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海外駐在員に求められる能力とは

自己紹介

ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、営業職を経験したのちにアメリカの子会社に赴任。約10年間海外駐在しています。
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。

はじめに

10年に渡るアメリカ駐在で通算10名強の駐在員を迎え、また見送ってきました。その間に社員数は4倍とビジネスステージの変遷と事業規模拡大を経験してきました。

不思議なのは日本国内で同じような経験を積んで、選ばれて来たはずなのに、海外でパフォーマンスを発揮できる人・出来ない人に面白いように分かれることです。
何がその違いを生んだのか、前回の記事で「英語力」という観点で海外駐在に対する適性を考察してみましたが、今回は「能力」という観点で考察してみたいと思います。

前回の記事内容が気になる方はこちらからご覧ください。

私は過去10年、駐在員と現地社員の橋渡し的な役割を果たしてきました。そのため、両者の視点から同僚の海外駐在員の海外適性を客観的に見ることができました。
そして、その経験から能力をスキルセットとマインドセットに分けて見ていくことで、同じような経験を持ちながらもアウトプットが大きく異なるという現象を解明できるのではないかと感じるようになってきました。

スキルセット

スキルセットと一言にいっても大きく分けて2種類あると思っています。
まず一つは「特定の状況に紐づいたスキル」、そしてもう一つは「普遍的なスキル」です。それぞれの例を挙げると下記のようになります。

  • 特定の状況に紐づいたスキル

    • 根回し/社内政治力

    • 空気を読む/忖度

    • 言語(英語を話せても英語圏でなければさほど意味がない)

    • 技術(素材や設備に違いなどがある場合)

    • 交渉力(戦術)    等々

  • 普遍的なスキル

    • メタ認知能力

    • 抽象化(コンセプチュアルスキル)⇔具体化能力

    • 論理的/戦略的思考

    • クリティカルシンキング

    • プロジェクトマネジメント

    • 財務/ITリテラシー 等々

ここで重要なのは海外においては、そもそもスキルセットを発揮するための「前提」が異なっているケースが多いということです。「日本の常識は世界の非常識」とはよく言ったもので、海外で就労していると実際そう感じる事が多々あります。
どちらが優れている・劣っているかということではなく、それだけ常識レベルで「前提」が異なっているという事を認識することが重要だという意味です。

それを考慮せず日本の前提で物事を理解しようとすると、とんでもない勘違いをしてしまう可能性があります。私も赴任当初はそういう勘違いを数多く経験しました。

赴任したての頃、同僚の現地社員が上司(駐在員)からの質問に対して「I don't know.」を繰り返していたことに驚きました。日本の感覚では上司の質問に対して、それがたとえ自身の責任範疇になかったとしても「知りません」と答えることはあまり考えられないと思います。
しかし現地社員の「I don’t know.」は文字通りの意味ではなく、後で本人に聞いてみると、「なぜ自分の業務範囲でないことを聞くのだ?」ということを意味していたのです。これも日本のメンバーシップ型とアメリカのジョブ型の雇用形態が影響しているという前提を理解してないと、お互いに「なんて無責任なのだ」と評価を下げてしまいかねません。

上記はひとつの事例ではありますが、このようなことが多々あります。
そのような環境下では特定の状況に紐付いたスキルというのは前提の違いにより能力の発揮が難しいどころか、邪魔になってしまう可能性すらあります。

例えば日本は「以心伝心」「阿吽の呼吸」「空気を読む」というような表現があるように極めてハイコンテクストな文化です。その前提で職人気質に自分の背中を見て学べと部下に接しても部下は全く何も学ぶ事はできません。むしろこの人は教えるスキルがないのだという評価になります。最悪のケース、役割を与えているのに教えないのはハラスメントだとトラブルに発展する可能性すらあります。このように人材育成一つとっても注意が必要です。

そして事業規模やビジネスステージにおける前提の違いも、求められるスキルに大きな違いを生みます。大抵の場合は日本国内事業の方が事業規模/ステージとしても進んでいるということが多いのではないでしょうか。
私の場合もそうでした。
同じ1ステップ事業を成長させると言っても、7を8にするのか、0を1にするのかでは求められるスキルが大きく変わってくる事は想像に難くないかと思います。

そういう観点で言うと日本国内事業でパフォーマンスを発揮している人が、必ずしもシステム・仕組みが整っていない状況で同じようにパフォーマンスを発揮できるかはわかりません。なぜなら既存のシステム・仕組みを活用するのが得意でも、必ずしもそれらをゼロから築いていくことが得意とは限らないためです。
日本国内で評価が高い方が海外でパフォーマンスを発揮できないケースで多いのはこのパターンであるように感じます。

また現地社員は職務記述書(Job Description)で職務範囲が明確に定められていることも多く、そのギャップを埋めるのは駐在員の重要な役割の一つです。したがって日本での職務範囲より広範囲な業務を担当する場合がほとんどです。そのような状況下では特定の分野が得意でもビジネス全体像が見えていないと一部の分野がボトルネックとなり、全体としてのアウトプットが落ちてしまう可能性もあります。
大企業だと役割が細分化されていることも多く、ここで苦労する駐在員も少なくありません。

一方、普遍的なスキルは環境に影響を受けにくいもののことです。もっというとその環境や前提の違いに気付くためにも必要なスキルだと言えます。
特に重要になってくるスキルはメタ認知能力、論理的思考力、クリティカルシンキング(構造理解)だと感じます。クリティカルシンキングで本質的な構造を把握し、メタ認知能力でなぜそのように認識したのか自身の思考特性を評価し認識を補正。そこから導き出された仮説を論理的に体系立てていくというような流れになるかと思います。

そういう普遍的なスキルセットを有しているかどうかが、海外という全く異なる環境下においてパフォーマンスを発揮できるかどうかに大きく影響をしていると感じます。

マインドセット

ただ前述したような十分な普遍的スキルセットを持っていれば必ずパフォーマンスを発揮できるかというそう単純でもありません。なぜなら海外で就業するということは業務負担だけでなく、精神的負担も大きいものだからです。

特に苦労をするのが人(他者)のマネジメントと自分自身のマネジメントです。人事システムの違いは大きなテーマになりますので、またどこかで触れたいと思いますが、現地社員の採用にも関わりますし、時には解雇という厳しい判断を下さねばなりません。
人の人生に関わる精神的な負担は相当なものがあります。訴訟リスクも有り、アメリカ駐在員は人のマネジメントに疲れて帰任を希望するケースが多いように感じます。また日本の本社からのプレッシャーで本社と現地社員との間に板挟みという状況もよく聞きます。

自分自身のマネジメントという意味では、前述したように海外駐在員の職務範囲は広く、自分一人で担っているというケースも多々あります。そのような環境下では課題やチャンスが見つかっても、それに気づいているのも自分だけというケースも多々あります。

そういう意味では、役割分担がある程度固まっている日本国内では仕事が与えられるという側面がありますが、海外駐在者は与えられる仕事+自ら仕事を作り出していく、役割を広げていくという自分自身に対するマネジメントが必要となってきます。

そのような中で重要になってくるのがマインドセットになります。ここでいうマインドセットは精神論や根性論ではありません。再現可能な心構えのようなものと考えていただければと思います。
下記はマインドセットの具体例となります。

  • 共感力/異文化理解

  • 知的好奇心/向学心

  • 事業家意識/当事者意識

  • 誠実さ/法令順守意識

  • 謙虚さ/素直さ

  • 自責マインド  等々

これらマインドセットは人間性や人間力と言い換えても良いかもしれませんし、これらはある程度普遍的なものだと捉えています。
これらのマインドセットがスキルセットのレバレッジ(普遍的スキルセットxマインドセット)となりビジネスパーソンとしての成長に大きく影響してくると自身の経験から感じます。

ちなみにポジティブ思考かネガティブ思考かは特に重要ではありません。私自身相当にネガティブ思考です。
ネガティブ思考が問題となるのは、次の行動を起こせなくなるケースです。物事をネガティブにとらえても、むしろそれがために次の行動につながって行くのであれむしろ強みですらあります。特に情報というリソースが不足している海外では自動車の運転でいうところの「〜だろう運転」ではなく「〜かもしれない運転」が重要です。
あくまで物事をどちらから見るかという話で、重要なのは自分の思考特性を理解して、それをうまく活用することだと思います。

海外駐在では日本で担っている役割より一階層、二階層高い役割を担うことがほとんどです。むしろ同じ階層を経験させるなら駐在員である必要はありません。
しかしながら会社からそのような「下駄」を履かせてはもらえるものの、実際には駐在員は言語や商習慣・文化という大きなハンデを負っています。ハンデなしに同じことをやらせたら現地社員には勝てません。
そのような中で現地社員をマネジメントし、彼らから信頼を得るためにはマインドセットの要素がかなり大きくなって来ます。
普遍的スキルセットとマインドセットを駆使して「アイツのいうことなら一度やってみよう」と思わせることができるかどうか、そういうところにパフォーマンスとして出てくる違いがあるように感じます。

最後に

最後までご覧いただきありがとうございます。
海外駐在員に求められる能力について自身の考察をまとめてまいりましたが、言語や商習慣・文化が異なるという要素を排除すると、実はこれらは日本にいても異動や出向、転職により経験できる内容です。

もっと言うと、マインドセット次第ではいつもの職場・仕事でも十分に海外駐在に向けてのトレーニングを積むことが可能です。例えば他の役割を意識して(実際に手を挙げてやって)みるとか、普段から使っているシステムや仕組みがなぜそうなっているのかということを意識して自分ならどうするかを考えてみるとか、自分が担っている役割がビジネス全体の中でどこに位置づけされていてなぜそいう役割があるのか考えてみる等色々あります。

そういったことを常日頃から行っていると普遍的スキルセットとマインドセットを身に着けることができ、環境変化に対する耐性が飛躍的に向上してくると思います。

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