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第二十話「ワークショップ 告知と募集受付開始」2024年6月14日金曜日 未明

 N美さんに作成してもらったInstagramのワークショップ用告知文は船長の最終チェックと若干の修正が入り、アップされた。昨日の夜だった。
 4月末に閉業した私たちのカフェのアカウントにアップした。なくなったカフェのアカウントを残していたのは、いつかまた同じ街にもう一度開業したいという夢と、常連客でもあったフォロワーから「思い出を残して欲しい」との声があったからだ。たった半年の営業でそのような声があったことが私たちの励みにもなっている。
 アップされるとすぐに「いいね!」の数がみるみると伸びていった。フォロワー数はおよそ500人。最終的にはその1割が「いいね!」を押した。
 この数字はワークショップへのものではない。船長の創ってきたカフェとお菓子のファン、再始動への応援の数であろう。その証拠に他の投稿には最終的に2割近くのフォロワーが「いいね!」を押している。この差は船長と自分の差なのだ。船長に履かせてもらった下駄がなければ、一人の「いいね!」もない。
 船長から連絡があった。告知アップしてすぐに1名の応募あった、と。
 心臓が強く鼓動した。同時に胃の辺りが重く冷たくなるのを感じる。
 プレッシャーと戸惑い。本当にワークショップをやるのか?自分で企画したのに、今ようやく現実味を帯びる。
 そして、赤字と参加者の評価、恥、外聞が急に怖くなった。
 参加者が一人だけだったら?
 私以上に参加者の方が恥をかくのでは?
 いや、楽しんでもらえればそれでいい。
 もう一度、いやと言う言葉が過ぎる。
 果たして、私に楽しませるスキルと知識があるのか?
 船長やN美さんをはじめ応援してくれる人がいる。その人たちを落胆させることにならないか?
 仮に参加者が一人だけだとする。そして、その人が楽しむことなく帰ったとする。赤字を抱え、多くの人を落胆させたとする。
 さらに仮に、私にそれを跳ね返せる胆力があったとしよう。その時、2回目のワークショップはどうする?
 大失敗の次の企画は?次は8月末に夏休みの自由研究の助けができるような企画を考えていた。
 コーヒーがダメだったらワインに切り替えるのか?酒飲みの知人は多い。彼らに泣きついて、ワークショップとは名ばかりの会費制飲み会を開いて、損失を補填してもらうのか?
 2回目はそれでいいかもしれない。恥の上塗りも笑い話になる。では3回目は?4回目は?
 先が見えない。
 自分一人で仕事をするということはこういうことか。ようやくそれを知った。
 その夜は結局、一睡もできないまま朝を迎えた。


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