レナウン倒産にみるファッション業界の体質

※これは個人の回顧録で詳細なデータや調査に基づくものではないのであしからず

大手アパレルメーカーのレナウンが倒産した。(2020/5/15)

コロナによる売り上げ不振が理由だが、本質的なことはそうではないと思う。もう何年も前から百貨店をはじめとする大手メーカーは売上が下がり、利益がでない体質を改善できないでいた。私をはじめ、多くの業界人がレナウンの倒産には驚き半分、「ああ、ついに」という妙な納得感がもう半分という感じだろう。

 私は2002年からファッション業界で働きはじめて、もう19年目になる。2002年~2007年まで神戸の準大手のアパレルメーカーに勤めていた。そこで感じた違和感や経験を語ることで、レナウンだけでなくファッション業界全体に通じる問題について記そうと思う。

過去の残念な思い出 コピー、コピー、コピー!

 2002年に大学卒の新入社員で入社した私は、まずMD(マーチャンダイザー)という企画職に配属された。あこがれのファッション企業でクリエイティブな仕事をしたいと思っていたからとても嬉しかった。毎年、新しいデザインを生み出し世の中に発表する仕事、それに携わる人間たちにはキラキラしたイメージをもっていた。(今となっては世間知らずで若かった)

 しかし、現場に入るとその思いは打ち砕かれた。入社当初驚きだったのは先輩のデザイナーがファッション誌から服のデザインをコピーする姿だった。雑誌のページを忙しそうにめくり、よさげな服のデザインを見つけたらせっせとデザイン書にほぼ書き写していたのだった。コピー、コピー、コピーの連続。それは私が想像していたファッションの仕事ではなかった。しかもその雑誌は最新号だけではなく、前年号から多く書き写していたのだからさらに幻滅したのだった。

 デザイナーに急に話がとんでしまったが、デザイナーというのはMDと2人1組のパートナーのような存在だった。デザイナーが女性、MDが男性であることが多く、仕事上の夫婦といってもよい。

MDとデザイナーの業務の違いはこうだ。 

  MD・・・担当するブランドのシーズン(SS、AW)全体のクリエイティブ面のプロデュースや、商品リリースの週間スケジュール作成、商品の生地選びなど

  デザイナー・・・担当ブランドのシーズンイメージを決め、イメージにあった色や使用する生地の素材感を考える、販売する商品のデザイン(シルエットや素材など含む)を決める

実際は、完全に線引きされたものではなく、双方の業務を行き来する。

 (話を戻すが)当時、驚いたのはデザイナーだけでなく、MDも雑誌からコピーされたデザイン画を当然のこととして受け取り、承諾していたのだ。多少のデザインについての議論はあったものの、そこにオリジナリティを追求する姿勢はまったくなかった。コピーが日常で疑問を持つこともなかったのだ。

 しかも、雑誌だけでなく他ブランドの売れ筋商品の情報が入ると、それを買ってきてそっくりにコピーして商品化していた。ファッションの同質化現象はこのように作り上げられ2002年にすでに起きていたのだ。

 MDの仕事も似たようなものだった。正確には他からのコピーではないが前年踏襲型の仕事であった。昨年の〇月の1週目はこの商品を売ったから、今年も似たような商品を販売する計画をたてていた。もちろん多少の変更があったりもしているが、基本は毎シーズン同じことの繰り返しで、そこに何か新しい仕掛けをしようとかチャレンジングなことをしたいとか何か変化を起こそうという気概はMDの仕事には感じられなかった。

 ではなぜこうなのか。5年在籍して感じたのは、ひとえに会社の体質だった。いわゆる体育会系の体質だ。アパレル業界以外の方は意外に思われるかもしれないが、上下関係が厳しく、上司の言うことには逆らえない風潮が色濃くあった。体育会系気質の人間が総合職に採用されることが多く、私もその一人だった。会社のピラミッドの頂点は社長だ。社長には恐怖感を幹部陣も覚えていた。

 その社長から売上予算を達成しないと怒鳴られるのだ。売上を確実にとらないといけいないから、前年やったことを繰り返せばある程度確実に売上がとれると社員は考える。そんなことを繰り返す中で新しいチャレンジがしにくい環境や風潮がうまれ定着する。結果、変化に弱い人間だらけになり企業の体質となる。

 体育会系→上下関係が厳しい→上司が怖い→仕事が前年踏襲型→チャレンジしない→変化に弱い(このまま負のスパイラルに陥る)


アパレル業界の体質

 このことは何も私がいた会社に限ったことではない。世の中ほとんどのアパレルメーカーやブランドで起きていることだ。特に大手の会社はどこもそうだ。当時の会社から転職後、営業職になり(30-40社ほどだろう)多くのメーカーにまわった経験で気づいたことだが、どこも大差がなく、現場から伝わってきたのは体育会系気質や変化に弱い人間の集まりということだった。

 当時から今にかけても思うのは、ファッション業界人の特徴はファッション関連の情報には敏感だが、それ以外のことにとんと無頓着で一般社会の常識にうといことだ。ゆえに社会の変化への対応が遅れる傾向がある。かくいう私も決して十分とはいえないが、経済や政治、時事的なニュースにはあまり関心がない。特に業界歴の長い人間がこの傾向が強い。ファッション以外に関心があることは、自分の居住地くらいだろうか。(東京で例えると異常な世田谷区信仰)

スロウファッションのすすめ

コロナの影響によって、今後のアパレル業界はどうなるのだろうか。よく言われるのは下記だろうか。

・リアル店舗販売の減少

・EC販売の伸長

・サスティナブルファッションの流行

・ファッション品の流通数が減る(今の半分程度)

他にもまだまだあるだろうが、私は<スロウファッション>に個人的に興味がある。上記の中ではサスティナブルの文脈に近いかもしれない。私の最近のファッション商品の消費は、もっぱらクラウドファンディングでの購入だ。通勤用のリュック、オーガニックな製法の皮財布、難聴者向けの技術を駆使した骨伝導イヤホンなどなど。他にもいくつもある。

クラウドファンディングはいわゆる前払いの購入形態で、作り手の思いをしっかり伝え共感してもらえないと売上がたたない。

 大量生産、大量消費に飽き飽きしている私にはぴったりで、購入して手元に届くのが2-3か月かかろうと、コピー品ではなく、作り手が思いをもって生産したものに惹かれるのだ。これまでの毎年の流行デザインや欧米のファストファッション、最近ではシュプリームやナイキなどの数量限定ゆえに二次流通でプレミアム価格がつくトレンドなどから一歩距離を置き、自分にとって大事なものを吟味してそれを長く使う消費に移行したいのだ。

作り手は時間をかけて商品をつくり、消費者も時間をかけて長い間使用することができる。それをスロウファッションと呼んでいる。

 ちなみにクラウドファンディングは大手のファッションメーカーでもできることで、本当にわずかではあるが、そういった事例がないこともない。若手の社員がチャレンジしている企画だった。(これは推察だが)硬直的な体質の会社を説得するには、抵抗勢力も多分にあっただろうし、上司や先輩の協力がなかなか得られない中でトライしているのだろう。その苦労は相当なものだったはずで本当に拍手を送りたい。

 当然、大手メーカーであればクラファン形式をとる必要もなく、モノづくりノウハウと資金はある。その彼らに実行してほしいのは、自社ブランドを再定義して、顧客に何を価値として提供するのか、その価値に合わせてそのデザインや素材選び、生産プロセス、販売をアップデートしてほしい。

経営陣や幹部陣はいったんこれまでのモノづくりのスピードをゆるめてたちどまり、自社ブランドの価値を見つめなおしてほしいとおもう。長い間業界に携わり、人生経験豊富なあなたたちだからこそできるはずだ。それで若い社員の感性やデザインを下支えしてほしい。若い社員は情熱があふれる一方で圧倒的にノウハウがビジネスサイドの経験値がすくない。この両者をかけあわせることで再度アパレルは浮上できるはずだ。

文末になるが、あわよくば5年先の未来から、

今を振り返ったときに、痛みは伴ったがコロナがきっかけでファッション業界がよくなったと笑える世の中でいてほしいと思う。

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