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息が止まる程の出逢い*かえるの王様

( かえるの王様だ )

直感的にそう思った。

抜いた雑草を入れておく大きな木のサークルがあって、
ドンドンと積み上げて行くと、やがて土のような雑草堆肥になる。

そんな雑草堆肥をサークルの下から、取り出して、
欲しいところに使うというリサイクル。

昨年は土いじりを全くしなかったので、
すでにあふれ出す勢いで、ドライフラワー状態のものを先日刈り取って
袋につめこんでいたが埒があかないので、ともかく下の土になった部分を
掘り出して早急にスペースを作る必要があった。

「あんまり春早くから草取りすると土が乾くからだめよ」と
教わったものの、昨年のほったらかし状態で枯草が多く、
袋の他にも何か所か小山を作っている。

土になった雑草堆肥にフォークを突きさすと、
はがれたところに、何かが生きて蠢いていた。

(冬眠?)

熊とか蛇とか冬眠するのは聞いたことがあるが、
かえるもそうだっただろうか?

熊はサーカスと動物園以外は見たことがないし、
蛇を日常で見たのは、紐みたいなのに2回ほど出会って、
それがナントカ蛇だと教えてもらったことがある。

かえるは出逢うことはたまに出逢うが、可愛らしい緑色のだけ。

それは黒いかえるだったのだ。

掻き出したところが、かえるの体に本当の間一髪スレスレで、
まわりの土がその体をほぼ強調するほどに剥がれ、
そのうつ伏せの左足が、一旦伸ばしてまたバネのように戻った。

見たことのあるその体形。

しかしこんなデカい体形にはついぞ出逢ったことはないし、
体は、土と同化した色だ。

息が止まる程の出逢いに、フリーズした。

冬眠場所を掻き出されて、落ちてくるのかと思ったら、
どうにか上半身は土に支えられて、落ちてこない。

私が土いじりをしていると、
いつも小さな黒白のハクセキレイが、虫を食べに近づいてくるが、
ハクセキレイの方が食べられそうな大きなかえるだ。

もう少しずれていたら、かえるの体にフォークが刺さったと思うと、
左半身がぞわぞわした(注:個人的ないつものパターン)。

誰も助けてくれないのだし、土に親しむためには
避けて通れないことがいろいろあるし、と頭の中でぐるぐると
かえるの様々さまざまな表情が映し出される。

お風呂場の中で遭遇したかえるもいたし、
かえるの木製の置物すら、可愛くて飾っている。

今ここに、土の中に横たわるかえるは綺麗な緑色ではないし、
身体の大きさから見て、きっとふてぶてしそうな顔だし、
何年も生きている、有難いかえるかも知れない。

思考を変えようと、かえるは何が有益なのだろうかと、考えてみる。

しかし考えても考えても、かえる世界のことは
「おやゆび姫」とか「かえるの王様」とかの、
童話位しか知識がないことを知り、我ながら愕然とする。

ふと、食用ガエルという言葉を思い出した。

それに戦後は食べ物がなくて、かえるも食べたと何かで読んだことがある。

水族館のマンボウやサメを見て私が「食べたい」と思うように、
今でも世界のどこかで、かえるを見つけて「食べたい」と思う人が
居るかも知れないと思い直した。

かえるを毛嫌いするのは失礼なことだ。

こんなかえるを生け捕りにしてうちに持って帰ったら、
お母さんが「偉いね」と喜んでくれるのかも知れない。

でも私が今、お母さんだった。

魚もさばけないが、かえるもさばけない。

正気に返らなければいけないと思い、
雑草捨て場のあれこれは放り投げて、
何か別の仕事をして、心を落ち着けなければと思った。

ちょうどいいタイミングでエゾシカの糞を見つけた。

糞を片づけながら
(やつらは親子で来たな)と忌々しく思い、
大都会東京に住む幼なじみのアドバイスを思い出した。

「うちの母にも言うのよ。そうやって困っている親鹿の、
子育ての手助けをしてると思えばいいじゃないって」

そんなことはない。

春まだ浅き、山の新芽も出てこない時期だけなら可愛げもあるが、
新芽だらけの山になってもやつらはやってくる。

どれだけ薔薇や桜の新芽が美味しいのか、
食べたことがないので分からないが、
人間をあなどっているか、手抜きの子育てをしてるとしか思えない。

山の食糧を教えろ。

まだ鳥のエサを横取りするカラスの方がましだ。

カラスは「独り占めしちゃだめだよ」というと仲間のカラスを呼ぶ。

(ちがう種族の鳥のことなんだが)と思うが、
カラスにはカラスの付き合いがあるから、そこまで関与できない。

砂利があっても広い場所なら、
苦手ではないんだなと糞の観察をし、そのあたりにも、
やつらの嫌いなショッキングピンクのテープを張ることにした。

作ってもらった竹槍と金づちを持って、土に打ち込んでいく。

この金づちは重くて、近所の人に
「ナントカカントカも打てる金づちだね」と言われたけれど、
重い方が助けになるので、気にせず使っている。

一心不乱に穴を掘ったり、一心不乱にゴミを拾うといろんなことを忘れる。

日常の中に単純作業があるのはいいことだと思う。

私は一心不乱に力をこめて金づちを振り上げ続けた。

ピンクテープは張り過ぎてもいけないと思う。

ゆる~く風になびくようにすると
絶対エゾシカは不安になって近寄らないと思う。

(糞を見て大人か子供か分かるなんて
この辺では私だけかも 注:この年齢では )と思ってしまった。

それだけ糞を片づけ続けた歴史が、私にはある。

この知識が役に立つ日は来るだろうか。


・・・何を考えてもかえるの王様のあの姿は脳裏から離れない。

お姫様が、かえるを壁に投げつけたくなったのは、
本当に良く理解できる(by グリム童話 かえるの王様)。

出来るなら人間に戻って(by グリム童話 かえるの王様)、
どこか嫁探しの旅に出て欲しい。

一生懸命、こんなに、記憶を上書きしようともがいてるのに!

どこかに逃げて行ってくれないだろうか。

こんな時に小学生男子のNくんが通ってくれれば、と願った。

しかし、Nくんは自然児すぎるので、逆に棒でつつき殺して、
その辺に死骸を投げ捨てて走り去るかも知れない。

やっかいな男だ。

でもよく考えたら、4月から6年生なので、
かえるごときに見向きもしないかもしれない。

願うのをやめた。

思春期って気を遣うぅ~。


あんなに大きな体で、一体どこに住むというんだろう?

この辺は田んぼなんかどこにもないし、私のハス畑だろうか?

恐ろしい。

おことわりだ。

かえるの王様を殺さなかったのは良しとして、
なにかよからぬことをされないだろうか。

怖い。

なにかなにかなにか、と思い続けて、「ふたりはともだち」を思い出した。

あの物語のかえるは好きだった。

でも。。。あんな体のデカいのが、ふたりも出現したら怖すぎる。

なにか解決法はないだろうかと思い、
とりあえず2、3日あのままの状態で、
雑草捨て場の扉も開けたままにしておけば、
春の暖かさに目覚めてどこかに行ってくれるかもしれない。

こんなに困ってるんだから、神様がなんとかしてくれるかも知れない。

あんな大きなかえる、この世で生きていけると思えない。

でも、あんなかえるを殺したら、バチがあたりまくりな気がする。

なのに、フォークで突きさして殺すところだった・・・。

海なし県の友人のところに、お子さんが喜ぶかと思って、
まるまる一本の雌鮭を送ったことがある。

「人を殺すみたいで、怖くてさばけないので、
お料理屋さんに頼んだよ~」と、お礼の返信が来たのを思い出した。

今、分かったよ、その気持ち。

なんか似たもの同士で「ふたりはともだち」なんだね。

ともかくかえるが頭から抜けない。

どこかに井戸があれば叫びたい。

「かえるの王様殺すところだったよ~(電車のガード下の100デシベル)」

「早くどっかに出て行ってください~(聴覚としての限界120デシベル)」

頑張ってヒメオドリコソウの赤紫や、
イヌノフグリの青の広がる草原を思い出して、記憶の取消しに努める。

でも蛙という漢字があるのまで、思い出してしまった。

土と土の間に挟まれた虫?

いるべき場所だったんだろうか?

早く忘れたいあの姿・・・。


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