大晦日の前日のこと

 天使が現れるのは、光の差す場所だと思う。朝日の中を歩く愛犬の後姿を見ながらぼんやりそう思った。12月30日。朝早いのに(といっても9時を過ぎているが)周りの家々から掃除機の音がする。年末って感じだ。

 ごみ収集員は、年に一度の繁忙期だ。明日の回収はないから今日が年内最後。駆け込みでゴミ袋を持ってくるおばさま方に丁寧に対応する。
「まじかーあ!」
先ほどまで丁寧におばさま対応していた一人が大きな声を出した。トラブルでもあったのか、とリードを強く握ったまま振り返る。
「ナイスーーッ!」
もう一人の男も大きな声を出した。男たちの視線の先には鉢合わせしたもう一台のごみ収集車。窓から顔を出した男は、よく聞こえなかったが何やら楽しそうに手を振りながら返事した。どうやらヘルプがきたらしい。
なんて楽しそうな職場なんだと思った。羨ましいと思った。男たちは時間内に丁寧にごみを回収しきって、更衣室で服を着替えながらきっとまた楽しそうに今日の大変さを笑い合うだろう、とそんな気がした。

 空を見上げると青空だった。雲はほんの少しだけ。中学の理科で、空を占める雲の割合が一割以下の時は「快晴」、2〜8割の時は「晴れ」と呼ぶと習ったことを覚えている。大体は晴れなのだ。理科は理論的で澄ました顔して意外とポジティブらしい。もしくは我々がネガティブなのか。
今日は確実に快晴だ。

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