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社会人が留学に行く意味はあるか?

私が所属している会社では社会人留学がごく一般的に行われており、会社としても留学に行くことを推奨する風土があります。
新人の頃の私は今よりも少しばかり尖っていたので、「純粋にキャリアを追求するのであれば留学というブランクを挟まずに仕事を継続することが最適解のはずだ」と考えていました。留学経験のある先輩方に聞いても「視野が広がるから留学には行った方が良い」という抽象的なアドバイスが返ってくるのみであったので、「時間とお金をかけてまで行く意味はないのではないか」と思ったものです。

それが、今ではOxfordで法とファイナンスについて学んでいます。

正直なところ、私自身、表題の問いについて絶対的な答えは持っておらず、(来てしまった以上は)「留学に行く意味はある」という答えとするために日々を充実させようともがいているところです。

2024年になり、今年中の出願を検討されている方/留学に行くかどうかを迷っている方/あまり行くつもりはないけど行かない理由を探したい方等、様々いらっしゃると思いますので、現時点での考えをまとめてみました。

分かりやすさの観点から、次の4つの項目に着目して考慮要素を列挙してみました。

1. キャリア
2. プライベート
3. お金
4. 英語環境

なお、この記事を書いている時点ではまだ1学期が終わった段階ですので、留学のほんの一部しか味わっていない時点での感想となります。その限界はあるのですが、留学に行くかどうか悩んでいる方の検討材料の参考としていただけると幸いです。
なお、主に日本で社会人として働いている方を念頭に置いて書いていますが、学部卒で大学院留学を検討されている方にも部分的には参考になるかもしれません。

1. 仕事を続ける場合の考慮要素

(1) キャリア

留学に行かないのであれば、基本的には今の仕事を続けることになります。
仕事を継続することで、自分の専門分野への知見・経験が日々蓄積することは明らかです。また、常日頃お世話になっている顧客との関係も維持することができます。さらに、ビジネスの最先端で仕事を行うことになるので、最新の動向について情報収集は容易く、仕事への感度も磨かれ続けることになります。加えて、キャリアの経歴が重なるため、その分、業界内での信用も高まることになります。

(2) プライベート

身近なところに家族や友人がいるという安心感があります。住み慣れた日常がそこにあるということはとても平穏なことだと思います。安くて美味しいご飯を食べ、湯船に浸かり、夜中にコンビニにデザートを買いに行く。そういう日常は海外の常識ではありません。今ある趣味を続けることも容易いでしょう。
また、家庭を持っている場合には、家族計画を立てやすいという面も無視できません。パートナーが帯同する場合、パートナーのキャリアが中断されることもありません。
さらに、日本の場合には充実した社会保障システムがあるため、例えば病気・ケガの場合でも3割負担で病院にかかることができるという点も存外に重要です。

(3) お金

仕事を続けることで定期的な収入が見込まれます。投資を行っている人は、留学に伴って清算しなくて良いという点も重要ですね。
また、留学費用を支出しないことで、マイナスを回避することもできます。どういった費用が留学について回るかについては2(3)で後述します。

(4) 英語環境

日本にいるからといって英語環境が作れないわけではありません。
オンライン英会話を活用することで、1日数十分英語に触れることができます。
また、英語を使う仕事についている場合には、日常的に英語環境があるということになります。

2. 留学に行く場合の考慮要素

(1) キャリア

留学に行くことで一度はキャリアが途絶えますが、留学期間中は自分のキャリアを見つめ直す良い機会となります。キャリアを継続するにせよ、転職・起業するにせよ、悩んだ分だけ自分の選択への覚悟の度合いが高まると思います。
留学先の学校で将来のクライアントと出会うことがあったり、国内外の同業の仲間と親しくなることもあるでしょう。海外ではCoffee Chatの文化が根付いているため、自分のキャリアと近しい人と情報交換できる機会は格段に増えます。
また、転職を考える場合には、選択肢が一気に増えます。地理的な面だけを取ってみても、市場が日本から海外に広がります(職種による)。自分の興味分野で学生インターンの経験を積むことができるのも留学中ならではの特権かもしれません。

(2) プライベート

新しい友達がたくさんできます。しかも、自分と興味・関心事が被った友達(クラスメイト)が一度に大勢できるため、シンプルに楽しいです。
世界各国から留学生が来ているため、いろいろな国の文化を知るきっかけになりますし、自分の中にあった「常識」が崩れることもあるかもしれません。その意味で視野が広がりますし、バランス感を養えると思います。
また、海外には日本人コミュニティがあることが多いですが、そこで幅広い分野の方々とお付き合いすることが可能です。年齢も職種・専門もバラバラだけれども、日本人という共通点のみで仲良くなれることは得難い経験です。

勉強についていえば、自分の興味のあることを、思う存分時間を割いて学ぶことができます。専攻内容はもちろん、大学内には多様な学習チャンスが広がっているので、それらを活用することにも価値があります。

また、多くの場合、日本で仕事を続けていた時よりも可処分時間が増えます。分かりやすい例でいえば、学生の場合には冬休みや春休みといった長期休みがあるため、留学先の国内や近隣諸国への旅行といったレジャーも充実します。

最後に、外国に暮らすという経験は非常にチャレンジングです。日本での常識が通用しないため、日々経験値が溜まっていきます。ストレスも大きいですが、その分だけレベルアップしていくと思います。

(3) お金

残念ながら完全にマイナスになります。
留学に関する主な出費は、学費、渡航費、住居費、生活費がメインとなります。外食費や旅行費もここに加わるでしょう。さらに、新生活のセットアップ費用やビザ関連費用等の初期費用を加えると、相当額の貯金が必要になります。特に、物価高・円安の状況ではシビアな問題です。
もちろん現地で副業をすることで収入を確保することは考えられますが、ビザの関係で就労が制限されている場合もあるので注意が必要です。

一方で、長期的に見れば、留学を経てキャリアチェンジをすることで給与が上がるパターンもあるため、金欠は一時的なものと捉えることも可能かもしれません。

(4) 英語環境

いうまでもなく恵まれた環境です。
授業が英語で行われることはもちろんですが、クラスメイトとの何気ない会話や課外活動での雑談も全て英語です。望めば望むだけ英語を使える環境に身を置くことができます。
なお、学校で使われる英語は、留学生がそれぞれの英語を話すために、一律のものではありません。私はイギリスにいますが、クラスにイギリス人もアメリカ人もいません。皆が英語を第二言語としているので、いろいろな種類の英語を耳にすることになります。

3. 結局どう考えるか?

色々と要素を上げましたが、これらの要素をそれぞれどの程度重視するかによって留学に行く/行かないを決めるのが一つの考え方です。

「どの程度重視するか」は人それぞれで異なりますが、「要素」については大体共通してくるように思います。もちろん「海外生活への適性」とか「どの国に行くか」といった、ここでは言及していない要素もあります。ご自身の性格やプランに合わせて適宜要素を追加していただくと、判断の精度が上がります。
その意味で、これまでに列挙した要素が、留学に行く/行かないを検討される際のご参考になれば幸いです。

最後に、私がどう意思決定をしたのかをご参考までに書いておきます。各段落末尾の【括弧】内の記載は実際の留学生活との答え合わせです。

(1)キャリア
このまま今の仕事を続けていても、(先輩方がすごすぎて)自分が先輩方の劣化版コピーにしかなれないような感触を持ったため、新たな風を留学での経験に求めました。一回り成長するという意味でもそうですし、自分のビジネスを見つけるという意味でも新天地での経験に期待したというところです。具体的には、私はインパクト投資に興味を持っているので、本場であるイギリスで学びを深めて日本でのビジネスに活かしたいという気持ちがありました。その意味で、1(1)よりも2(1)を重視した形です。
【Oxfordでインパクト投資の授業やプログラムを履修したり、実務家とのCoffee Chatも重ねてネットワークを広げたりしているので、ひとまずは順調といって良いと思います。】

(2)プライベート
2(2)を重視しました。もともとバックパッカーをしていたくらい海外旅行は好きですし、バリバリ仕事をするよりも自分の趣味に時間を割きたいタイプであったこともあり、いったん仕事のストレスから離れて自分と家族のために時間を使うことができる留学という選択肢は魅力的でした。一度はヨーロッパで生活してみたいという素朴な夢も後押しになりました。
【休暇中にヨーロッパを旅行したり、たくさんの友人ができたりしたので、プライベートは充実しています。】

(3)お金
お金は大事なので、悩ましかったです。キャリアチェンジを見越さずに留学を決めたこともあり、将来的に収入が増える可能性は考慮していませんでした。その意味でお金に関しては純粋減であり、1(3)の方がメリットとしては大きかったです。
【仕方ないことですが、順調にお金は減っています…。】

(4)英語環境
私は普段の仕事で英語を使う機会が多かったので(読み書きのみ)、英語環境へのこだわりはあまり強くありませんでした。そもそも、留学というのは英語ができるようになってから行くものだと思っているので、英語を伸ばすために留学に行くという発想はありませんでした。
【英語で苦労しているので、結果として英語も勉強することにはなっています。】

したがって、(1)キャリアと(2)プライベートについては留学に行く方向に傾き、(3)お金については行かない方向に振れていました。(4)英語環境については中立です。幸い留学費用を賄える分の貯金はあったことから「お金はこれからも稼ぐことができるけど、留学に行くのはこのタイミングしかない。貯金で時間と経験を買おう。」と考えて留学へ行く意思決定をしました。

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