【超短編小説】幸せってオーバーフローすると死にたくなるよね
今日は朝から抜けるような青空だった。出かけるとき、近所の人と挨拶をした。
久々に旧友に会った。元気そうだった。とりとめのない話をして、二人でお茶をした。
夕暮れ時、色の抜けつつある空にかかる雲の下から、神がかった金色の光がさしていた。
鳥が飛んでいる。
死んでもいいかな、と思った。
電車が目の前を通りすぎる。ガタンゴトンと轟音が響き、一陣の風が吹く。
生ぬるい風を浴びながら、辺りを見回す。たくさんの人がいる。家族連れがいる、ビジネスマンがいる、カップルがいる、高校生たちがいる。顔、顔、顔、みんな色んな表情をしている! ふと出くわす顔に、思いがけず嬉しくなる。
誰も私を見ていない。さびしいとも思わない。透明人間になったようで心地がいい。雑踏の中にひとりで立っている時間が好きだ。雑踏のなかの孤独はやわらかいから。
駅のホームに黄金色の夕日がさす。うっすらとあたたかな大気がそこにいる人間を取り巻いていて、けれど、足元から夜の冷たい気配が忍び寄ってもいる。
この一瞬を永遠のものにしたい、と思った。これからの人生に、今以上の瞬間は来ない気がした。
きっと、私は幸せなのだろう。とても。それだけなのだ。
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