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こちらを許さないなら向こうも許すな

こんばんは、紙谷です。

本屋に立ち寄って気になった帯があったのでその本を買いました。
『おいしいごはんが食べられますように』
という本です。
帰ってすぐ読みました。

本当に、自分の手の届く世界の全て、という感じでした。

※以下本文の内容に触れております※
※ネタバレ嫌な方は読了後にぜひ!※


無条件に許される人が私は嫌いです。
うっかり踏んでしまった、道に吐き捨てられているガムより嫌いかもしれません。
ただそういう人って、人格が壊滅的とかそういうのではないんですよね。かえって人自体はいい人だったりする。
それに対する不愉快な気持ちを言語化している箇所が非常に多く、またとても秀逸に描かれています。

とっても優しくていい人である芦川さん。
物語は芦川さんの周りにいる二谷さんと押尾さんの二つの視点から描かれています。
芦川さんはいい人ですが、職場の人が仕事に追われ残業していても、「偏頭痛で体調が…」と言って早退することが許されています。
他社の人たちと行う研修(グループワークあり)を前日に欠席連絡を入れても、「芦川さんは大人数での集まりが苦手だから」と許されています。

まずこの時点でクソ虫唾です。
(語気が強くなってしまいました。大変失礼致しました。)
で、さらに腹立つのは、これが「サボってやろう」とかそういう邪な気持ちでないがために、こちら側が責めたり愚痴をこぼしたりすることがまるで悪かのように周りがなってしまうところです。
クソ虫唾2倍。
こういう人間本当に嫌いなんですよね。
本文にもあったのですが、「許されてきた」人。

そういう人が善意で言ってくる発言は時として非常に鋭利であることがあります。
お前には分からんだろうな。そう思わせる力があります。
そういう人の善意発言は、文字通り大抵発言者も悪意は全くない場合が多い。
それゆえに苛立ちを加速させ、その人自体はいい人なんだろうから、その苛立ちも外に出すこともできない。行き場のない苛立ちです。

私はこの本を読んでいて、比較的押尾さんに感情移入して読んでいました。
もうこの、なけなしの「世の中への期待」が塵となって消えていく様子を感じました。(褒めています)

クソ忙しいのに偏頭痛が…とか言って毎週毎週早退して、上の人も「無理して1時間残業させたら体調崩して次の日お休みしたりするから」とか言って大目に見てるのも腹立ちますよね。
その仕事する羽目になるのは偏頭痛が辛くても残らないといけなくなった人です。
体調が悪くなることが悪というわけではなく、これは本文にもあったのですが、お互い様の範疇に収まっていればそれはそう、で終わるんですよね。
問題はお互い様どころじゃないという点です。
そんなんになったら「こっちは毎回尻拭いしてんのにてめーは呑気に定時上がりしていいよな」という気持ちしか持てなくなります。

そんで偏頭痛が…とか言った次の日とかにお菓子をつくってくるんですよ、芦川さん。
まじ意味わかんないですよね。仕事はしないのに家帰ってお菓子作る元気はあるんだ、ふーん。って私なら言ってしまいそう。
しまいには頼んでもいないお菓子をみんながあくせく働いている中先に帰って作ってきたのにもかかわらず、職場の偉い人が「作ってもらうのも申し訳ないしみんなからお金集めよう!」とか言ってくるんです。
頼んでもいないのに。なんならいらないし。
だる。
えげつないですよね。
一番腹立つのはどう考えても然るべき対応をすべき存在である芦川さんを空っぽ脳みそで許して守ろうとさえする周りですよね。
みんなが忙しくて残業もする中高頻度で「偏頭痛が…」だけで早退がゆるされる正社員とか終わってます。
クビには出来ないにしても契約社員にしたりとか、それなりの対応はあるはず。
自分も偏頭痛で辛い中我慢して同じ偏頭痛を理由に早退した芦川さんの尻拭いをしてる押尾さんと、毎週毎週偏頭痛で早退して早退したくせにお菓子作っちゃって地でそれ振る舞えば許されると勘違いしちゃってる芦川さんが、同じ給料貰ってんの普通にキモいと思う。
それなのにいい人の蓑に隠れてるせいで周りは仕方ないよねで片付けてるの普通に無理すぎました。会社潰れちまえよとさえ思ったもんね!(語気が強い)
この無理加減が最高です。すごい感情移入しちゃう。
言葉が本当に悪くて申し訳ないのですが、この芦川さんと周りのキショムーブをキショと思えば思うほどこの話が際立ちますよね、と私は思っています。

本当に虫唾つめあわせお得用パックという感じです(めちゃくちゃ褒めています)
この、すごいイラつくけど相手がいい人で悪意も打算もないからこそ周囲からイラつきの共感を得るのが難しく、ゆえに消化できない気持ちというのを、すごく自然に引き出していて。
これだけ言語化できないけどそういうシチュエーションに遭遇したら絶対なにかモヤっとしてしまうな…という絶妙な描写がとても「分かるわ…」という感じに描かれていました。すごい。

そんで、最後の終わらせ方も世界って感じでした。
結局弱い奴が勝つと書いてありましたが、世の中の真理すぎましたね。
なんか誠実に強く生きようとしても意味ないなという仮説の有力な文献を見つけてしまったという気持ちです。
終わり方も、起こった事実的にはモヤるものがあるのですが、登場人物(特に押尾さん)の言動で読後感はそこまでモヤモヤはしませんでした。それもすごい。

人間と世界のリアルって感じでした。
弱い方が勝つは本当に真理。理不尽。そして不平等。
不平等なんてその辺にゴロゴロ転がってますね、改めて実感しました。
それと、自分の周りの範囲の世の中を切り取った作品としては、読後感が重すぎず、考えるけど引き摺らないというような作品だと思いました。
本当に買ってよかった。
自分だけが心狭いんだなと思っていたので。

読んでいて共感が強すぎたので語気がかなり荒めになってしまったのですが、すごく読んでよかったと思える作品でした。
好みはあると思いますが、私はとても好きです。

また何年後かに改めて読んだら見方も変わっているのかもしれないと思うと、それまでにいろんなことを考えたりしながら生きていきたいなあと思いました。

今日は原稿用紙6枚分。
読書感想文ですね、夏休みにぴったり!
写真はいつ食べたか思い出せないけど美味しかった肉たちです。

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