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雑感・FIREWATCH

 飯野賢治という方をご記憶だろうか。
『Dの食卓』『エネミーゼロ』などでゲームファンの記憶に鮮烈に刻まれ、42歳で早世したクリエイターである。
 氏の作品の中で、私が特に記憶しているのが『リアルサウンド〜風のリグレット〜』だ。ゲームを起動してから映像が一枚も表示されず、真っ暗なままで進行する驚くべきシステム。物語は音のみで展開され、選択肢も音声という徹底ぶりだった。
 私はこのタイトルをクリアした後、ゲームを遊んだのとは少し違う感覚が残った。とても優れた映画を見たような心持ちであった。
 本作をクリアした今、似たような感覚をおぼえている、

 1989年。全米で最も人口が少ない州、ワイオミング。あなたはここに、広大な自然保護区を守る監視塔の、森林火災監視員としてやって来る。
 1平方キロあたり2人という、州の人口密度を象徴するように、この保護区に配置されているのはあなたと、谷の向こうにあるもうひとつの監視塔にいる女性、デリラだけである。
 目の前に広がるのは、明媚だが変化に乏しい大自然。話し相手は、片手に収まるトランシーバーから聞こえる互いの声のみ。
 そんなシチュエーションであれば、身の上の話を聞きたくなるのは自然なことで、やや酒の入ったデリラが、あなたのことを執拗に聞いて来たとして、誰を咎めることではない。
 あなたにとってそれが、自分の背中を覗き込むような、気の進まないことであったとしても……。

 ゲームは、終始一人称視点で進行するアドベンチャースタイル。敵を撃ったり謎を解いたりすることはなく、物語はおよそ一本道。
 なのでゲームというより、プレイするドラマといった方がしっくり来るかもしれない。
 かといって何も起きないことはない。保護区内でのトラブルに対処するのも大事な仕事。その道中、トランシーバーからのデリラの問いかけに答えるのだが、その選択によって、物語は少しずつ趣を変えていく。
 この独白のような会話が実にたまらないのだ。明鏡止水ではないが、目の前に広がるのは終始自然そのもの。そこにあなたとデリラが交わす言葉が覆いかぶさることで、会話の内容が映像のようにプレイヤーの脳裏に浮かび上がって来る。
 そのためだろうか。描かれる風景はフォトリアルではなく、クレイアニメのような淡い色彩と質感で描かれ、ヘビープレイヤーには少し退屈なくらいの落ち着いたヴィジュアルをしている。これが情報量の多いCGだったとすれば、そちらに気を取られすぎて物語が片手間になっていたのかもしれない。
 ストーリーはおよそ一本道と書いたが、あなたが選択した言葉、とった行動によって、その枝葉はみるみる変わっていく。些細なトラブルが次のトラブルを招いたり、唐突に誰かの物語が介入してきたり、そしてややぞくっとする展開も……。

 ストーリーに極力触れずに書いてみた。ドラマゲームと評するならそこにこそスポットを当てるべきだろうが、これはあなたが能動的に描く物語でもある。余計な先入観は持ってほしくないので、興味を持たれたのならこのままプレイして見てほしい。
 クリアした後、とても優れた映画を見たような心持ちになるだろう。

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