偶然みつけたことば‐「逢フコト」ダケガ人生ダ

『偶然みつけたことば』とは、とくに脈絡なく、わたしが偶然に出会った素敵なことばを掲示するという、個人的なこころみです。
今回は、太宰治のことばから。


唐詩選の五言絶句の中に、人生足別離の一句があり、私の或る先輩はこれを「サヨナラ」ダケガ人生ダ、と訳した。まことに、相逢った時のよろこびは、つかのまに消えるものだけれども、別離の傷心は深く、私たちは常に惜別の情の中に生きているといっても過言ではあるまい。

もの思う葦,新潮文庫,227頁

わたしはこの部分に行き会って、『「サヨナラ」ダケガ人生ダ』のところにマーカーペンをいれた。

『「サヨナラ」ダケガ人生ダ』。

このことばに出会うのははじめてではなかった。寺山修司が引いていたのだ。
けれど、寺山修司を熱心に読んでいたときのわたしは、彼のいっていることをしっかりとはまだわかっていなくて、このことばの意味も理解していなかった。
そして、あらためて太宰のことばと共にこのことばに出会って、はじめてその意味がわかった気がして、感動しながらマーカーペンをいれたのだった。

しかし、と少し経って考えはじめた。
真理を述べたようにおもう部分だが、果たして本当にそうだろうか。

逢ったよろこびは、すぐに消えるかもしれないけれど、
わたしがあなたに、新しく逢い続けることだってできる。
別離の傷心は、まこと深く、惜別の情も、まこと重いかもしれないけれど、
別離の後でさえ、わたしは新しいあなたに逢うことができる。

出逢いのきっかけはいつだって、わたしがあなたを深くみつめるまなざしに潜んでいる。

というわけで、わたしはむしろ、
『「逢フコト」ダケガ人生ダ』
といいたいのである。

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