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童話「タツオのやらなきゃいけないこと」

あさい海のそこに、にょきにょきと生えているピンク色のサンゴ。
そのサンゴのあいだから、ほそくて黄色いくだのようなものが出ています。
そのくだには・・・、あ、まんまるい目がついていました。
そして、からだは・・・、あれ? 
その黄色いからだは、サカナとちがって立っていて、シッポの先がクルッとまるまってます。
「さてと、居場所を変えたほうがいいかな」
からだが立っている黄色いいきものは、まんまるい目でまわりを見て、
サンゴをはなれていきました。


岩にはりついたイソギンチャクの、たくさんの手の中から顔を出したのは、カクレクマノミでした。
カクレクマノミは、その立っているいきものに声をかけました。
「ねえ、そこの、立ってるキミ。キミは、なんで、立ってるの?」
「やあ!ぼくは、タツノオトシゴだから」
「タツノオトシゴ ?なんだかへんな名前だな。タツノオトシゴ じゃ長い
から、タツオ、でいいよね。ねえ、タツオ、いっしょに遊ぼうよ」
「いや、ぼくは、やらなきゃいけないことがあって・・・」

そこへ、小さなハゼがやって来ました。
カクレクマノミがハゼに言いました。
「ちょうどいいところに来た。ね、そこに立ってるのは、タツオだよ」
ハゼは、タツオのくだのような口の先から、くるんと丸まったしっぽの先
まで見て言いました。
「ああ、キミはなんだかおもしろいカタチをしているね」
「今タツオに、いっしょに遊ぼうって言ってたんだ」
「いいね。遊ぼう、遊ぼう!」
顔をよせてきたカクレクマノミとハゼに、タツオが言いました。
「いや、ぼくはもう少ししたら、やらなきゃいけないことがあるから」
クマノミとハゼが、からだをいっしょにたおしてタツオにききました。
「やらなきゃいけないこと?」
「食べものをさがすこと?」
「いや」
「住むところをさがすこと?」
「いや」
「わかった。おヨメさんをさがすこと!」
「いや、ぼくにはおヨメさんがいる」
クマノミとハゼはタツオに言いよりました。
「じゃあ、やらなきゃいけないことって、ほかに何があるんだい?」

その時、下の岩穴から、ぬっと大きくさけた口があらわれました。
「なんだか、ぺちゃくちゃうるさいな!」
それは、からだじゅうにはんてんがある、おそろしいウツボでした。
「うわ!ウツボだ!」
クマノミとハゼは、わき目もふらず逃げ出します。
ウツボが岩穴から長いからだをくねらせて飛び出しました!
「みんな、食ってやる!」
タツオは、小さなせびれをぷるぷるふるわせて逃げようとするのですが、
まったく、おそくて・・・。
「なんだ、こいつ!」
ウツボはそのまるい目でタツオをにらみ、大きくさけた口をさらに大きく
開けました。
そこへ、むこうから大きな大きなサメが近づいてきました。
「チッ、じゃまがはいった」
ウツボはからだをくねらせ、岩穴へ入っていきました。
大きなサメは、タツオの前をゆうゆうと通りすぎていきました。


「ふう、助かった・・・。さあ、ぼくには、やらなきゃいけないことが
ある」
タツオがそう自分に言い聞かせていると、銀色にひかる大きなかたまりが
やって来ました。よく見ると、それはたくさん集まって泳いでいるイワシのむれでした。そのイワシたちが、いっせいに声を上げました。
「海の上に、嵐がくるぞー!」
嵐が来ると、海の上は波があれくるい、海の中もはげしくゆれて、かきまわされてしまいます。

タツオは、そのまるまったしっぽのさきでつかまるものをさがしました。
海のそこを見ると、海そうが少し生えています。
タツオは小さなせびれをぷるぷるふるわせて、海そうめがけて泳ぎ出しました。でも、まったく、おそくて・・・。

すると、海の中がゆれだし、そのゆれはすぐに大きくなって、
そのままはげしいうねりになりました!
グワーン 、グワーン、グワワワーン!
「うわあああっ!」
タツオははげしいうねりの中を、ぐるぐる、ぐるぐると、まわってしまいました・・・。



タツオが気づくと、海の中は、なにごともなかったように静かになって
いました。見ると、自分のしっぽが一本の海そうに引っかかっていました。
「助かった・・・。よし、やらなきゃいけないことを、やるとしよう!」
タツオがおなかに力を入れて言いました。
「さあ、みんな、出てきて!」
ぴゅう!
すると、おなかの中からくだのような口とまるまったシッポの、
タツオと同じカタチをした、黄色くてとっても小さな赤ちゃんたちが
飛び出してきました!
その数、何十匹も! 
タツオはおなかに何回も力を入れます!
ぴゅう!ぴゅう!ぴゅう!
そのたびに、赤ちゃんたちが、何十匹も何十匹も飛び出してきて、
タツオのまわりは、もう小さな赤ちゃんたちで、いっぱいになりました!
タツオのやらなきゃいけないこと、それはおヨメさんからあずかった卵を、自分のおなかの中にいれて、赤ちゃんをかえすことだったのです。

「みんな、元気で!みんな、みんな、元気で!」
タツオがかけた声は、数えきれないほどの小さな赤ちゃんみんなに、
とどきました。
                                       
                                                       (おわり)

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