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Oxford MBA 3学期(Trinity)の振り返り

渡英から9ヶ月以上が経過し、あっという間にMBA生活も終わりが近づいてきました。4~6月も振り返ってみると盛りだくさんで、かなりの長文になってしまいました。ご興味のある部分だけ読んでいただけたらと思います。


授業

3学期の授業は2学期から継続のEntrepreneurship Project以外はすべて選択科目でした。

前半:
・Doing Business in Africa
・Global Sustainable Business
・Entrepreneurship Project
後半:
・Business 2030
・Global Strategy
・Negotiations

今回は特に印象的だった4つについて詳しく振り返ります。

Doing Business in Africa

アフリカのことをもっと知りたい、くらいの軽い気持ちで選んだコースでしたが、期待をはるかに上回る経験になりました。社会・政治を歴史から紐解く講義や、ネルソンマンデラを含む多くの政治犯が収監されていたロベン島のツアー、アパルトヘイトにより破壊された人々の暮らしを知ることができるディストリクト・シックス博物館の訪問など、計7日間のうち前半は南アフリカという国の社会的なコンテクストを理解することに焦点が置かれていました。後半は世界各地に展開するチェーンレストランNando’sのCMOによる講義や、アフリカの技術イノベーションに関するパネルトーク、タウンシップ(元黒人専用居住区)にあるPhillippi Villageでの起業家たちとのディスカッション、ワイナリーやリジェネラティブ農業を実践する農場への訪問、次世代型コミュニティ住居の建設現場の見学など、アフリカのビジネスについて様々な角度から知る機会が設けられていました。

7日間のプログラムの中でも特に繰り返し登場したキーワードは、不平等(unequality)、複雑性(complexity)、インフォーマル経済、インクルージョンといった言葉でした。高い失業率や電力不足といった数々の課題を抱える南アフリカ。世界で最も貧富の格差が激しいと言われるこの国は、どうやったらあらゆるステークホルダーを取り残さない社会へ変革していくことができるのか。その実現のためにビジネスはどのような役割を果たすことができるのか。始めて触れる情報や眼にする光景の数々に、考えさせられることばかりでした。

自由時間には南アフリカの雄大な自然にも触れることができました。同じコースを選択したMBA同期たちと、早朝からライオンズヘッドに登って日の出を見たり、喜望峰や美しい海辺で夕陽を眺めたり、野生のペンギンを見に行ったり、テーブルマウンテンに登ってケープタウンの景色を楽しんだりとケープタウンを満喫しました。

喜望峰にて

Global Sustainable Business

この授業も個人的には期待を上回る面白さでした。初回の授業でパタゴニアとウォルマートという両極にも思える2つの企業のサステナビリティ戦略を議論するところから始まり、ボリビアの鉱山採掘企業と地元住民たちとの利害対立から見るステークホルダーマネジメント、サプライヤーがESG基準に反している際の対応方法、Allbirdsを事例にしたイノベーション戦略、業界単位でのシステム変革の手法など、サステナビリティ全般に関して幅広い事例をもとに学びました。

熱心に教えてくれたMatthew Amengual准教授と一緒に

Entrepreneurship Project

2学期の後半から継続していた、3ヶ月間にわたるグループプロジェクト。私たちのグループは、開始当初、食べ物の環境負荷を可視化するアプリを構想していました。しかし中間プレゼンでビジネスモデルについて厳しいフィードバックをもらったため、後半からは農業由来のカーボンクレジットに関するビジネスへと大幅にピボットしゼロから再スタートしました。そのためプログラム最後の投資家向けプレゼンテーションに向けた準備を通常の1/2の時間で行うことになりましたが、優秀でモチベーションの高いグループメンバーに恵まれ、なんとか納得のいく仕上がりにまで持っていくことができ、審査員からもポジティブなフィードバックを得られました。

中間プレゼンテーションの際のスライド。アプリの説明をしています
最終プレゼンの際のスライド。全く異なるソリューションになりました

グループの組成もテーマ設定も自由にできるこのプロジェクトでは、自分が考えたアイディアをもとに、一緒に働きたいメンバーを集めて取り組むことができたので非常に楽しかったです。最初のアイディアを捨てる決断をするのは簡単ではなかったですし、メンバーの中で意見が割れることもあり、先行きの見えない中で不安を抱えることも多くありました。しかしチューターや外部の専門家と話したり、各メンバーと数時間に及ぶ議論をしたりする中で、徐々に道が見えてきた時の喜びは、そうしたネガティブな感情を吹き飛ばすくらい大きいものでした。

今回グループリーダーとして異なるバックグラウンドのメンバーを意識的にリクルーティングし、互いの強みを伸ばし合うような進め方も実践することができたので、「多様性の高いチームにおいてリーダーシップを取る」というMBAに来た目的の一つを無事達成することができました。また、頭ではわかっていたものの、独りよがりなプロダクトアウトの発想から脱すること、急速に変わる時代のテクノロジーや政治・社会の動きを捉えてそのギャップを埋めることの大切さを改めて実感しました。

マレーシア、ケニア、アメリカ、ポルトガル出身のチームメイトたち

Business 2030

B Corp認証制度を作ったB Lab UKの共同創業者 Charmian Loveによる、リジェネラティブ・サーキュラーエコノミーに関する斬新なコースでした。脱成長やIndigenous Wisdom、アート、中小企業の役割など、他の授業ではカバーされなかったトピックについて扱いました。“The future is already here – it's just not very evenly distributed.”というWilliam Gibsonの言葉がたびたび引用され、これからのビジネスのあり方について毎回様々なゲストスピーカーからヒントを得ながら考えました。同じ授業を取っていたクラスメイトも似たような課題意識を持っている人が多く、学生同士でのディスカッションもとても面白かったです。

オックスフォードのソーシャルビジネスであるProof Social Bakehouseへのフィールドワーク

MBAT (MBAの運動会)

MBATとは、欧州のMBAの学生が集まって行う学校対抗運動会のことです。今年は5/9~11の3日間にかけて行われ、15の学校から1,500人の学生たちがHEC Parisに集まりました。(昨年の動画ですが雰囲気はこの動画から伝わるかと思います。)
学生たちは事前に練習を行い(学内選考があるものも!)、スポーツだけではなく音楽やファッションショー、クイズやゲームなども含めて50種目で競い合いました。残念ながらOxfordは総合3位という結果に終わり連続優勝の記録は途絶えてしまいましたが、一緒に戦ったり応援をしたりすることでやはりコミュニティの絆は深まったように感じますし、同期の知らない一面を知るきっかけにもなりました。また、他校の日本人MBA生たちと再会を果たすことができたのも嬉しかったです。

Viva Technology

5月末には、パリで行われたViva Technologyという欧州最大規模のスタートアップ&テックイベントにも参加しました。今年は日本がCountry of the Yearに選ばれたということもあり、日本のスタートアップ・テック企業も数多く出展していました。やはりAIに関するセッションや展示が多かったものの、フード・アグリに関するセッションやコーナーもいくつかありました。特に、国連WFPのイノベーションアクセラレーターやAgreenaのCEOによる、「アグリテックは気候変動を逆転させることができるのか」というテーマで議論するセッションが面白かったです。特に「これからは新しい技術の開発よりも、その適用に焦点を当てるべき」「Agri TechはClimate Techと分類する方が適切」という点に共感しました。

VRでブドウの剪定体験をしています

London Climate Action Week

ネットゼロに関するカンファレンスReset Connectでは、Food Systemブースで行われたセッションを中心に参加しました。個人的には、Too Good To Goの共同創業者によるプレゼンテーション、動物の脂質を培養するHoxton Farmsというフードテックスタートアップ、食品の環境付加価値を可視化するSaaSを提供しているスタートアップのFoodstepsが特に面白かったです。
全体を通してサプライチェーンに関するパネルも多かったのですが、森林破壊に関与する商品の流通・消費を禁止する新しい規制 “EU Deforestation Regulation (EUDR)”にどう対応していくかという話が各所でなされており、規制ドリブンで企業のサステナビリティ対応が進んでいくのはヨーロッパらしいなと思いました。

それから、私が5年近く会員になっているNGO Food Tankのイベントにも参加することができました。”Food, Technology, Investment and Climate”というタイトルで、農家、アグリテックスタートアップ、大学教授、食品メーカー、シェフなど食と農に関わるあらゆるセクターの25名を超えるリーダーたちが、多岐に渡るトピックでパネルトークやプレゼンテーションを行う濃密な5時間でした。Food TankのPodcastではいつも代表のDaniがゲストスピーカーを呼んで話をしているのですが、今回その議論を生で見ることができ、また私が大ファンであること、Podcastを続けてくれていることの感謝をDaniに直接伝えることができてとても嬉しかったです。

Googleのロンドンオフィスが会場でした
面接などで尊敬する人を聞かれるといつもDanielle Nierenbergと答えるくらい大ファンです

旅行・MBAトレック

ケニア トレック

ケニア人のMBA同期が旅行を企画してくれたので、MBAの学生20人ほどでケニアのナイロビとマサイマラに6日間ほど滞在しました。ナイロビでは野外フェスでアフロビートを楽しんだり、ケニア国立博物館に行ったり、カルラの森でハイキングをしたり、ケニア料理を楽しんだりしました。マサイマラではロッジに宿泊し、サファリで様々な野生動物に出会うことができました。また、マサイ族の村に訪問して村の人々と一緒に踊ったのも楽しかったです。私が出会ったケニアの人々はとてもフレンドリーで、ナイロビの街も活気があり、またケニアに遊びに来たいと思いました。このような機会がなければなかなか自分でケニア旅行を計画することもなかったと思うので、ケニア人の同期にはとても感謝をしています。

リスボン トレック

こちらもポルトガル出身のMBA同期が主催してくれ、MBAの学生60人ほどでリスボンを探索しました。ちょうど聖アントニオ祭(イワシ祭)が行われる時期で、夜はストリートフェスティバルに繰り出しました。日中はジェロニモス修道院やベレンの塔などを巡るウォーキングツアーに参加しました。世界史で習った大航海時代の話などを聞くことができ、ポルトガルの歴史をよりリアルに感じることができました。私が中学・高校生の時には海外に行ったこともなく世界史にあまり興味を持てなかったのですが、また世界史を学び直したいと思いました。

リスボンの市長とともに

世界各国の同級生と一緒に彼ら彼女らが生まれ育った国を訪れるたびに、それぞれの生まれ育った国の文化や環境がいかに違うかを思い知らされ、彼ら彼女らの言動や思考パターンの背景にあるものに触れることができるように感じます。特にケニア・ポルトガルのトレックを主催してくれた同期たちはグループワークを一緒に行った仲だったので、その人となりをより立体的に知ることができたのは嬉しかったです。

サンセバスチャンへの旅行

食べる通信やポケットマルシェに関わるようになってからずっと行きたいと思っていた美食の街、サンセバスチャン。スペインのバスク地方にある人口18万人ほどの街で、欧米人のリゾート地としても知られる美しい海辺の街です。バルにはたくさんの人が集まっていて活気があり、何を食べても驚くほど美味しかったです。地元の人も観光客も、バルで友達や家族とピンチョスを頬張りながら会話を楽しんでいる様子が印象的でした。

チャコリチャコリ美食倶楽部を運営する本間さんのおすすめバルを巡りました。バスクの食文化についてはこちらのnoteが非常に参考になりました。)

そのほか

Kate Raworthの講義

ドーナツ経済学(Doughnut Economics)」(日本語訳版)の著者である、成長至上主義からの脱却を説く経済学者Kate Raworthの講義に参加しました。オックスフォードにいる間に会いたいと思っていた人物のうちの一人だったので、彼女のパッション溢れるトークを聴くことができてとても嬉しかったです。

日本酒イベントの開催

AgNaviさんがイギリスに輸出しているお酒の一合缶を取り寄せ、15種類のテイスティングができる日本酒イベントを企画しました。日本酒を初めて飲むという学生も多く、その奥深さに触れてもらうことができてよかったです。

MBA Ballへの参加

オックスフォードではカレッジなどの単位でBallと呼ばれるパーティイベントが開催されます。6月の学期末には学生主体でMBA生向けのBallが開催され、学期終わりの一大イベントを楽しみました。9ヶ月前までは全くの他人だった皆とオックスフォードで時間を過ごし仲良くなることができたこと、そしてまた世界中に散り散りになっていくことを考えると不思議な感じがしました。

まだまだ書ききれないのですが、他にもロンドンでレミゼラブルや千と千尋の神隠しなどを観劇したり、友人らとブレナム宮殿に行ったり、いろんなカレッジのフォーマルディナーに行ったり、各国の料理の持ち寄りパーティをしたりと、たくさんの思い出ができました。

これから

7~8月はもともと私が興味を持っていたEIT Foodという組織でインターンをさせてもらえることになりました。EITとはEuropean Institute of Innovation & Technology(欧州イノベーション・技術機構)というEUの中の組織で、各分野においてイノベーションを創出する役割を持っています。私が働くのはその中でも一次産業・食料の部門で、特に教育関連のプログラムの戦略策定に関わる予定です。

「スタートアップ、大企業、学術・研究機関、政府・自治体など各セクターの垣根を超えて、フードシステムの変革を進めるためのエコシステムを作りたい」と数年前からぼんやりと考えていたのですが、EIT Foodを見つけた時「私が目指しているものに近いかもしれない」と驚きました。それから2学期の振り返りnoteに書いたEIT Foodが主催するイベントに参加し、そこで会ったディレクターと個別に交渉を進め、インターン契約にこぎつけることができました。せっかくの機会なのでEITがヨーロッパの社会の中でどのように機能しているのか、内側から学ぶことができればと思います。

このインターンが終われば、9月上旬に卒業式などCapstoneを経てついにMBA留学が終了となります。後悔のないよう、今しかできないことをやり尽くしていきたいと思います。

Special Thanks to:
CWAJ, Cartier Japan, 食生活研究会, 神山財団, Zonta International, Saïd Business School Foundation, 日頃お世話になっている皆さん


日々の生活や旅行の写真はInstagramに投稿しています。プライベートアカウントにしていますが、面識のある方はもちろん、ご興味のある方はお気軽にフォロー申請いただければと思います。

オックスフォードでの生活やMBAのプログラムなどについて質問がある方は、引き続き以下のLinkedinまでご連絡ください。できる限りお答えしています。(申請時にメッセージを添えていただけると助かります。)

https://www.linkedin.com/in/rin-ishikawa-kikuchi/

また、MBA留学に興味がある方は7/15(月・祝)に行われる「アゴス・ジャパン MBA夏祭り」 欧米編 Day1 のOxford MBAの説明会・Q&Aセッションに参加いただけるとプログラムの概要などがわかるかと思います。(私もQ&Aセッションには参加する予定です。)


過去のnoteはこちら

▼MBA留学の経緯

▼1学期の振り返り

▼2学期の振り返り


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