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記憶のトリガー、タピオカ

仕事終わりに友達と飲む約束していたが、待ち合わせ30分ほど前に相手から仕事が立て込んでるとメッセージが。「あ、今日の予定流れるかもな」と察すると同時に、「なんか無性に魯肉飯が食べたい!」という気持ちが見え隠れする。これから人気のピザ屋に行く予定なんだが。

結局無念のタイムアップで予定はなしに。じゃあここは堅実に、と近所のスーパーで惣菜買って帰ろうかともよぎったが、閉店間際のスーパーでは食べたいと思ったものよりもあのシールのせいでどうしてもお得に買えるものに手が伸びてしまう。惰性のから揚げを何度口にしたことか。やっぱり自分の欲に従うことにして、近くの駅ビルの中に入っているチェーンの台湾料理屋へ。お目当ての魯肉飯を無事食べることはできたが、この純度100%の自分のための時間をまだ終わらせたくない。デザートにタピオカミルクティーを追加で注文する。

勢いよくどどどど、と吸うと不意に幼少期に聞いた父の「タピオカって文字見ると、いつも高校一緒だ立岡(タチオカ)のこと思い出すんだよなぁ」という言葉が頭の中をよぎった。とんでもなくしょうもない。父からこの言葉を聞いたのはタピオカを飲んでいた時ではなく、母の買い物中に時間つぶしに2人で興味のない食材店に入った時だった。はじめて飲み物に浸っていない白いカラカラのBB弾のようなタピオカを見た衝撃が鮮明よみがえる。最後に父と2人で買い物なんてしたのはいつだっけ。

グラスの底に残るタピオカを見て、なんだか見ず知らずの立岡さんが羨ましくなってきた。一体、私のことを何気ない生活の中で思い出す人はいるのだろうか。死んでも誰かの記憶として生き続ける、と言うが私はちゃんとその布石を打つ生き方ができているのだろうか。歴史上の人物のように何かを成し得て死後語り継がれる可能性もなくはないが(悪いことは嫌)、ふと大事な人にぼんやり思い出されたら幸せだ。そのために生活は続いていくのかもしれない。

昨日仕事帰りの電車で「小学生のころつつじの蜜吸ってたよね」と共感しあった後輩は、ビビットなピンクのあの花が街に咲き乱れる季節に私を思い出すだろうか。彼にはいつまでもミスドのショーケースからドーナツを選ぶ時、肩身狭く陳列されるハニーチュロを見つけて私を思い出してほしい。

ちなみに立岡さんはただのクラスメイトで、そこまで仲良くなかったらしい。



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