【物語】退界シンフォ

ここは死後の世界です。
私の名前は永遠子(とわこ)。この死後の世界に存在する唯一の会社である『退界シンフォ』の代表取締役を務めています。この会社の仕事内容は、死者の死因や生前の様子を分析すること。ポイントカードの統計も取っています。

そして最も重要な仕事は、死者の魂の仕分けです。
魂を分析して、その死者の魂をどこかへ送るか、処分するかを決めます。

今日も新鮮な魂が次々と工場に運ばれてきて、ベルトコンベアを流れていきます。死者が出ない日などありませんので、この工場は365日24時間ずっと稼働しています。

分析のスピードが追いつくのか疑問に思いますでしょう?実は分析と言っても人間がじっくり研究するわけではないんです。弊社独自のスキャナーを死者の魂にピッと翳すだけで、瞬時にコンピュータが分析してくれるのです。そして魂の送り先も瞬時に振り分けてくれるのです。とても簡単な作業なので、今日入ったばかりのアルバイトの子にも任せられます。最終確認は私がやりますよ。

今日も沢山の魂が流れてきています。たった今交通事故で亡くなった方の魂が流れてきましたね。

ピッ。

これはこれは、若衰への執着が強かったようですね。しかし不思議なことにこの執着数値はある日を境にぐんと下がっている。何か大きな出来事があったのでしょうか。慈愛ポイントも順調に貯まっている最中だったようですね。惜しい方が亡くなってしまいました。

ピッ。ピッ。

『行き先:処分』

この魂は処分ですね。

仕分けの基準ですか?特にありませんよ。ランダムで決まるシステムになっています。
処分の方法ですか?申し訳ありませんが企業秘密なのでお答えできません。

分析したデータに関しては、専門家の方の研究資料として使われます。主に各世界のポイント制度をブラッシュアップするための研究ですね。

処分されなかった魂は、あらゆる世界へ振り分けられます。『Aの世界』と表示されれば、その魂は即座にAの世界の胎児の誰かに宿ります。その胎児に元々あった魂は自然に失われます。言わば赤の他人の人生を乗っ取るようなものですね。この振り分けを弊社では『魂異動(こんいどう)』と呼んでいます。この魂異動は、慈悲深い人ほど嫌がり、自己中心的な人ほどこだわらないと言われています。
魂の宿り先もこれまたランダムです。宿られた赤ちゃんは不憫ですよね。『自分』として生きるはずだった人生が、『赤の他人』の人生になってしまうのですから。

でも本当は哀れむ必要なんて無いんです。自我を失うということは、全ての感情を失うということです。『乗っ取られた悲しみ』を感じる自我はもうどこにも存在しないのです。
だから魂異動した魂のお方も、引け目など感じずに堂々と生きていけばいいのです。今この身体に宿っている魂、それが全てですから。

宿った場所で正直に生きていけばいいんです。

(完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?