帰りに、たしか浅草駅で別れたんだよね?」

「いわさきちひろの美術館、一緒に行かなかった?」

彼女と私の記憶の中では、それぞれが別の思い出の中にいるからだ。

「今年は暖かいね。
そう言えばいきなりの雪で、ゆるやかな坂道発進できなくて、
力になったかどうか分からないけど、
私ミニスカートで車、押したことあったね」

「えっどこで?そんなことあった?なんで冬にミニスカート?」

「あったよ~公園の突き当り。愚問だよ。
ミニは若かったからに決まってるじゃない!」

「赤い車の時?あれFFだったから、そう言えばよく滑った」

「その車だよ。覚えてるよ。信号の一番前で、
私は赤いダウンに、黒のツイードの千鳥格子のミニ。
後続車は若めのオジサン2人だったのも覚えてる。
タイツはいてるからイイやと思ったけど、丸見えだったはず」

「そんなことあったんだね。今はおばさんになったから、
困っても誰も助けてくれないよね・・・」としんみり呟く彼女。

「そりゃそうだね (笑)
考えて見たら、あの時後ろのオジサンも、
助手席のひとりは車押すの、手伝ってくれても良かったのに!」

「若くて可愛い女の子だったのにね~ (笑)」

年月を経た2人で、急いであれこれ断片的に会話を交わす。

お互いが知らなかったことや話してなかったことがたくさんあって、
「続きは、この次ね」と、時計の針を確認した。


朝、焼いたケーキや暇つぶしの、しょうもない雑貨や本を遠慮なく手渡す。

「お母さんのお世話の合間に、気分転換しないとね」

彼女の顔が無言で、そうねと伝えてくれる。

2人とも大人になったから。

あ、オバさんと言うべきか。

彼女も私のように、別れてから
「変わらないけど、やっぱり変わったんだ」なんて思い出してるはず。

彼女がプレゼントに持参したお手製ブレンドのコーヒーは、
何か私を違う世界に連れ出すように、
聞いたことのない言葉が、一つ一つのパックに印刷されている。

え~と、昨夜はセーハ・ダス・トレス・バハスというのを飲んだ。

今日はエルバス・レオンシオBHという不思議な名前のにしよう。

どうして紅茶の名前のように可愛くないのか、謎だ。

新しい彼女を知るために、少しは勉強しておこう。



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