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たまごサンド

たまごサンド食べるといつも決まって思い出すことは
幼い頃によく土曜日の朝におばあちゃんとモーニングに行った記憶。

金曜日の晩から、わくわくして待ち遠しくて
「明日朝おばあちゃんから電話くるかな」と
お母さんに聞いてた事を思い出す。
おばあちゃんは家に来る前に必ず「今から家出るから用意して待っときや!」と電話をしてくる。
それがモーニングのお誘いの決まり文句。

わたしの家から徒歩3分くらいで着く喫茶店。喫茶店というよりスナックやったんかな。夜はカラオケバーみたいな所だったと思う。
キラキラ光る装飾されたグラスやお酒の瓶が壁面に飾ってあって、カウンター席にはバーみたいな少し高い椅子が並んでで。
わたしとおばあちゃんは茶色のふかふかのレザーソファの4人掛けにいつも座ってたな。

注文するものはいつも決まっていて、モーニングAセットとBセット
Aが普通のトーストとサラダとゆで卵とドリンク
Bはたまごサンドとサラダ
おばあちゃんはレイコー、わたしはアイスレモンティーを。
トーストとサンドイッチは半分こするのがお決まり。


バターがじゅわっと染み込んだトーストは1/4食べたところに砂糖を塗して味変させる。ふわっとサクッと、そんでから、じゅわっとシャリっと。

たまごサンドは関西と言えばの厚焼きたまごに薄く切ったきゅうり。パンには辛子マヨネーズが薄く塗られてて。
おばあちゃんはきゅうりが嫌いで「きゅうりあげるわ!」と、いつもサンドイッチをぺろっと剥がしてきゅうりだけ取ってわたしにくれた。わたしのだけやけにシャキシャキしたたまごサンド。

トーストの甘いのと、たまごサンドの塩っぱいのを交互に。
アイスレモンティーのレモンをストローでかき混ぜてカランコロン言わして。
お腹が空いてるのもあって得におばあちゃんと話もせずもぐもぐ。
喫茶店にはいつもおばあちゃんの友達がおって「お孫さん?一緒にモーニング?ええなぁ」と言われてて。なんか自分も褒められてる気がして照れ臭くこそばゆい感じで、おばあちゃんも嬉しそうで。そんなおばあちゃんを眺めながら食べるたまごサンドが大好きやった。

本当にあの時間が好きやったのにいつからおばあちゃんとモーニングに行ってないやろう…。
コロナが落ち着いたらまた一緒に行ってくれるかな。
おばあちゃん全然あってないな、元気かな、会いたいな。

そんなことを思い出し、おセンチになりながら頬張っていた新梅田街道にある喫茶YCのたまごサンド。
わたしの思い出の辛子マヨネーズのたまごサンドではなく、デミグラスソースのたまごサンド。とっても分厚いとろっとろの卵焼きで、何これ美味しい通り越して美しいわ…と舌鼓していたら後ろから聞こえる大きな声で現実に戻される。

『俺は世の中の想像を超えていくんや!』

狭い店内に響くほどの大きな声でワーワー言いよるイケイケなお兄ちゃん。酔ってるわけではなさそうやけど、あまりにも自信に満ち満ちに満ち溢れて声が大きい模様。ずっと志とか人生とかについてとても熱く語っておられる。

さっきまで幼き頃のおばあちゃんとの思い出に涙が出そうなくらい浸ってたのに一気に現実に戻された。一瞬で涙引っ込んで、スンって真顔に戻った。
そろそろ声のボリューム下げろよと思いながら紅茶を飲む。
それでもまだまだイケ兄のイケ発言は止まらない。

『俺の周りの奴らにはみんな幸せになってもらう為に俺がマインドをコントロールしたい』
『志を考えたことがあるか。志が見つかるようにマネジメントしていく』

イケ兄はなんかそのへん一体の教祖なんやろうか。教祖なら仕方ないな。教祖、、教祖様って金爆で歌あったな。
あかんあかん、どんどんおばちゃんとのセピアな思い出からかけ離れていってる。一時間という決められたお昼休みを思う存分堪能する為に昨晩から卵サンドを食べることを決めていたのに。ゆったりと本を読んだりしたかったのに。
もう頭の中はイケ兄の教祖トークでいっぱいいっぱい。それでもイケ兄は止まらない。

『俺は小学生の時から他のやつとは違ってた』
『小学生の時から俺はサイコやった』

・・・?
やっぱり教祖でもなんでもない。ただただ大阪の変な声でかいイケイケの兄さんや。ただただ自信に満ち溢れている変なイケイケのお兄さんや。
こんなにわたしはイケ兄のことを冷静に分析しているのに、まだまだイケ兄は止まらない。


いや、志高いのはわかったから。まじちょいとお黙って。
わたしの楽しみにしていたたまごサンド、おセンチになりながらのランチタイムを返してよ。
なんならたまごサンドの思い出、おばあちゃんからイケイケのお兄さんに上書きされてしまいそう、もう、本当いや…最悪、そろそろ腹立ってきた。
と思いながら聞き入ってしまうよねぇ。なんでこんな大阪っておもろいんやろ。

なんやねんまじ、ちょっとは周り見て黙れよな、腹たつわー!と思いながら店を出たけど
内心これ絶対誰かに話そ、絶対笑ってくれるわ。とも考えてしまってた
わたしも生粋の関西人やなぁ。とニヤッとしてしまった。

コロナが落ち着いたらおばあちゃんをモーニングに誘おう。
そしてこの話をしておばあちゃんに笑ってもおう、ほんで元気になってもらったらイケ兄も喜ぶわ。

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