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君のために切った髪があるということ

私には大好きで大好きでたまらない人たちがいる。OWV(オウブ)という4人組のボーイズグループだ。

特に、青担当・佐野文哉さんというメンバーが大好きで、
いや、もう大好きとかいう次元じゃない。
彼を人生の目標として、基準として、コンパスとして心の中に棲まわせている。

彼は、ダンスを始めてわずか2年で名だたるビッグアーティストのバックダンサーを務め、その実現方法も、単身渡米したり、面識のない有名なダンサーにDMで突撃したり、とにかく大胆不敵、鋼鉄の意思、行動力の人である。

かと思えば、ファンの前では「今日のライブを経て、完全無欠じゃない自分を見せてもいいのかもしれないと思った、どんな佐野文哉も愛してください」と言ったり、本業と直接関係ない仕事のために毎日30km走り込みしたり、鎧をひとつひとつ脱ぐようにふと繊細さや綿密さを見せる。
本当に、荒さと細やかさの振り幅がすごい人だ。
その二面性が彼を早々と表舞台に押し上げたのかもしれない。

私には、どちらもない。
恥ずかしながら、この年で追うには遅い夢を追っている。
周りは若くてエネルギッシュで自分より実力があって、どうしても気後れしてしまう。
自分から人脈を広げられる度胸もなければ、スッパリやめる度胸もない。
かけられるお金もない、毎日ひとりでに何かを続けられる根性もない。
絶対に何でこんなおばさんがいるんだろう、と思われていることがつらい。
こんな状態じゃ、上達もしない。
苦しい。

正直、OWVも順風満帆とは言えない状態が続いていた。世はボーイズグループ戦国時代。
ジリジリと減りゆくSNSフォロワー、CD売り上げ、YouTube視聴回数に、応援しているこちらも苦しかった。

でも、そこに風穴を開ける事態が起きた。
佐野文哉さんの、オールスター感謝祭 赤坂5丁目ミニマラソン優勝だ。

もちろん、それまでに初のオリコン・Billboard 1位獲得や、自作ゲームのプチ流行など徐々に風向きが変わってきて上り坂の途中にあったことも影響している。

ただ、文哉さんの優勝以前/以降では明らかに何かが違った。世間の目がOWVに一斉に向いた瞬間があった。

本当にすごい。
「正直OWVきてます、今離れたら後悔する」と言っていた人が、苦境でも腐らずに、コツコツと積み重ねてきた人が、結果を出し、きちんと評価された。
佐野文哉さんその人が、事務所の力も人気順も関係ないと、身をもって証明してしまったこと、本当にすごかった。こんなことあるんだって。


そう、
だから、
気がついた、
一番人の目を気にしていたのは私自身だったのだ。
一番私を信用せず、私の夢を嘲笑っていたのは、私だった。
やりたいことをやるべきだし、やるなら全力で。
人の目なんか気にしている暇はない。

自分のことを嘲笑している自分が消えたその瞬間、本当に楽になった。



前々からやりたかったことがもう一つある。

ショートヘアにしたかった。
生まれてからほとんどロングで生きてきて、一番短くても肩につくボブだった。
なぜなら「ロングが似合う」と言われ続けてきたから。自分でも切るのは怖かった。男の子みたいなショートは顔に似合わないのだ。

文哉さんが優勝した月に、
髪を切ることにした。
ちょうど彼くらいの髪の長さだ。

うれしかった。
楽しかった。
誰に何を言われても、どう思われてもいい。
異性のウケが悪かろうが、顔に似合わなかろうが、何でもいい。
自分が人生で初めて、心からやりたかった髪型にできた。

ここまで聞いてもらってわかると思うが、というかハッキリ言おう。「君のために切った」なんてとんでもないエゴだ。
完全に「自分のために」切っている。自己満足。

ていうか細かいこと言うと、自分で切ってすらないからね。当然のように美容院行ったから「自分のために切ってもらった髪」なんだよね。
よく言えば、「君を想いながら切った髪」だろうか。

髪を切ってから、なんでもできるような気がしてきた。
人に積極的に話しかけたくなった。
毎日友達に会いたくなった。
毎日ランニングを始めた。
口癖のように「すみません」と繰り返していたのが、いつの間にか消えていた。


私はよく、文哉さんのことを「北極星」と表現する。コンパスのない時代、船乗りは北極星を目印に海を渡ったという。
夜空の星は北極星を中心に回るので、北極星を目指せばほぼ迷わずに北に進めるという理屈らしい。
文哉さんを目印にしていれば、迷わないような、そんな予感がする。

彼の真似をしたいわけではないが、好きなことをして好きなものを選んで身につけて表現している彼がなんだか楽しそうに見えて、私もそうしたくなる。
真似っこのコピー人形として生きるのではなく、いつか私もあの北極星にたどり着きたい。
誰かの北極星でありたい。


捻くれてひしゃげていた世界に、文哉さんがくれたもの。
自分のやりたいことに愚直に生きること、人を愛すること、自分を愛すること。

君を想い、切った髪は、いつか北極星にたどり着くために外した、重い重い鎧のひとつ。

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