童話「プレコと12ひきのメダカたち」
みずのなかを、ぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっと、およぎまわっているのは、
ちいさなちいさなメダカたち。かぞえてみると、1ぴき、2ひき、3びき、こっちに、4ひき、5ひき、6ぴき、そっちに、7ひき、8ぴき、9ひき、あっちに、10ぴき、11ぴき、12ひき。
ぜんぶで12ひきのメダカたちが、すいそうのなかでいっしょにくらしています。
1ぴきめのメダカが、よこのガラスをみて、こえをあげました。
「あ、おはよう!」
メダカたちのとなりにはもうひとつおおきなすいそうがあって、
そのしたのほうに、まだらもようのおおきなさかなが
かおをちかづけていました。
「おはよー」
ひくくてふといこえがきこえたメダカたちは、つぎつぎとあつまってきて、
おおきなさかなにあいさつをはじめました。
「おはよう!」「おっはー!」「ごきげんいかが?」
おおきなさかなは、ひくくてふといこえでこたえました。
「ああ、いいよー、そっちの、みんなはー?」
メダカたちがみんなこえをそろえていいました。
「とっても、いー!」
おおきなさかなは、うちわのようなむなびれをひとかき、ふたかきして、
からだをうえにむけ、おなかぜんぶをよこのガラスにはりつけました。
そうしてメダカたちにむけたのは、まあるくあいたくちでした。
さかなはそのまあるくあいたくちをぱくぱくさせていいました。
「それは、よかったー」
そのとき、すいそうのおかれたろうかのむこうのほうから、
どっし、どっし、とあしおとがしてきました。
2ひきめのメダカがこえをあげました。
「あ、きた、きた!」
くろいけいとのぼうしをかぶり、おおきなからだをした
あのひとがやってきました。
あのひとはまあるいかおをすいそうにちかづけ、
ほそいめでメダカたちをみまわたしました。
「やあ、みんな、おはよう!」
あさのあいさつをしたあのひとが、
すいそうのうえでゆびさきをすりすりすると、
きいろいちいさなつぶつぶのえさが
みずのうえにおちていきました。
「さあ、たべな」
メダカたちはぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっと、
つぶつぶのエサにとびつきました。
「ごはんだ、ごはんだ!」
エサはつぎつぎと、みんなのちいさなちいさなくちのなかに
すいこまれました。
あのひとは、メダカたちのすいそうのとなりの、
おおきなすいそうにかおをちかづけました。
「おはよう、プレコ」
プレコとよばれたまだらもようのおおきなさかなは、
あたまからちょこんとつきでたちいさなめで、
ちらりとあのひとをみました。
「さあ、ごはんだ」
あのひとは、ゆびさきでつまんだ、
ちゃいろくてうすいチップのようなエサを、
1まい、2まい、3まいと、すいそうのうえからいれました。
チップのようなエサは、
ひらひらとみずのなかをおちていき、そこにつきました。
でもプレコは、ガラスにはりついたままうごきません。
「いいときに、たべな」
あのひとはほそいめをもっとほそくしてほほえんで、
どっし、どっしとあしおとをたててもどっていきました。
3びきめのメダカがプレコにいいました。
「プレコ、どうして、たべないの」
「あとでたべるよー」
「おなか、すいてないの?あ、それとも、すきじゃないの?」
「そうじゃないけどー・・・」
「プレコは、なにがいちばんたべたいの?」
プレコがちょこんとつきでためをうごかしていいました。
「コケ」
「コケ・・・?」
「そう、コケ」
プレコのふるさとは、
とてもあついみなみのひろいひろいかわでした。
かわのそこのいしやいわには、
みどりのコケがたくさんはえていました。
プレコはそのコケを、したをむいたまあるいくちで
たべていたのです。
プレコは、ふるさとのかわのことをおもいだして、
せなかのせんすのようなせびれをひらき、
うちわのようなむなびれをひらりとうごかして、
すいそうのなかをひとおよぎしました。
つぎのあさ、あのひとはいつものとおり、
どっし、どっしとやってきました。
「やあ、みんな、おはよう」
あのひとがあさのあいさつをしながら
ガラスにかおをちかづけて、
つぶつぶのエサをおとしました。
メダカたちがいっせいにエサにとびつきます。
「いただきまーす!」
4ひきめのメダカがあのひとにむかっていいました。
「ねえ、となりのプレコに、コケをあげて!」
でもあのひとはなにもいいません。
メダカのこえはきこえていないようです。
12ひきのメダカたちはせいぞろいして、こえをあげました。
「プレコに、コケを、あげてー!!」
それでもメダカたちのこえは、あのひとにはきこえません・・・。
あのひとはまあるいかおをとなりのおおきなすいそうにむけました。
「さあ、プレコ、ごはんだよ」
あのひとはちゃいろくてうすいチップのようなエサを3まい、
すいそうにおとしました。
「さあ、たべな」
あのひとはいいましたが、プレコはそこでじっとしたままです。
あのひとはふというでをくんで、くびをかしげました。
「どうしてすぐにたべないんだろう。げんきがないのかな・・・」
あのひとはとなりのすいそうのメダカたちをみました。
すると、あのひとはほそいめをいっぱいにあけて、
おおきなこえでいいました。
「そうだ、みんな、プレコといっしょにすんでみないか!
みんなといっしょにすめば、プレコももっとげんきがでるかもしれない」
メダカたちは、そのことばにおおよろこび!
「それはいい!」「きっとたのしい!」
「プレコといっしょにあそべるなんて!」
あのひとはプレコにいいました。
「なあ、プレコ、いいだろう?」
「いいよー」
プレコがかえしたへんじも、あのひとにはきこえていないようでした。
あのひとはあみでメダカたちをすくって、
プレコのいるおおきなすいそうへうつしました。
メダカたちはつぎつぎとプレコのまわりでおよぎだしていいました。
「やあ、プレコ!」「はあい、プレコ!」「これからはいっしょだよ!」
プレコもせんすのようなせびれをひろげてこたえました。
「ああ、いっしょだー」
「みんな、うれしそうだな。よかった、よかった」
あのひとはほそいめをもっとほそめてわらい、
どっし、どっしともどっていきました。
「プレコもいっしょにおよごうよ!」
5ひきめのメダカがプレコのかおのまえでいいました。
「いいよー」
そういってプレコがかおをあげたとき、
5ひきめのメダカが、プレコのまるいくちに
ぐうぜんはいってしまいました!
「あ、はいっちゃった!」
おどろいたみんながあつまると、
プレコがぱくぱくさせたまあるいくちから、
5ひきめのメダカが、ぴゅっとでてきていいました。
「あはは、おもしろい!」
それをみたメダカたちがこえをあげました。
「やってみたーい!」
メダカたちは、いっぴきずつプレコのくちにぴゅっととびこんでは、
ぴゅっとでてきました。
「ああ、おもしろい!」「プレコ、すっごくたのしいよ!」
「それは、よかったー」
つぎのあさ、メダカたちはまた、
プレコのまあるいくちにはいるあそびをはじめました。
すると6ぴきめのメダカがいいました。
「ねえプレコ、みんなではいってみてもいい?」
「いいよー」
「やったー!みんなではいってみよう!」
メダカたちはつぎつぎとプレコのくちのなかへ
はいっていきました。
1ぴきめ、2ひきめ、3びきめ、4ひきめ、5ひきめ、6ぴきめ、
まだまだはいる、7ひきめ、8ぴきめ、9ひきめ、
あとすこしだ10ぴきめ、11ぴきめ、
とうとうさいごに12ひきめ、みんーなはいってしまいました!
「やった!」「すごい!」「みんな、はいった!」
まっくらなプレコのくちのなかで、みんながこえをあげました。
そこへ、どっし、どっし、とあのひとがやってくるおとが、
つたわってきました。
7ひきめのメダカが、おおごえでいいました。
「みんな、はやくでなくちゃ!」
1ぴき、2ひき、3びき・・・、4ひき、5ひき、6ぴき・・・、
メダカたちはつぎつぎとプレコのくちからでてきました。
7ひきめがでたところで、
あのひとのまあるいかおがガラスにちかづきました。
「さあ、みんなあさごはんだ。あれ・・・?」
あのひとがくびをかしげました。
「なんか、すくないぞ・・・」
そういってあのひとは、メダカたちをかぞえだしました。
「7ひきしかいない。あと5ひきは、どこへいった?」
あのひとはおおきなすいそうのすみからすみまでみまわし、
そしてプレコをじっとみました。
「プレコ、まさか・・・」
プレコはあたまをもちあげて、
まあるいくちをぱくぱくさせていいました。
「ここに、いるよー」
するとくちから、8ぴきめ、9ひきめ、10ぴきめ、
11ぴきめ、12ひきめと、あとの5ひきがでてきました。
あのひとのほそいめがつりあがりました!
「プレコ、なんてことを!メダカたちをたべようとするなんて!」
8ぴきめのメダカが、あのひとにいいました。
「ちがうよ、プレコはいっしょにあそんでくれたんだ!」
みんなもこえをそろえていいました。
「プレコは、いっしょに、あそんでくれたんだ!」
でも、みんなのこえは、あのひとにはきこえませんでした。
あのひとは、メダカたちを
またとなりのちいさなすいそうにもどしました。
「たのしかったのに」「おもしろかったのに」「プレコはわるくないのに」
「ぼくたちをたべるだなんて」「どうしてわかってくれないんだ」
メダカたちはくちぐちにもんくをいいました。
「まあ、いいよー。あえなくなったわけじゃないからー」
プレコはそういって、
またじぶんだけになったすいそうのそこで、じっとしていました。
つぎのあさも、メダカたちはつぎつぎとあつまってきて、
プレコにあいさつをします。
「おはよう、プレコ!」「おっはー!」「ごきげんいかが?」
「みんな、おはよー、・・・ん?」
プレコが、かおをみぎにひだりにふりました。
9ひきめのメダカがききました。
「どうしたの、プレコ?」
「なにか・・・、くる」
「なにか、くる・・・?」
すると、プレコとメダカたちのすいそうのみずのうえに、
ぽちゃん、となみがたちました。
そして、すいそうがゆれはじめ、
みずのうえにおおきななみがたちました。
ぼちゃん、ぼちゃん、ぼちゃーん!
「うわ!」「ゆれる!」「なんだ、なんだ?」
メダカたちがこえをあげました。
ゆれはおおきくなり、プレコとメダカたちのすいそうのみずが、
そとにとびだします!
ばしゃ、ばしゃ、ばしゃーっ
10ぴきめのメダカが、プレコにむかってさけびました。
「プレコ、どうしよう!みずといっしょに、みんな、とびでちゃう!」
「まっててー」
メダカたちにこたえたプレコは、
むなびれをひとかきしてからだをくねらせ、
ゆれるみずのなかをいきおいよくまわりはじめました。
ひとまわり、ふたまわり、そして、みまわりめ!
なんと、ゆれてとびでるみずにあわせて、プレコもとびだしました!
ばっしゃーっ!
ひゅーっ・・・!
ちゅうをとんだプレコは、メダカたちのすいそうにとびこみました!
どぼーんっ!
メダカたちがいっせいにこえをあげました。
「わあ、プレコ!すごーい!」
「さあ、みんな、はいってー」
プレコはまあるいくちをおおきくあけました。
「よし、みんな、いそごう!」
11ぴきめのメダカがいうと、メダカたちはつぎつぎと
ゆれるみずのなか、プレコのくちにとびこみました!
1ぴき、2ひき、3びき、4ひき、5ひき、6ぴき、
7ひき、8ぴき、9ひき、10ぴき、
そして11ぴきめが、なんとかくちのなかにとびこみます!
さいごに12ひきめのメダカがとびこもうとしたとき、
すいそうのみずがおおきくゆれました!
ばっしゃーっ・・・!
「うわあっ・・・!」
12ひきめのメダカが、みずにさらわれ、
とびだしてしまいました!
それをみたプレコは、すぐにおもいっきりからだをくねらせ、
ゆれてとびでるみずにのって、
おもいっきりくうちゅうにとびだしました!
ばっしゃーっ・・・!
あのひとが、どっし、どっしとやってきました。
「ふう、けっこうおおきなじしんだった。
みんな、だいじょうぶか・・・」
みると、ふたつのすいそうのまわりはみずびだしになっていて、
なかのみずが、はんぶんなくなっていました。
そしてのこったみずのなかには、
プレコも、メダカたちもいませんでした。
「いない・・・!プレコ、みんな、どこへいっちゃったんだ・・・」
あのひとは、くろいけいとのぼうしをかぶったあたまをかかえました。
すると、すいそうのよこのかべのむこうのほうから、
ぴちゃ、ぴちゃ、というおとがきこえてきました。
あのひとがかべのむこうをのぞくと・・・、
なんと、ゆかに、プレコがいました!
「プレコ!そこにいたのか・・・!」
あのひとはいそいでバケツにみずをくんできて、プレコをいれました。
「よかったな、プレコ!でも、みんなは、ゆかにいなかった・・・」
あのひとはメダカたちのことをおもい、かたをおとしました。
そのとき、プレコがゆっくりとあたまをあげて、
まあるいくちを、ぱくぱくとうごかしました。
するとくちから、メダカが1ぴき、でてきました!
「あっ・・・!?」
あのひとがおどろくと、
メダカたちが、つぎつぎとプレコのくちからでてきました!
2ひき、3びき、4ひき、5ひき、6ぴき・・・、
7ひき、8ぴき、9ひき・・・、10ぴき、11ぴき・・・。
あと、1ぴき・・・。
プレコのくちから、さいごの12ひきめが、ぴゅっととびだしました!
「みんな、よかった・・・!よくやった、よくやった、プレコ!」
あのひとが、プレコをおもいっきりほめました!
12ひきめのメダカが、あのひとにいいました。
「プレコがみんなをたすけてくれたんだ!
そして、さいごにそとにほうりだされたぼくを、
プレコがくうちゅうでくちにいれてくれたんだよ、ぱくっ、てね!」
あのひとがプレコにあたまをさげていいました。
「あのとき、みんなをたべようとしたなんていって・・・、
すまなかった、プレコ!」
12ひきめのメダカは、あのひとにいいました。
「ねえ、プレコにコケをあげて!」
あのひとが、みみにてをやり、くびをかしげていいました。
「コケ・・・?なにか、コケって、きこえたぞ?」
「プレコのだいすきなもの、
それはかわのなかにはえている、コケなんだ!」
メダカのこえが、はじめて、あのひとにきこえたようです。
「かわのコケ・・・?
そうか、よし、こんどプレコにコケをあげよう!」
せまいバケツのなかで、12ひきのメダカが、
プレコのまわりをぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっとおよぎまわりました。
「プレコ、よかったね!」
プレコがまあるいくちをぱくぱくさせて、
ひくくてふといこえでいいました。
「みんな、またいっしょだよー」
(おわり)