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雑感・THE LAST OF US

続編発表を記念し、前作の雑感を再掲します。
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手段と目的を違えてはならない。
 手段に思想は全くと言っていいほど存在せず、目的にこそそれは大きく影響する。刃物は手段であり、それで何を切るかが目的である。(私が昨今の規制論調に対し違和感を抱く原因はここなのだが、その話は他所に譲るとしよう)
 このゲームもそうだ。いわゆる「感染者」を倒してすすむ主題も、時にはそれ以外の人間を倒すことも、すべては目的を表現する手段でしかない。
ではこのゲームの目的は何か?私は「人が人で在れることへの感謝」ではないかと思うのだ。

 ある夜、世界が綻び始めた。
 突如発生した感染症は、人間を凶暴な何かに豹変させ、感染者は人を食い、同じ感染者を増やしていった。
 娘を連れ、町から脱出を試みたジョエルは、感染者から逃げ切った直後、町を封鎖する軍に娘を射殺されてしまう。
 二十年後、世界は新たな法とシステムに管理され、世界に点在する隔離地区にのみ暮らす人々は、感染者と弾圧的政府に苛まれていた。
 ジョエルは隔離地区内で、非合法な商売に身を投じていた。ある日強奪された武器を奪い返すべく、敵のアジトへ忍び込んだジョエル。だが既に武器は、レジスタンス「ファイアフライ」に買い取られた後だった。
 そこへ突如、ファイアフライのリーダーを名乗る女が現れ、武器返却の交換条件として、手負いの自分の代わりに、あるものを運ぶよう依頼する。
 それは金でも食料でもなく、ひとりの少女だった。
 少女の名はエリー。あの頃の娘と同じくらいの少女だった…。

 ゲームの基本は、TPS視点によるアクションとシューティング。マップは幅のあるワンウェイタイプで、迷子になることはあまりないが選択肢が多い。
特徴的な機能として挙げられるのが、敵の位置と動きを可視化できる「聞き耳」という能力だ。この手のゲームのお約束ともいえるサブマップが一切表示されない代わりに、遮蔽物に隠れた敵の姿が影のように透けて見える。
 使用中は屈んでの低速移動に制限されるデメリットはあるものの、使用制限はなく、隠れてすすむ際には非常に重宝するシステムである。 武器はハンドガンタイプとロングバレルタイプの2タイプあり、それぞれ最終的に3、4種類のものが獲得できる。
 イージーモードでも潤沢といえるほど弾丸は取得できず、ハンドガンではヘッドショットを狙わない限り、数発当てなければ倒せないので、オートエイムつきとはいえ慎重な射撃が必要になるだろう。
 またそれ以外にも装備品が獲得できる。マップ上のあちこちにある刃物、アルコール、布、火薬、砂糖を拾い集め、組み合わせていろんな装備にすることができる。刃物と布でナイフ、布とアルコールで医療キット。といった具合だ。 レベルアップは、道中で拾えるドラッグを消費して行う。これも数が多くはないので、慎重に選びたいところだ。

 と、ゲーム自体は決して珍しくないサバイバルアクションなのだが、私がこのゲームで最も推したいところは、その表現とシナリオにある。
 PS3最初期の傑作「アンチャーテッド」で、その圧倒的描画力と没入感を引っ張り出したノーティードッグ社の新作。というだけで、その期待値の高さを感じ取っていただけるだろう。
 文明崩壊から二十年。自然と人工物のバランスが崩れた世界。CGの泣き所というべき水や空気の表現に果敢に挑んだその描画力は、はじめてPS3の映像を見たときの驚きを、再び体験させてくれる。
 同時に、もはや不気味の谷など感じようもない人物表現も必見。眉の微妙な動きや眼球の僅かな揺れさえも表現し、感情を描き出すことに成功している。 そしてそれらを駆使して描き出される物語は、一言で言い表すなら「痛い」のだ。
 最愛の娘を失った男と、大きな宿命を背負った少女。壊れた世界で生きていく上で、二人は否応なく戦うことを強要される。
 平凡な父親だったジョエルは、二十年の歳月の中で傭兵のような風格を得。若さより幼さを漂わせるエリーは、地獄のような世界に狼のような魂を獲得させられている。
 このゲームは、ジョエルを操作してエリーを守るばかりではない、時にはエリーをプレイアブルキャラにすることがある。当然エリーも戦うことを余儀なくされる。この世界で戦う事は即ち殺すこと。そして同時に、殺される可能性を孕んでいるということだ。
 8ビット時代、年端も行かぬ主人公が人間の敵を倒してすすむゲームならいくらでもあった。だがそれは敵味方を区別する記号に近く、倒すことはゲームを進める手段であった。
 しかし、ここまで写実的な表現を得てそれを行えば、当然強烈な副作用を伴う。目の前で起きている事は、記号同士の手続きには到底見えず、そのもの殺傷行為に他ならないのだ。
 だがこのゲームは、血生臭さばかりが際立つアクションゲームなどではない。気配が滲み出るようなキャラクターと、切なく苦しいストーリーがクロスして生まれたロードムービーであり、その中心にあるのは常に「人が人で在れるか否かの問いかけ」なのだ。

 失われたインフラ。弾圧的管理下に置かれた人々。乏しい食料と物資。増え続ける感染者。失意と絶望に覆われた世界で、人間は自然に悪へ……否、野性へと染まっていく。
 奪い騙し傷つけることがあたりまえになった世界で、ジョエルとエリーもまた、その行使を迫られる。奪われぬため奪い、騙されぬため騙し、傷付けられぬため傷つける。その手を夥しい血で染めながら…。
 だが人が人である以上、その行動原理には狂気や快楽などは微塵もない。そこには己と仲間の庇護という、もうひとつの野生があることを、このゲームはしかと描き出している。
 ジョエルがエリーを守り、エリーがジョエルを守るその様に、決して誤魔化しはないのだ。

 このゲームは相当にショッキングである。人によっては途中で投げ出したくなるかもしれない。それならそれでもいいだろう。
 だがそれは手段なのだ。クリエイターの望んだ目的はそこではない。せめてその目的を感じ取れるまで、このゲームに付き合って欲しい。そう願わずにはいられない、不思議なゲームだった。

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