不妊症/不妊治療について、もっと話したい6つのこと
「孫はまだかな」
夏休み、そしてお盆。夏は親族で集まる季節である。
この言葉はいつだって結婚後に聞く言葉No.1だ。
そしてわたしは夫と共に、はじめてIVF専門クリニックへ行った。重い足取りで、なんだか精神的にも苦しいものだった。
約1ヵ月半の検査を通じて、お互い不妊の原因となるような目立った原因は結局見つからなかった。不明のまま、かれこれ約2年間子どもができなかった。
1つの明らかな原因は、タイミング。
夫が海外での仕事をしているため、1年間のうちにそもそもチャンスが少ない。
もう1つは、お互い高齢であるということ。
わたしは37歳、夫は41歳。身体の老いは目に見えないこうした形で実感せざるを得ない。
そんなわたしたちは元々チャンスがない状況だったため、病院と相談した結果、最初から選択肢はただ1つ…タイミング法でも、人工授精でもない。
体外受精がスタートラインだ。
でも、これって人間の根本的な倫理的問題にグサリと突き刺さる。
すごく雑に、簡単に言ってしまうと…
お金で生命を買うって事?!
NO!と思っていても、YES…と頷いている自分がいる。「YESNO枕」があったら、高速回転をするだろう。
そして、その問いや葛藤の中、当事者としてこの秋にいよいよ体外受精に挑む。
ところで、IVFとはIn Vitro Fertilizationの略で、体外受精のことを指す。
in vitroは「ガラスの中で」という意味で、卵子と精子をガラス容器の中で授精させて培養し、再び体内へ戻す体外受精で生まれた子どもたちを「試験管ベビー」と揶揄された時代があった。
ちなみに、もしスムーズに体外受精が成功したら、わたしたちの子どもも「試験管ベビー」と思われるのだろうか。そう思いたくなくても、偏見の目に晒されるかもしれない。でも、今や日本では5組に1組が不妊治療をしており、体外受精では18人に1人、約100万人(16年度/厚生労働省調べ)が体外受精で誕生している。
世界で初めての試験管ベビーと呼ばれている1978年生まれのルイーズ・ブラウンさんという方がいる。現在、結婚して自然妊娠で授かった2人のお子さんがいる。
1978年の当時は8割の人が反対していたが、あれからまだ40年。これからますます体外受精や顕微授精で生まれる子どもが増え続けていくのではないだろうか。10年、20年後、少子化問題と共に世界中で技術と社会、価値観に再び変化が訪れる過程にあるように感じている。
にも関わらず、日本は不妊治療に対するガイドラインも法の制度も何もない。医療機関によって意見もバラバラ…
さらに養子縁組や代理出産までテーマが多岐に渡る。
一体どうしたらいいのだろう?
専門的なことは本やweb上で学ぶけれど、結局何が正しいのかもわからない。不妊治療は孤独である。オープンにしている人の方がマイノリティ。
でも、本当はもっと議論しなきゃならない巨大なテーマではないだろうか?
不妊治療のこと、もっと社会全体の枠組みの中で話すべきだと思う。
いつまでもタブー扱いしていられない現状がここにある。
ここからは最近知ったり、調べていた記事や動画などから情報をまとめてみた。
みんなでもっと話そう!6つのこと
① 改めての性教育 〜「避妊やめたら、妊娠するはずなのに問題」
社会人になる前に知っておきたかった事がある。それはプレコンセプションケアだ。
プレは「前に」、コンセプションは「受胎する」という意味で、将来に向けて自分の身体や心の状態の把握、正しい妊娠の知識や情報をあらかじめ知っておくことを意味する。
10代の頃の性教育現場で「妊娠しない為に、正しい避妊をしましょう」という教えが、逆に避妊をやめたら妊娠するという錯覚を生み出してしまった。生理やSEX、妊娠などを学ぶと同時に基礎知識として学生時代から「不妊」の知識を学び、妊孕力(にんようりょく)=女性本来が持つ生殖能力そのものを知る機会を増やしていけたらと願う。
②不妊大国日本の現状 〜「世界No.1の体外受精件数なのに問題」
世界の中でも日本は不妊治療の件数は圧倒的なトップを誇っている。
しかし、実際には日本が一番出生率が最低だ。
これだけ技術の精度の高い日本がどうしてこうなったのだろう?
原因は「自然に授かりたいという想い」と「晩婚化&晩産化」である。
海外では適切な薬の使用が体外受精や顕微授精への成功率が繋がっているにも関わらず、薬を用いずに自然に妊娠したいという自然志向が妨げになっている。そして、最終的にタイミング法から人工授精、人工授精から体外受精へステップアップした頃には遅かった…という事態が起きている。
さらに海外では当たり前に「着床前スクリーニング(PGS)」というものが行われる。受精卵の染色体の数の異常があるかどうかを調べて、より良質の胚(受精卵が発達したもの)を移植させることが、その後の流産率を低下させ、母子の安全な出産へ繋がる。
しかし、日本では日本産科婦人科学会がこれを認めていない。そんな中、現在確固たる確証を得るための臨床研究がようやく始まったところだ。こうした導入の遅れが出生率に影響が出ていることは間違いない。
ただし、その着床前スクリーニングでの最新の研究では、異常とされた胚が自ら初期の段階で修正する力を兼ね備えていることがわかった。異常胚から正常な健康な赤ちゃんが誕生しているクリニックも海外では増えつつある。医療の現場は常に倫理観も吹っ飛ぶようなスピードでアップグレードしている。
何が正しいのか、正しくないのかという問いだけでなく、全ての情報を開示された末に、個人がどんな選択肢ができるのかという自由度を増やし、その選択肢におけるリスク把握ができたらいいなと思う。
③男性不妊という現実 〜「不妊の原因は女性でしょ問題」
女性のお腹の中で育てて産むという一覧の流れの中だと、不妊の原因は女性と思われがち。でも実際のデータでは男性が原因である場合は48%もある。
その主な原因の理由は…
✔︎ 造精機能障害:精子が作れない
✔︎ 精路通過障害:精子が通れない
✔︎ 性機能障害:性行為ができない
要因が見つからず、75%は特発性造精機能障害とされる。
夫婦間で不妊治療の温度差がある要因として、
✔︎ 婦人科やレディースクリニックに行きにくい…
✔︎ 原因がある男性にあるという恐怖心 = コンプレックスに繋がる
男性不妊専門病院や泌尿器科の受診による解決や、夫婦間のコミュニケーションを増やし互いに理解し合うことが、不妊治療の大事な根幹である。
さらに男性不妊の認知を広めるムーブメントも必要。
④保険適用外の不妊治療 〜「お金足りません問題」
体外受精や顕微授精の1回のお値段を知った時は、覚悟をしていたものの衝撃的だった。もちろん病院によって様々だが、1 回 / 30〜80万ほどにおよぶ。1回の体外受精の成功率は年齢によって異なるが、おおよそ平均30〜35%だが、人の病状によっても確率は異なる。1回目でダメだったとしても、数回やれば誰でも妊娠しますよ、というお話ではない。
1回あたり数十万…何回繰り返せばいいのかと精神的負担にも直結するお金問題。
ちなみに東京都特定不妊治療費助成という助成金制度がある。採卵準備のための投薬開始から、体外受精・顕微授精1回に至る治療の過程で初めて受ける人は30万円。(さらにステージによって、7.5万〜20万円と異なる)
受け取れる回数は…
✔︎ 妻の年齢が39歳までの夫婦 / 通算6回まで
✔︎ 妻の年齢が40歳以上の夫婦 / 通算3回まで
しかし制限もあり、所得制限額を905万円未満の夫婦を対象とする。
ちなみに、海外ではどうかと言うと、イギリスでは3回まで100%保証の所得制限なし、アメリカでは2回までは自己負担額は年収の10%で年収1,950万円未満までならば保証される。(THE UPDATE/なぜ日本は不妊大国になったのか?より)
経済的な理由により不妊治療を断念してしまう夫婦も数多く存在している。ちなみになぜ国が保険適用にしないかというと、不妊症を「疾病」と認めていないためだ。もし保険適用になったら、救われる夫婦が増え、少子化問題の1つの希望にもなるのではないだろうか。そのため、様々なところで保険適用化への署名活動が行われている。
一方で、保険適用になることを反対している人もいる。
例えば、医療機関の金額格差からの統一の難しさ、超高齢化社会の中での税金負担、受診する患者の増加など、医療関係や個々からの様々な意見がある。
国が今後どんな回答を示すのか、行方を見守りたい。
⑤女性の社会進出と治療 〜「明日病院来てください問題」
働き方改革など様々な取り組みの中、多くの女性が社会で活躍している。
しかし仕事との両立の難しさを不妊治療中に感じ、退職する事態になっている。
✔︎ 伝えても会社の理解を得られない
→ 妊娠、出産、育休など社会で認識されつつあるが、まだ不妊症や不妊治療の基本的知識や理解がない。出世や仕事にも影響がある。
✔︎ 病院へ行く日が未確定
→採卵や胚移植など、身体の状態によって急遽数日前に病院へ行く日が確定する。その時に会社での仕事の調整の難しさが浮き彫りになり、迷惑をかけられないと退職せざるを得ない。
つまり、今の日本では不妊治療するとキャリアを諦めるしかない。フリーランスが増え、自由に調整できる人もいる中、職種によっては調整が困難なケースも多い。
同じ悩みを抱える女性の多くは、「仕事との両立」を望んでいるのではないだろうか。1つは高額な不妊治療費のためでもあるし、もっとも大事な視点は、不妊の経験で女性のアイデンティティの崩壊から再び自身を再構築する作業には、社会との接点はとても重要な要素だと感じる。
職場復帰や不妊治療のために転職をする女性の背中を押してあげられるような会社や、社会の制度を作って欲しいと感じる。
例えば、最近Twitterでメルカリの制度が話題になった。
シビれた!と感じるのは、
✔︎ 妊活の支援
夫婦の両方、もしくはどちらかが、高額な費用が発生する可能性のある不妊治療を行う場合、その費用を会社が一部負担します。
治療の開始から10年間、所得制限や年齢、回数の制限なく支援が受けられ、自治体による補助との併用も可能です。
自治体の補助金との併用も!
さらに産休・育休中の給与の100%保障!
ステキな心意気に惚れ込み、思わずわたしも就職したいと思ってしまった。
不妊治療中であることを周囲に伝えられない環境下の女性はたくさん存在している。不妊治療は孤独である。同じような仲間や理解者と共に、少しでも生きやすい状況になることを願う…オープンに話せて、受け入れ合う社会の実現を。
⑤テクノロジーが発展した先の生命倫理観の狭間で 〜 「命の選択問題」
「クローン人間」がテレビで特集された頃、どこか映画のようだと感じていた。自然の摂理に反して、いずれ天罰が下されるだろう…という、宗教的観点の話なども目にした。
そして、当事者の自分自身も「自然の理」の中で妊娠、出産できたらいいなと願っていた1人だ。でも、わたしは自分自身と向き合った結果、体外受精することに決めた。これは命を買うということなのだろうか。
そんな中で、THE UPDATEで登壇されたNPO法人 Fineの松本 亜樹子さんの言葉がとても印象的だった。
着床は、まだメカニズムが解明されていません。
なので、そこは人間がタッチできない領域。
だから人工授精であれ、体外受精であれ、顕微授精であれども、最終的には着床すれば、どんな形の妊娠も、それは自然妊娠であると思っていただけるといいなと思います。
着床前診断で見つかった異常胚の破棄や、出生前診断で異常が見つかった場合の中絶、代理出産や精子/卵子の売買…など、たくさんの倫理観の問題が山積みである。
この問いは様々なバックグラウンドや多種多様な人々の「人間とは」「命とは」が交差する。正しさや正義よりも、それぞれに優先したい想いが前に出るのだ。
きっと、ずっと、全員が納得できる答えはこの地球上には見つからないと思う。境い目で常に苦しみ続ける人がいる限り、問いを持ち続け、話し合い続けていけたらと願う。
不妊治療のあとは…
✔︎ 問題はさらに奥深くグラデーション化していく
無事に不妊治療の末、出産して育児が始まる。
しかし、ホッとしたのは束の間。
やっと1つの山を登ったのに、またさらに大きな山を超えなければない。
育休問題、待機児童、ベビーカー問題やら社会のざわつきが止まらない…
そんな中、Twitterでこんな記事が回ってきた。
ちなみに日本では議席に赤ちゃんを連れてきたら退席を求められたが、海外ではフォルツァイタリア党の議員、リチア・ロンズーリ氏の赤ちゃんは生まれて数ヶ月で議席デビューをしている。
生きる事は常に悩み、その中で選択し続けることの連続だ。
まだまだ当事者としてジブンゴトにできない若い人たちにこそ、ぜひこのnoteを読んでもらえたら嬉しい。
もちろん、これから子どものことを考えようと思っている人や、不妊治療をしようと思っている人たちにも…
最後に、10月6日(日)に「Fine祭り2019 聴きたい!みんなの妊活」が開催されるので、興味ある方はぜひ!スペシャルゲストにスプツニ子さんが!
こうしたイベントがもっと社会に溢れていたらいいな。
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