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夢見る派遣のおっちゃんの話

前に務めていた会社で、リフトに乗っていたおっちゃんの話をしたいと思う。
元々は地元でかなりの規模を持つ会社で係長をやっていたが、夢のためにやめてきた。
正社員じゃ、夢を追いかける時間がないから。
そう語る40のおっちゃんの目は、輝いていた。
羨ましかった。 

おっちゃんは底無しに明るい人だった。
頭はピカピカに禿げていて、例えば、俺が散髪した日なんかは、「俺も行かないとなぁ〜…あ、行かなくてもいいんだった!」と言ってガハハと笑う。とても気持ちのいい人だった。
俺には夢がある、俺は歌が好きだから、それをみんなに届けたい…YouTubeや、他のサイトでそれをやりたいという夢だ。おっちゃんにも夢があった。おっちゃんはブログで儲けを得る、いわゆるアフィリエイターになりたかった。そのために日々勉強し、生活費以外の一切合財をブログ運用に使っていた。

同じ夢を見る男、されども俺はおっちゃんの土俵に未だに立ってすらいない。

俺には勇気がないからだ。
おっちゃんは、地元でトップレベルとも言われた中小企業の係長をやっていた。
しかし、その立場をあっさりと捨ててきた。
夢…いや野望のためだ。

思えば、おっちゃんの目は輝いていたのではない、ギラギラと光っていた。
文字通り、自分の人生を賭けて野望を見ていた。

夢を語った俺におっちゃんは言う。
「たつは若いんやけん、まだまだ色々できるよ、羨ましいなぁ。君の歳のとき、俺はそんなこと考えてなかったからなぁ…頑張れよ!」

同じ土俵にすら立っていないのに、何も始めていないのに、それでもおっちゃんは背中を押そうとしてくれた。

本当に、本当に良い人だ。
元気にしているだろうか…コロナの影響で連絡もしていなかったけれど…あの人に恥じない自分で居たい…やっと思い出せた、俺の人生で一番良い人だと言い切れる人。

ボイトレの先生に連絡をとった。
先生は今産休だ。明け一番に先生のところに行かないと。

元気にしていますか?

貴方のお陰で、立ち直れそうです。

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