女の子にナンパされた話

「貴方ってレズ?レズなら連絡先教えてよ!」
20年生きてきて、初めて女の子にナンパされた。
素直な驚きとああこんなに自由な社会があるのだという興奮と喜びがあった。しかし、それを彼女には悟られないようにした。「あーごめんね、私はレズじゃないよ」とできるだけ普通に返した。


すると、私と一緒にいた日本人の友達が「私はレズだよ、連絡先交換しようよ!」と彼女に切り出した。20年生きてきて友達にレズだと告白されたのも初めてであった。



私がシドニーに行ったのは、コロナ前の2019年2月の半ばから3月は、ちょうどMardigras Paradeを控え、街全体がお祭りモード、兼LGBTへの理解を深めようとする期間であった。町中の至る所に、Mardigras のシンボルであるレインボーをモチーフにした旗や花が飾られ、階段や横断歩道でさえレインボーに塗り替えられていた。それは本当に小さなパン屋さんや花屋さんから大きなビルに至るまでであった。 Oxfordストリートという、日本でいえば新宿二丁目のようなストリート(ゲイバーやパブ、 女装用のブティックが立ち並ぶ)では特にMardigrasのイベントの広告や旗がショーウィンドウを埋めつくしていた。街を見て、私がまず感じたことは、シドニーではLGBTが、当事者だけの問題ではないという事だ。    

LGBTについて考える人が多くいるし、少なくともMardigrasの期間にはその雰囲気が街に浸透していた。 
(いわゆる異性愛者以外の人を単純にLGBTとカテゴライズできないこと、そもそも人をカテゴライズすることが心理的圧迫を生むことは重々承知しているが、便宜上LGBTと表記します。)


では、冒頭の話に戻ろう。2月17日、私はMardigrasのキックオフイベントであるFair Day にルームメイトの友達(Aとしよう)と、彼女の日本人の友達(Bとしよう)を誘っていった。私たち3人は、フェスティバルに出店している色々な出店を見て回った。シドニー大学の団体、女装ブティックの出店、女装家の集団、そして州が設置していた同性婚の登録ブース、はたまた動物愛護団体やスポーツを推進する団体、様々な団体がブースを設けていた。  

LGBTとは全く関係のない団体もFair Dayに参加していたことに、初は違和感を覚えたが、次第にそれはとてもいいことだと感じた。日本でLGBTについて学んだり、そうした人と交流を持ったりする機会と言えば、お堅い講演会が定番で、私はそこに行きにくいと感じていた。


Fair Dayは日本で言えば赤レンガや代々木公園で主催される様な家族もカップルも行きやすいフェスティバルに似た雰囲気だった。公園にはゲイのカップルもレズのカップルも、性別不明の人も多くいたが、同時に家族連れも、学生も、犬もいた。LGBT以外の人もフランクに参加できる楽しいイベントであった。

一通りブースを回ってレジャーシートを広げて休憩していた時に、隣で休憩していた2人組の女性の1人に声をかけられた。「貴方ってレズ?レズなら連絡先教えてよ!」と。「レズじゃないよ」と返す私の横から、Bは「私はレズだよ、連絡先交換しようよ!」と彼女に切り出した。Bと彼女は連絡先を交換した。聞けば、話しかけてきた2人組の女性は友達同士だが、お互いレズビアンで、中国人らしい。中国では、同性愛者はとても「生きづらい」から、留学を兼ねてシドニーに来たそうだ。中国ではかつて同性愛が犯罪であったこと、今でもLGBTには、非LGBTには存在しない法的課題が存在しているのは知っていた。

私は異性に対して求めるハードルが高いとよく言われる。私としては、異性に求めるものの希少性がたまたま高いのだと捉えている。
ハードルが高いかどうかは別にして、異性なら誰でも好きになれる訳では無い。自分の好みというものがあるし、それは自分で変えられるものではないし、まして誰かが強制できる訳ではない。
花沢類がどんなにカッコよくて優しくても、牧野つくしが好きになったのは道明寺司であって、家族の都合や、周りからの評価に合わせて気持ちを調整することはできない。
同性愛者の人達も同じはずだ。ただ、恋愛感情を向ける対象が同性であるだけだ。それは、隠さなければいけないことなのだろうか。私は、誠実で、物腰が柔らかくて、SNSが活発ではない人が好きだ。ついでにイケメンなら尚好きだ。これは人に隠さなければならないことなのだろうか。

恋をした時、その気持ちは本人にも友達にも伝えず、1人で心の中に閉まって、南京錠をかけて、重りを付けて、心の奥底に沈ませて、消えていくのを待つしかないのだろうか。失恋することも無く、恋が消滅するのを、時に任せなければならないのであろうか。だとしたら、それはとても苦しい。性は、私たちの根幹にあるものだ。それを偽って生きていかなければならない世界は、ひどく「生きづらい」はずだ。誰を好きになるかが人によって違うことが当たり前なら、異性を好きになるか同性を好きになるか人によって違うことも当たり前になればいいのに。 


Fair Dayの帰り道で、Bは私に「びっくりした?」と尋ねた。目的語は言わなかったが、B がレズであることを驚いたか尋ねたということはわかった。

「左利きの数と同じ割合だけ、 LGBTの人はいるっていうでしょ。でもさ、私20年日本で生きてきてレズの友達なんて1人も出来なかったの。おかしくない?あなたがレズとか、そうじゃないとか、それが驚く対象であるっておかしいよね。」と答えた。

この答え方が、答えになっているかも、正解なのかも分からなかった。だって初めてできたレズの友達だったから。シドニーにいる間、彼女と色々な話をした。彼女の好きな女性のこと、その人とどんな風に出会ったか、そしてしきりに「日本に帰りたくない」と言っていた。彼女にとっては、日本も「生きづらい」社会らしい。シドニーは、とても「生きやすい」社会であった。先述しておくが、私が今から語ることは海外と比べて日本はこんなにダメだとか、日本人のここがダメだ、それに比べて外人はだとかそういうことが言いたい訳では無い。社会のあり方について考えたことを述べる。

 シドニーの街には、同性愛のカップルがあちこちにいたし、語学学校の10人もいないクラスにもゲイが致し、すれ違ったあとに、振り返っ て、指をさして「ねぇ、今の…」という人はいなかったし、公園でビキニでヨガをする人もいたし、英語を学びに行った割には英語を(母国語として)話せる人は少なかった。とにかく、 色んな人がいた。いろんな国籍の人、色んな言語を話す人がいたし、外人と言っても、永住 している人も、ハーフも、留学生も、旅行者も、ワーホリをしている人も、仕事で赴任して いる人もいた。そしていい意味で、皆、あまり人に興味がなかった。

文化も宗教も何もかも違う人で溢れかえっていて、そんなのちいちい気にしていられないし、誰が何を着ようと何をしようとそれに固執しないのは当然でしょう?という雰囲気だった。シドニーについた初日に、私が住むことにしたドミトリーの清掃員のお姉さんに「日差しが強いから、日傘を差そうと思うんですけど、シドニーだと日傘って変ですか?」と尋ねた。「変とか、そういうの、ここの人は気にしないよ。それぞれ自分の好きに生きる感じ。」「周りの目なんて気に しないで、自分のことに集中して。素敵な1ヶ月をー!」

ああ、これが多様性ってやつかな、と私は思った。

これは単に、シドニーの社会が様々なバックグラウンドを持つ人で出来 上がっていることを受けて思ったのではない。

なんとなく日本でいう多様性は「多様性は認 めなければならない!ねえ?そうでしょう!」という圧がある気がしていた。私の考える多 様性は「私には私の価値観がある。そしてお前にはお前の価値観がある。私のは理解しなく ていいし、お前のを理解してやれるとも言いきれない。だけどお互い違う価値観が『ある』っていうことだけは、認知しておこう。」くらいの、緩いものだ。この、緩い感じは、シドニーの社会のお互いあんまり興味はない感じと近いと思った。

Bが「生きやすい」と感じるのは、きっとこういう緩い社会なのだろう。多様性が大切な価値観であることや、外国人を受け入れたり、女性が働きやすい社会を作らないと日本の未来が相当危うくなるという事実は前提として、私は日本の社会がもっと緩くなればいいと思った。

LGBTは、 今まで「マイノリティ」だった。が、実際マイノリティと言えるほど少ないと私は思わない。今までカミングアウト出来なかったにすぎず、今までもこれからも一定数個性として LGBTという属性に分類される人はいるし、これから日本には今より多くの外国人が溢れかえるだろうし、バリバリ働く女性も、ガツガツ育休を取る男性も増えるだろう。自分にとって異質なものを、排除せずに、異質なものの存在を認識して、できれば理解する、そうした社会になって欲しいと強く望んだ。

私は、 「日本は生きづらい」と言ったBが、「生きやすい」と感じる社会を望んでいる。

「『男 だったらよかったのにね』って人に何回も言われたし、自分でもそう思うんだけど、そーゆーの全部関係なくなればいいのにね」と言った彼女が、望んだ通りの社会を望んでいる。 

「何あの人」と、人とすれ違っては振り返って指を指すのに、「日本だといちいち釘をさす人がいるから露出の多い奇抜な格好とか出来ない」と言うあの子が、自分も釘をさす人の代表であることに気づくような社会を望んでいる。


私は女性なので、女性目線に考えは偏っているだろうし、それは自分で理解している。だけど、これが、私がシドニーの社会から学んだ全てだ。

学習目的の留学だったので備忘録として学んだことを書き留めました。

ちなみに、シドニー市街から空港まで、電車+バス+シャトルバス(分かりにくすぎる)でいけるので、日曜日なら150円で空港までいけます。

タクシー絶対乗りたくなくて模索したので共有しました。


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