雨あがれ。

 江戸川柳に「流行り風邪三井が店に子半年」とある。
 三越百貨店の前身である三井越後屋呉服店は、当時としては画期的であった正札販売などの新商法を次々打ち出し、江戸随一の大店になった。
 働く小僧も多いので、一人が風邪を引けば移りつづけて半年は誰かが風邪をひいている。という、越後屋の繁盛ぶりを皮肉った川柳だ。

 昨年11月に初検出され、半年を間近にしてなお猛威が止まらない。新型コロナウイルスの感染者は、世界で100万人を超えた。
 こういう時に役立つ技能を持たぬ身は、研究者、医療関係者らの不断の努力に敬意を表しつつ、とにかく彼らに無用の手をかけぬよう努めるほかない。
 だがしかし、罹患してしまったらその時はその時、拡大を防ぐ為早急にプロのお世話になるのが定石だろう。
 なのでここ最近耳にする、感染が発覚した方や、その所属組織が口にする、感染して申し訳ないといった類の謝罪が、とても奇妙に聞こえるのだ。

 よもや好き好んで罹患する者はいないだろう。皆注意を払った末にかかってしまったこと。それこそ不意の雨に濡れたようなものだ。感染者に罪も過失もあるはずがない。
 それを謝るどころか、謝罪を要求する人もいたと聞いては、さてどうしたものだろう。
 謝りどころを違えてはならない。罹患したことで仕事を休み、周囲の人に迷惑をかけたことを謝るならそれもあるだろう。周囲の人はその人が完治した後に「春風邪じゃ濡れてもよかろう」と、くすぐりの一つも入れれば良い。所縁もない者が石を投げるのは、野暮の極みではないか。

 同じく江戸川柳にある「江戸中を越後屋にして虹が吹き」
 越後屋は雨が降ると、屋号の書かれた傘を無料で貸し出した。返さないものもいたそうだが、それはそれで雨が降るたび越後屋の宣伝をして回るのだから構わないという。嫌われ者の不意の雨も味方にしてしまう、越後屋の商才恐るべし。
 風邪も雨もままならぬもの。濡れた時の気構えと処置に人が出る。江戸中がコロナになるか否かの瀬戸際。もう一度、我々が何に対峙しているのか改めていいのではなかろうか。
 虹感染を防ぐためにも。


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