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はじまりの日

本日は、授業が再開した日、そして久しぶりのアルバイトの日でした。
わたしは地元のこじんまりとした用品店で働いています。中学の同級生のお父さんのお店。今日は、若ママさんとシフトが同じだったので、暇な店内にぽつんとあるたったひとつのレジを前にして、膝の力を抜きながら、ふたりでおしゃべりしていた。
若ママさんは「もうすぐ子どもの誕生日なんだ。12月25日が誕生日だから、クリスマスのお祝いは24日にして、ケーキはきちんと分けるの。プレゼントもそれぞれ用意しなくちゃね。じゃないと可哀想じゃんか。12月生まれの子だけさみしい思いなんてさせたくない!」
「実は、わたし双子なんだけどね、誕生日はいつも、小さなホールケーキが二つ用意されてたの。わたしたちの誕生日の前日は、兄の誕生日だったんだけど、それも、まとめて済まされることはなかった!」
そう言ってて、すごく感動した。彼女の子どもはさぞ幸せだろうと思ったし、そんな、彼女の素敵な想いをしっかりと理解できる年齢になったとき、さらに幸せを感じるんだろうなと思った。私まで、すごくすごく幸せな気持ちになった。もし、自分がいつか子どもを授かったら、その子の誕生日は何がなんでも大切にしたい。プレゼントや立派なケーキはもちろん、名前の書かれたチョコプレートも忘れたりしないぞと思った。

レジに立ってお会計していると、妙に私の顔を見つめてくる男の人がいた。
「あの、違ったらごめんなさいなんだけど……。山田先生の娘さんですか?」
「………違います。」
「……ごめんなさい。」
こんな会話をして、お互いにクスクスっとなった。彼は、“山田先生の娘さんが働いてる”という噂を聞いて、いちかばちかで訊いてみたらしい。山田先生の娘さんに会ったことはないらしい。なんて向こう見ずな人なんだろう、とほんのすこしだけ、瞬間的に憧れた。

人と人との、たわいのないすべてが、しがらみすらも、愛おしく感じてくる。それにしても暇すぎて、商品整理をしながら店内にながれる流行りの曲の歌詞をしみじみと捉えたりしていた。呆れるほど聴く機会があるので、もはや聴かされてる気すらして、聴き流してばかりいたけど、案外すてきなことを歌っていたり、異常にしょうもないことを歌っていたりしてて“暇つぶししながら働いてる”にしては充実した時間であった。

休憩中、恋人に返信をした。履修する授業の話をしていた。偶然、同じ授業を取っていたようで、「その授業同じだよ!一緒に受けよう!」というメッセージが来たとき、むくむくむくっと幸せすぎる想像が膨らんで、未来のこと大好きになった。


帰り道は、わざと暗い田圃道を通る。仲良しな猫ちゃんに会いたいがために、バイト終わりに遠回りをしたり、ダッシュをしたりするのである。首輪をした名前も知らないその猫ちゃんとわたしは、あっという間に仲良しになった。「ニャー、ニャーー。ニャ」とやわらかい毛と小柄なからだをわたしに擦りつけてくるのが、とってもいじらしい。小さな頭蓋骨を包むようにその頭をなでるたび、すごく愛おしくなる。帰ろうとすると、腹から発声したような一段と大きな声で「ニャー!」と鳴きながらわたしの足の前にきて阻む。とはいえ、領域を外れると追って来ず、外灯の下にちょこんと座って見送ってくださる。とってもやさしい。また会おうね。

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