アメリカの高位公職者・聖職者の呼び方、敬称のつけ方

アメリカの政治家、公職者の呼び方や敬称のつけ方を見てみたいと思います。

※イギリスのは以下をどうぞ。

一般的に、公的な場では、 「Sir」という敬称で代用できますが、聖職者や称号を持つ人に対しては適用されません。女性に対して「Madam」「Ma'am」という言葉を使う習慣はあまりありませんが、特に高官(「Madam Governor」)の場合はまだ許容されています。このルールは外国の高官に対しても有効です。

「Mr.」が使われる場面について、女性に対しては「Madam」を使います。もっとインフォーマルな場面では「Mrs.」「Miss」「Ms.」が使われます。「Ms.」の使用については、正式なルールはありませんが、相手の好みを尊重すべきです。

連邦政府

大統領

アメリカ合衆国大統領 (President of the United States) が行政府の長であり、国家元首でもあります。また軍の最高司令官でもあります。日本の首相は国会議員の中から選出されますが、アメリカの大統領は議会とは別に選出されます。

大統領の宛先は以下の通りです。

The President
The White House
Washington, DC 20500

手紙での呼びかけは、男性大統領の場合は「Dear Mr. President」女性大統領の場合は「Dear Madam President」となります。口頭で呼びかけられるときは、「Mr. President」(女性の場合は「Madam President」)、フォーマルな場で紹介を受けるときは「The President」あるいは「the President of the United States」と呼ばれます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The President
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Madam) President
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) President
フォーマルな紹介:The President あるいは the President of the United States

退任した大統領については、「The Honorable」が敬称となります。呼びかけはバイネームで呼ばれます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Mrs./Ms.) □□
口頭での呼びかけ:Mr. (Mrs./Ms.) □□
フォーマルな紹介:The Honorable △△ □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

副大統領

副大統領 (Vice President) は大統領に次ぐ地位であり、大統領が職務を執れなくなったときは即時に大統領の職務を代行します。また副大統領は連邦議会上院の議長を兼ねます。副大統領の宛先は以下のとおりです。

The Vice President
Executive Office Building
Washington, DC 20501

呼びかけられ方は大統領に準じます(PresidentがVice Presidentに変わるだけです)。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Vice President
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Madam) Vice President
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) Vice President
フォーマルな紹介:The Vice President あるいは the Vice President of the United States

閣僚

閣僚 (Cabinet member) は、大統領によって任命され、上院が承認して職務に就きます。閣僚は議会の議員を同時に務めることはできません。

アメリカには設立順に以下の15の (department) があります。

国務省 (Department of State)
財務省 (Department of Treasury)
国防総省 (Department of Defense)
司法省 (Department of Justice)
内務省 (Department of the Interior)
農務省 (Department of Agriculture)
商務省 (Department of Commerce)
労働省 (Department of Labor)
保健福祉省 (Department of Health and Human Services)
住宅都市開発省 (Department of Housing and Urban Development)
運輸省 (Department of Transportation)
エネルギー省 (Department of Energy)
教育省 (Department of Education)
退役軍人省 (Department of Veterans Affairs)
国土安全保障省 (Department of Homeland Security)

閣僚には、「The Honorable」という敬称がつけられます。アメリカには枢密院はないので、枢密顧問官を示す「The Right Honorable」といった敬称はありません。

手紙の呼びかけは「Dear Mr. Secretary」あるいは女性なら「Dear Madam Secretary」となります。口頭で呼びかけられるときは、男性は「Mr. Secretary」女性は「Madam Secretary」となります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Madam) Secretary
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) Secretary
フォーマルな紹介:The Secretary of ○○
※△△ ファーストネーム □□ 姓 ○○ 省庁名

連邦最高裁判所

アメリカの連邦最高裁判所 (Supreme Court) は、単に終審裁判所としての機能だけでなく、現行の法律を審議し、ときには違憲であるとして法律を無効にする権限を持っています。

連邦最高裁判所の長は最高裁判所長官 (Chief Justice) です。判事 (Associate Justice) は大統領によって指名され、上院が承認して就任し、終身制です。

敬称のつけ方
最高裁判所長官

封筒の宛名:The Chief Justice
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Madam) Justice あるいは Dear Mr. (Madam) Chief Justice
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) Chief Justice
フォーマルな紹介:The Chief Justice
最高裁判所判事
封筒の宛名:Mr. (Madam) Justice □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Madam) Justice
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) Justice あるいは Mr. (Madam) Justice □□
フォーマルな紹介:Mr. (Madam) Justice □□
※□□ 姓

連邦議会

上院議員

上院議員 (Senator) は、各州から2人ずつ選ばれ、100人の議員で上院 (Senate) を構成します。上院議員の任期は6年で、2年ごとに3分の1が改選されます。そのため、経験のある現職議員が常に確保されるしくみとなっています。

上院の議長は、副大統領が務めます。

上院は、下院から送られてきた法案を審議、可決・否決させたり、大統領からの指名人事を承認したり、大統領がとりきめた国際条約を審議、可決・否決させたりします。

上院議員の敬称は「The Honorable」です。アメリカには貴族はいないので、侯爵を示す「The Most Honorable」や伯爵・子爵・男爵を示す「The Right Honorable」といった敬称はありません。

呼びかけは「Senator+姓」という形で呼ばれます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Senator □□
口頭での呼びかけ:Senator □□
フォーマルな紹介:Senator □□ from 〜
※△△ ファーストネーム □□ 姓 〜 州名

下院議長・下院議員

下院議長 (Speaker of the House) は下院議員 (Representative) の中から選出されます。下院議員は435人おり、下院 (House of Representatives) を構成します。

下院議員の任期は2年で、全員が同じ時期に選出されます。日本のように任期途中で解散させられたりすることはありません。

下院は、大統領や連邦最高裁判所判事を弾劾したり、大統領候補が選挙人の過半数を獲得できなかった時に大統領を選出したりできます。

下院議長の敬称は「The Honorable」です。呼びかけは職名で呼ばれます。下院議員の敬称は、「The Honorable」です。呼びかけはバイネームで呼ばれます。

敬称のつけ方
下院議長

封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Madam) Speaker
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) Speaker
フォーマルな紹介:The Speaker of the House of Representatives
下院議員
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr./Mrs./Ms. □□
口頭での呼びかけ:Mr./Mrs./Ms. □□
フォーマルな紹介:Representative Jones from 〜
※△△ ファーストネーム □□ 姓

外交官

国連大使・駐在米国大使

国際連合に送られたり、米国外の国に駐在する米国大使の敬称は「The Honorable」になります。後述の駐米外国大使とは敬称が異なります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr. (Madam) Ambassador
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) Ambassador
フォーマルな紹介:
The United States Ambassador to the United Nations(国連大使)
The American Ambassador あるいは The Ambassador of The United States of America(駐在米国大使)
※△△ ファーストネーム □□ 姓

領事

領事 (consul) の敬称も「The Honorable」になりますが、手紙の呼びかけや口頭での呼びかけ、紹介時にはバイネームになります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr./Mrs./Ms. □□
口頭での呼びかけ:Mr./Mrs./Ms. □□
フォーマルな紹介:Mr./Mrs./Ms. □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

駐米外国大使

駐米外国大使の敬称は「所有代名詞+Excellency」(閣下)になります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:His (Her) Excellency △△ □□
手紙での呼びかけ:ExcellencyあるいはDear Mr. (Madam) Ambassador
口頭での呼びかけ:ExcellencyあるいはMr. (Madam) Ambassador
フォーマルな紹介:The Ambassador of+国名
※△△ ファーストネーム □□ 姓

国連事務総長

国連事務総長 (Secretary-General of the United Nations) の敬称も、「所有代名詞+Excellency」(閣下)です。

敬称のつけ方
封筒の宛名:His (Her) Excellency △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr.(Madam) Secretary-General
口頭での呼びかけ:Mr. (Madam) Secretary-General
フォーマルな紹介:The Secretary-General of the United Nations
※△△ ファーストネーム □□ 姓

地方自治体

州知事

州知事 (governor) の敬称は「The Honorable」です。手紙や口頭では職名で呼ばれます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Governor □□
口頭での呼びかけ:Governor あるいは Governor □□
フォーマルな紹介:The Governor of 〜 あるいは Governor □□ of 〜
※△△ ファーストネーム □□ 姓 〜 州名

州議会議員

州議会議員 (state legislator) は、州議会 (legislature) に議席を持つ議員を言います。敬称は「The Honorable」ですが、バイネームで呼ばれます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Mr./Mrs./Ms. □□
口頭での呼びかけ:Mr./Mrs./Ms. □□
フォーマルな紹介:Mr./Mrs./Ms. □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

州最高裁判所判事

The Honorableが敬称となります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Judge □□
口頭での呼びかけ(男性):Justice あるいは Judge □□
口頭での呼びかけ(女性):Madam Justice あるいは Judge □□
フォーマルな紹介:
(共通)The Honorable △△ □□
(男性)Mr. Justice □□ あるいは Judge □□
(女性)Madam Justice □□ あるいは Judge □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

市長

市長は、イギリスと異なり、lord mayorやprovostという職はなく、市の規模にかかわらず全員mayorとなります。

市長の敬称は「The Honorable」あるいは、「所有代名詞+Honor」です。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Honorable △△ □□ あるいは His (Her) Honor the Mayor
手紙での呼びかけ:Dear Mayor □□
口頭での呼びかけ:Mayor □□ あるいは Mr. (Madam) Mayor あるいは Your Honor
フォーマルな紹介:Mayor □□ あるいは The Mayor
※△△ ファーストネーム □□ 姓

軍関係

将校の場合は、封筒に宛名を書くときとフォーマルな紹介の場は、例えば「Major General Sarah Miller, U.S. Army」のように書かれます。そのほかの紹介の場では「Major General Miller」のように呼ばれます。手紙の呼びかけでは「Dear General Miller」のように短縮して書かれます。

下士官・兵の場合も同様に、二等軍曹 (staff sergeant)、一等軍曹 (gunnery sergeant)、曹長 (first sergeant) などは、手紙の呼びかけでは単に「Sergeant」、上等兵一等兵 (private first class) は「Private」と書きます。海軍や沿岸警備隊では下士官は「Chief」と呼ばれます。その他の下士官は階級別に挨拶をしますが、非公式には、下級兵は一般的に「Soldier」または「Sailor」と呼ばれることもあります。

下級将校が上級将校に挨拶するときに使わなければならない普遍的な敬語は、「Sir」と「Madam」です。例えば、軍曹に対しては「Yes, Sergeant.」のように答えます。

宗教関係

アメリカは政教分離国家なので、宗教関係者が政治に直接力を持っていませんが、高位聖職者はそれなりに尊敬を受けています。

ローマ教皇

ローマ教皇 (the Pope) の敬称は「所有代名詞+Holiness」(聖下)です。

敬称のつけ方
封筒の宛名:His Holiness, the Pope あるいは His Holiness, Pope ○○
手紙での呼びかけ:Your Holiness あるいは Most Holy Father
口頭での呼びかけ:Your Holiness あるいは Most Holy Father
フォーマルな紹介:His Holiness あるいは the Holy Father あるいは the Pope あるいは the Pontiff
※△△ ファーストネーム □□ 姓

こちらも参考にどうぞ。こちらに比べるとアメリカ式はかなりさっぱりしているように思います。

枢機卿

枢機卿 (cardinal) の敬称は「所有代名詞+Eminence」(猊下)です。

敬称のつけ方
封筒の宛名:His Eminence, △△ Cardinal □□, Archbishop of 〜
手紙での呼びかけ:Your Eminence あるいは Dear Cardinal □□
口頭での呼びかけ:Your Eminence あるいは Cardinal □□
フォーマルな紹介:His Eminence, Cardinal □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓 〜 地域名

司教・大司教

司教 (bishop)、大司教 (archbishop) に対しては、「The Most Reverend」という敬称になります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Most Reverend △△ □□, Bishop (Archbishop) of 〜
手紙での呼びかけ:Your Excellency あるいは Dear Bishop (Archbishop) □□
口頭での呼びかけ:Your Excellency あるいは Bishop (Archbishop) □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓 〜 地域名

モンシニョール

イギリスに準じます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Reverend Monsignor △△ □□
手紙での呼びかけ:Reverend Monsignor あるいは Dear Monsignor
口頭での呼びかけ: Monsignor □□ あるいは Monsignor
フォーマルな紹介:Monsignor □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

司祭

司祭 (priest) とは、いわゆる神父のことです。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Reverend △△ □□
手紙での呼びかけ:Reverend Father あるいは Dear Father □□
口頭での呼びかけ:Father あるいは Father □□
フォーマルな紹介:Father □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

男性信徒

男性信徒 (brother)は、単に「Brother+ファーストネーム」あるいは「Brother」と呼ばれます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:Brother △△ あるいは Dear Brother △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Brother △△ あるいは Dear Brother
口頭での呼びかけ:Brother △△ あるいは Brother
フォーマルな紹介:Brother △△
※△△ ファーストネーム □□ 姓

女性信徒

女性信徒 (sister) は、「Sister+フルネーム」あるいは単に「Sister」と呼ばれます。

敬称のつけ方
封筒の宛名:Sister △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Sister △△ □□ あるいは Dear Sister
口頭での呼びかけ:Sister △△ □□ あるいは Sister
フォーマルな紹介:Sister △△ □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

プロテスタントの聖職者

プロテスタントの聖職者に対する敬称は「The Reverend」です。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Reverend △△ □□
(神学博士号保持者の場合は名前のうしろにD.D.とつける)
手紙での呼びかけ:Dear Dr. (あるいは Mr./Ms.) □□
口頭での呼びかけ:Dr. (あるいは Mr./Ms.) □□
フォーマルな紹介:The Reverend (あるいは Dr.) □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓

米国聖公会の主教

米国聖公会 (Episcopal) の主教 (bishop) の敬称は、「The Right Reverend」になります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:The Right Reverend △△ □□
(神学博士号保持者の場合は名前のうしろにD.D.とつける)
手紙での呼びかけ:Dear Bishop □□
口頭での呼びかけ:Bishop □□
フォーマルな紹介:The Right Reverend △△ □□, Bishop of 〜
※△△ ファーストネーム □□ 姓 〜 地域名

ラビ

ユダヤ教のラビ (rabbi) は、単に「Rabbi」となります。

敬称のつけ方
封筒の宛名:Rabbi △△ □□
手紙での呼びかけ:Dear Rabbi □□
口頭での呼びかけ:Rabbi □□ あるいは Rabbi
フォーマルな紹介:Rabbi △△ □□
※△△ ファーストネーム □□ 姓 〜 地域名

イギリス王族・貴族

イギリスの女王やロイヤルファミリーに対する手紙の書き方はこちらに準じます。

またイギリスの貴族に対する敬称のつけ方は、こちらに準じます。

まとめ

いかがでしたか?

イギリスに比べればかなりシンプルですが、それでも時と場合に応じて使い分ける必要があります。

高官に手紙を書いたり、パーティーに出たりするときは、呼び方を正しく使って、失礼のないようにしましょう。

参考文献:
"Spoken and Written Forms of Address for U.S. Government Officials, Military Personnel, Foreign Officials, Nobility, and Religious Officials", https://www.txdirectory.com/files/ref/forms%20of%20address.pdf
eJournal USA、米国国務省国際情報プログラム局、http://www.america.gov/publications/ejournalusa.html

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