三枚目、都合のいい男。
彼女と久しぶりに会った。平日夜中…寂れたカラオケボックスで…。
苦笑いしながら、私最低だ…と言いながら今日の経緯を語る彼女。彼女が最近しきりに話していた「推し」にキスをされたこと、その足で彼氏と合ってきたこと。そしてその足でここにいること。
どうしてこうなってしまったのか、俺の知る君はそうじゃなかったはずだった。
彼女は語る。
「君がそうしたんだよ」
感覚が麻痺してしまったのだと思う。彼氏がいても、いつまでもダラダラと好きだった、3枚目の俺。そんなのがずっと居たせいで、彼女の心は何処かおかしくなってしまった。
俺のせい、そう語る彼女の話も間違いではない…。
それでも罪な俺は彼女を求めようとする、なんとか言葉を発した。
「俺はもう…割り切れるから……無視して。君の邪魔にはなりたくない。」
もたれかかる彼女。逆さまの瞳がまっすぐ見つめてくる…紅色の口紅が綺麗だと思った。
…駄目だった。また。
刹那の誘惑…それに負けて俺は彼女と深くキスをした。何度も、何度も。触れる舌と舌が激しく絡み合う、スーッと背後には暗い影が現れた気がした。
どれだけの間そうしていただろう。俺はゆっくりと瞼を開いた、久しぶりに見た君の薄桃色の唇…
とても、綺麗だ…そう思った。
もはや、酷い罪悪感も湧かない、俺も…そんな感覚は麻痺してしまったらしい。
ふと、彼女はこう言う。
「君を彼氏にはしないよ。」
「…何年こんなことやってると思ってんだよ」
そんなこと、わかりきっていた。その上で、俺はこうしている、馬鹿で最低なやつ。
…二人で喉が枯れるまで歌いきって、カラオケを出た。
車に乗り込んだ彼女と、少しだけダベった。
相変わらず、彼女は俺とは付き合う気はない…そうやってムチをうつ。そのいっぽうで、優しさを見せてくる。
ふと…心の中に溜まっていた何かが爆ぜた音がした。何気ない会話…何を話したかはもう覚えてはいない…けど俺はこう言うったと思う。
「…都合のいい男……?」
「そこまでは言ってないでしょ?」
「でも、そうだよね。」
彼女は否定しない。
しばしの静寂…
じゃあね、そう言って俺は彼女の乗る車のドアを閉めた。あっという間に走り去る君…。
遅れて、車に乗り込んだ。
気持ちが悪い…
カーナビにつながったスマホが、ショーンメンデスのStitchesを流す。
俺の3年間、何だったんだろう。どっとやって来る疲労感…。
彼女の本命になりたかった、結局、なれたのは都合のいい男。
彼女を歪めてまで、やっとのことでたどり着いたポジションはそこだった。
もう、やめにしよう。
誰も幸せにはならない。
もう、どこまでも走りたかった、ガソリンワンメーター、使い切るまで…警察に邪魔されるまでスピードなんて気にせずに走っていたかった。
そうすれば何もかも忘れられる気がしたから。
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