変な家2読んで夢オチ問題をちょっと考えてみる
雨穴氏の「変な家2」を読んだ。普段小説を読まないが、とても面白かった。ただ、結末に謎が残ったのでちょっと考えてみたい。
"事故"に関する時系列を整理してみる
とりあえず雑多に列挙してみる。
夏休みが近くなってきたある日、来週の土曜日の朝、ヤエコの義足を隠してくれないかと美津子は自室で父から依頼をされる
夏休みが始まって最初の土曜日に詩織は美津子の家に遊びに行く
詩織が美津子の家の門の前に着くと、使用人が出迎える
使用人に案内され、詩織は美津子のいる2階へ上がる
詩織は廊下で待っていた美津子と合流
詩織は2階中央にあるヤエコのいる部屋に行き、挨拶をする
挨拶を終え、詩織は美津子の部屋に入る
詩織は美津子の部屋の奥にあったクローゼットが一番に目についた
美津子がトイレに行く
その間に詩織は美津子の部屋にあるクローゼット(本棚)を開ける
美津子がトイレから戻ってくるのを察知した詩織は本棚を閉める
美津子と詩織は食堂で夕食を食べる
美津子と詩織はホームシアターで映画をみる
お風呂に入る
美津子の部屋に戻り、詩織就寝
詩織が就寝したのを確認し、美津子はヤエコの部屋に行く
ヤエコは就寝済
美津子はヤエコの部屋から義足を持っていく
美津子は自室に戻り、本棚に義足を隠し、鍵をかける
美津子、ベッドに入る
しかし美津子は本棚の鍵を開け、義足をヤエコの部屋へ戻す
美津子は自室に戻る
美津子就寝
詩織、目を覚ます
詩織は本棚を開けようとするが鍵がかかっていて開かない
その時、詩織の背後に視線を感じ、ベッドを見たが美津子は眠っている
詩織、再度就寝
翌朝5時に詩織は美津子に起こされる
しばらく美津子の部屋で遊ぶ
詩織がトイレに行こうとすると、廊下でヤエコと遭遇する
先に詩織がトイレに行く
その間にヤエコが階段から落下
詩織はトイレから出て、廊下を確認するも誰もいないことに気づく
詩織はヤエコの部屋に行くも、ヤエコの姿がないことに気づく
詩織はしばらく立ち尽くす
1階で使用人たちがヤエコを発見し、ヤエコを病院に搬送する
搬送先の病院でヤエコ死亡
葬式後、美津子は自宅に戻る
ヤエコの部屋に義足がないことに気づく
自室の本棚を確認すると鍵がかかっている
机の引き出しの中にあるペンケースから鍵を取り出し、本棚の鍵を開けると、そこには義足があった
美津子が義足を元に戻したのが夢オチではなかった場合を考察してみる
作中の最終盤で言及した"夢"の話は明らかに違和感がある。なぜなら、夢の話を丸ごと省略しても話は通じるからだ。前作の最後に"手袋"のくだりがあったが、この"夢"の話を美津子が、そして雨穴氏が省略しなかったということは"万に一つの確率で何らかの本質がある"ということを示唆している。
美津子は自分がヤエコを殺したと言っているが、わざわざ"夢"の話をしたということは本当は自分が犯人ではないことを伝えたいと思いつつも、一度は義足を隠そうとしたことは事実であり、葬式後に本棚の中に義足があることがわかっているため、義足を戻したという確証が持てずに、罪の意識を持っているということだろう。本当に夢であったという可能性は否定できない。そうであれば、インタビューの通りだと解釈すべきだろう。
ただ、そうではなかった場合、一体なぜ本棚の中に義足があったのか考えてみたい。
詩織が夜に本棚を開けようとした時に鍵がかかっていたが、この本棚の鍵は誰がかけたのだろうか。
まず、美津子がかけたと仮定する。この時点では本棚に義足はないはずである。なぜなら、ヤエコの部屋に戻したばかりだからだ。しかし、その後、再び美津子が本棚を開けた時に義足が存在していた。ということは、この間に(美津子が義足をヤエコの部屋に戻してから葬式後に美津子が本棚を確認するまで)誰かが本棚を開けた可能性がある。
では美津子以外がかけたとする。まず、ヤエコはどうだろうか。ありえなくはないが、可能性は低いのではないかと思われる。なぜなら、部屋の中は詩織が懐中電灯をつけないといけないほどの暗さであるからだ。その中で義足なしでは壁に手をかけて歩かないといけないようなヤエコがそんなことができるとは考えにくい。美津子の母はどうだろうか。その可能性も低いと思われる。美津子が母に背いたということがわかったのであれば、殺しにかかるはずである。美津子に罪悪感を植え付けるという嫌がらせをするという可能性もなくはないが、娘が台本通りのことを言わないだけで皿に毒を盛るような親である。罪悪感という生ぬるい処置では済まさないだろう。そもそも、母はその日には家にいなかったのではないだろうか。なぜなら、詩織は"家族に挨拶"しているためである。挨拶したのはヤエコのみであることを考えれば、その日美津子の家にいた家族はヤエコのみなのではないだろうか。同様の理由で美津子の父も否定できる。となると、考えられるのは使用人のうちの一人ではないだろうか。
…とはいえ、使用人が義足を入れ直したというのは物語からしてちょっと脈絡がなさすぎる気もする。そこで、新たに以下のような仮説を立てた。
・美津子は一度義足をヤエコの部屋から回収した
・しかし、罪悪感からヤエコの部屋に戻した
・ヤエコは義足を美津子の部屋に置いた
・朝方、ヤエコの部屋にあるはずの義足が自分の部屋にあることに気づき、ヤエコの意図を汲んだ美津子は予定通り義足を本棚に入れた
この仮説であれば義足の在処については整合性がとれる。また、一度美津子がヤエコの部屋から義足を回収した時に「ガサ」という音が立っていたが、ヤエコは美津子が義足を持っていくのを見ていたのではないだろうか。美津子は本棚に義足を入れ、鍵をかける。しかし、ヤエコのことが気になり、本棚の鍵を開け、義足を取りだし、本棚の鍵を閉める。そして、ヤエコの部屋に義足を戻しにいく。それにより、美津子はふわふわとした万能感に包まれて眠る。ヤエコは美津子が寝静まったころに義足を美津子の部屋に戻しにいく。ちょうどその時、詩織が本棚の鍵をあけようとしていた。詩織が感じていた視線はヤエコのものだったのではないか。朝方に目が覚めた美津子はヤエコの部屋にあるはずの義足が自室にあることに驚く。ヤエコの真意を汲んだ美津子は予定通り本棚に義足を入れる。美津子はそれを一人で背負いきれなかったため、早朝5時に詩織を起こしてトランプ遊びで一緒に過ごすことでどうにか耐えようとしていたのではないだろうか。ヤエコが階段から転落死したという"怖い記憶"が防衛本能として美津子がその日の朝に義足を本棚の中に入れたという行動の記憶にムラを起こしたのかもしれない。ヤエコの真意を汲んだ行動でありながらも悲劇的結末の片棒を担いでしまったことが十字架となっているのではないか。そのことが美津子のインタビューから見える罪の告白と自己保身を表しているように見える。
美津子の部屋の配置を考察してみる
詩織が美津子の部屋に入って一番に目についたのは部屋の奥にある本棚である。また、夜に詩織が本棚を開けようとした時に背後に視線を感じたので、ベッドの方を振り向いた。
このことから、美津子のドアの正面奥に本棚があり、ドアの側にベッドがあったのではないかと思われる。そして、視線は本棚から見て背中の方向、つまりドアの方向から来ていたのではないか。これがヤエコが義足を戻しに美津子の部屋に入った(入ろうとした)時と重なるのではないか。
2階の間取りを考察する
2階の部屋の構成はどうなっていたのだろうか。合計7部屋もある。そのうちの3部屋はトイレと美津子・ヤエコの部屋である。1階は厨房・来賓室・使用人の部屋であるとすると、美津子とヤエコは1階に降りなくても生活できるような構成だったのではないかと考えられる。つまり、詩織が入ったシアタールーム・風呂・食堂は2階にあったのではないだろうか。食堂が2階というのはやや不自然な気もする。厨房の近くに食堂があることが一般的だからだ。また、転落死が起きるような階段を使用人が毎日料理を2階まで運んでくるのも不自然だ。しかし、前作のように階段以外に1階と2階をつなぐ部分があるとしたら…?仮にそのような目的でなくても、小学校の給食の配膳用エレベーターがあることを考えれば、2階に食堂がある可能性は否定できない。
そして、これはまだわからないのだが、2階にあるトイレ・美津子・ヤエコの部屋・シアタールーム・風呂・食堂にもう1つ部屋が残っている。この部屋は一体何なのだろうか…。
ここまで雑な文章を書いてみて思ったが、結局推測でしかないし、公式が答えを言わない以上、あまり考えてもしょうがないという結論でこの記事を締める。(そして、この内容を考えているとちょっと陰鬱な気分になったので精神衛生上、この辺にしておくのが良さそう)
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