見出し画像

柿畑の犬、薮をつつきまくる飼い主

私には愛犬がいる。世界一いや、宇宙一かわいい愛犬だ。たぶん、可愛すぎてそのうち国宝認定されると思う。ギネス登録も間違いない。「世界で一番キュートな犬」で登録されることはわかってる。
 そんな愛犬だが、実は可愛いだけではない。特別な犬なのだ。

私の愛犬(本当は犬に思えないほど賢いのだが、「犬」を「人」に変えて呼ぶと「愛人」となってしまう。意味が変わり多大な誤解を与えかねないので「愛犬」としかたなく呼んでいる。)は、実は、柿畑の出身である。

ある日、知人から「なんか生き物であることしかわからない、何かを拾ったけどいる?」と連絡が来た。生き物であることしかわからない、とは何事だ。田舎だから、どうせハクビシンや狸だろう。そう思いつつも好奇心に駆られて知人宅を訪問した。
訪問して知人が「柿畑にいてねぇ。」と言いながら差し出してきたのは、確かに、生き物であることしかわからない何かだった。
Google検索してもわからない。知恵袋を読んでもわからない。汚れに汚れたモップの先のような、汚い布のような何かが、小さく段ボールの隅に入っている。時たま動くから、「あぁ、これは生きているんだ。」とわかる。その程度だ。ハクビシンではないし、狸にしてはサイズや形、特徴が違う。私は、この謎の"物体"に好奇心を抱いた。
とりあえず、私は知人から"物体"を受け取り、そのままペットショップへと向かった。

私ではわからないが、動物の道の先立であるペットショップの店員さんなら、"物体"の正体がわかるかも!と考えたのだ。
そして、そこで言われた言葉が「…なんですかね、これ。犬?」
なんと、店員さんもよくわからなかったのだ。とりあえず毛を刈ってみればわかるかも。と言うので出費を覚悟しながらトリミングを頼んだ。

いくばくか立った後、ペットショップに戻る。そこで衝撃的な事実が判明した。

「トイプードルでした。あと、足が一本ありません。」

トイプードル!?足がない!?青天の霹靂であった。面白そうな生き物を見つけた。それぐらいの気持ちで貰ってきたらトイプードルだったのだ!しかも足が一本無い!

おそらく、生まれつき足の一本ないこの犬は、ブリーダーが山に放してそれが柿畑にたどりついたものであろう。そう店員さんは推測していた。
生まれ持ったものが重いぞ。この犬。

その後、私は警察に届け出(一応物品扱いになるので落とし物を取得した旨の届け出が必要になる。)をして、犬を飼うために必要な諸々をし、そして今に至る。
我が家に来たばかりの頃の愛犬は小さく、常に震えていた。しかし、今では私の布団で毎日寝て腹を上にしている。体だけではなく態度も大きくなった。

よく、犬(特にトイプードル)を柿畑で拾ったと言うと驚かれる。幸運だと言われる。確かに幸運だ。しかし、それは愛犬がトイプードルだからではないし、拾ったからというものではない。愛犬と出会えたことが幸運なのだ。よくわからない"物体"を貰ってきた自分の好奇心が幸運なのだ。

私はこの好奇心ゆえに、おもしろくない出来事に巻き込まれることも多々ある。泣いたこともある。しかし、それでも好奇心を捨てきれず、こうして幸運に巡り合うこともある。好奇心を持ち続けれていることは、幸運なのかもしれない。

私の好きな言葉に「チャンスの女神に後ろ髪はない。」というものがある。

もしかしたら、掴んだものが藪の中の蛇かもしれないし、地獄の獄卒の金棒かもしれない。しかし、チャンスの女神の前髪かもしれない。

私は、恐れずに、目の前にある物に対して好奇心を持ち続けたい。



以上が、柿畑出身の愛犬と、薮をつつきまくって蛇を出しがちな飼い主の話でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?