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なぜ教師の残業代は支払われないのか?


こんにちは。Ghibrinです。このペンネームは冷蔵庫のメンバーの1人がつけてくれたのですが、その由来は僕がジブリ好きで、語感が可愛いかららしいです。ちなみに僕は可愛くありません(どうでもいい)。さて、記念すべき初回は教師の残業代がなぜ支払われないのかについて調べてみようと思います。なぜテーマをこれにしたかというと、一つは世間で教員の労働環境のブラックさが取り沙汰されているからというのもあります。先日も文部科学省が働き方改革による労働環境改善や ICT の活用などについて主に教員Twitter でつぶやいてもらうよう計画された「教師のバトン」というハッシュタグがありましたが、実際には退職した元教員や現教員(と思われる)方たちにより教員の労働環境が如何にブラックかということについて訴えるツイートがなされ、大いに物議をかもすというようなこともありました。しかしテーマをこれにした最も大きな理由としては、僕の中学時代の部活の先生が数年前自主退職されたのですが、その主な理由がやはり拘束時間の長さと残業代がまったくと言っていいほど出ないからだと仰っていたのが印象に残っていたからです。このようなこともあり、教師の労働環境について興味がわき、教師の残業代未払いの話もちょくちょく聞いていたので調べてみることにしました。


なぜ残業代は支払われないのかー給特法とその成立の経緯

さて、いきなりですが、実は教員の残業代は支払われている、とも言えます。(!!?)実は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(通称:給特法)によって教員の残業代(?)についてはざっくりいうと、以下のように定められています。

〈給特法〉

・時間外勤務手当(残業代)は支給しない

・かわりとして給与月額の4%を「教職調整額」として支給する

※教員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従う。

その政令では以下の4つの業務の場合時間外勤務をさせてよいということになっています。

〈政令〉

・校外実習その他生徒の実習に関する業務

・修学旅行その他学校の行事に関する業務

・職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に     関する業務

・非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

つまり学校の普段行う授業とその授業の準備をする時間以外は時間外勤務という風に取り扱われます。

さて、では何故給特法によって教員の残業代は上記のように月給の4%になったのでしょうか。その経緯は約50年前までさかのぼります。

以下〈論文:なぜ公立学校教員に残業手当がつかないのか 萬井 隆令〉より引用

戦後に労働法関連の諸法規が制定された際, 教師も労働者の一員として基本的には労働基準法が適用されることになり, 8 時間労働制を定める労基法 32 条のほか, 時間外労働の手続や残業手当について定める36, 37 条も適用され, 残業に対しては手当が支払われるべきものとされた (地方公務員法 58 条 3 項)。ところが, 文部省, 労働省, 人事院が度々指導したにもかかわらず, 現実には残業手当が支払われなかったり曖昧にされたりしたため, 残業手当請求訴訟が繰り返し提起され, 裁判所は当然, 認定された残業について法律の規定に従って手当の支払いを命じた1)。そのような事態に対応し, 将来の紛糾を防ぐため,文部省は教師の勤務状況を調査し残業の実態を把握し,それを踏まえて平均的時間数 (月間 8 時間程度) に見合うものとして 「教職調整額」 を基本給の 4%とした旧給特法が 1971 (昭和 46) 年 5 月に成立し, 翌年 1月施行された。

つまり上記のように労働基準法により残業代は支払われなければいけないとされながらも、未払いケースが多々あって裁判沙汰になっていたため、面倒くさいから残業の時間平均をとってその分を全員にお支払いしよう、ということになったわけです。

教職調整額は時間外勤務の実情に見合っているのか

では上記のように給特法で定められた教職調整額は現在、教員の残業時間に見合った分支払われているのでしょうか?

まず給特法の4パーセントの根拠となった昭和41年度に文部省が実施した「教員勤務状況調査」の結果を見てみましょう。
超過勤務時間
 1週間平均 小学校 1時間20分 中学校 2時間30分 平均 1時間48分 

1週間平均の超過勤務時間が年間44週にわたって行われた場合の超過勤務手当に要する金額が、超過勤務手当算定の基礎となる給与に対し、約4パーセントに相当。

 ※ 年間44週(年間52週から、夏休み4週、年末年始2週、学年末始2週の計8週を除外)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/041/siryo/attach/1417551.htm

(文部科学省ホームページ資料4‐2 教職調整額の経緯等についてより引用)

上記の通り4パーセントにちゃんとなっていますね。(だからこそ教職調整額が4パーセントにされたのですが)ただ、これも平均ですから平均よりも時間外勤務が多い、少ない教員の方のことなどを考えると公平ではないとも思いますが、現実問題として残業代が払われないよりはマシ、ということだったのでしょう。

では現在どうなっているのか見てみましょう。

下の記事(リンクから飛べます)では2020年度に北教組が北海道の小中学校の教員6500人にアンケートをとって、9月の超過勤務時間と休憩時間(これが残業代と法的には定義される)を調査したところ小学校平均が48時間33分中学校平均が66時間46分となりました。それぞれをざっくり1週間単位にするために4でわると、小学校の一週間平均が12時間8分、中学校の1週間平均が16時間41分となります。休憩時間は昭和41年度の調査には含まれていませんが、それを鑑みても下のように明らかな差があり、不当といっていいほど残業代(?)にあたる賃金が支払われていないことがわかります。

昭和41年度

1週間平均 小学校 1時間20分 中学校 2時間30分 平均 1時間48分 


2020年度

1週間平均 小学校12時間8分 中学校16時間41分 平均14時間24分

(休憩時間含む)


 


今の残業時間と教職員調整額で残業の時給を計算してみると(給与は大卒初任給20万円として)

20万円✕0.04=8000円

8000円÷14時間24分(864分)=9.25円 (時給約555円)

労基法ではアウトになりますね。


残業代(教職調整額)が今後増えることはあるのか?

ここで残業代が今の実情に応じてちゃんと支払われたとすればいくらくらいになるのか計算してみましょう。

公立学校教員の初任給が20万円なので最低額としてこれで計算します。また、教員の人数は平成17年度(文科省ホームページより、公立校のみ)で小学校41万人、中学校23万人です。

まず平均1時間48分で勤務時間の4%にあたるということなので、平均14時間24分になった場合何%になるのか計算します。

分単位で計算 108:4=840:X X=31.1

さて31%になることがわかりました。次に昭和41年の算出方法が年間44週間、約11ヶ月なので一人あたりの月給が20万円として月にいくらかかるのかを計算します。

20万✕0.31=6.2万円となります。

では11ヶ月ではどうなるのか?

6.2万✕11=68.2万円です。

最後に一人あたり68.2万円必要で教員数が公立の小中学校で64万人いるので、これをかけます。

68.2万✕64万=4398億円

となります。なお4%の場合は約563億円です。

4398億ー563億=3835億円

少なく見積もってもこれくらいあります。

また上の記事によると文科省の試算では未払い残業代を支払うとなるとおよそ9000億円必要ともされており、現実的にそのような予算増額は厳しいので代替案として、時間外労働の上限設定(45時間)をしたうえで、一定の時間外勤務分は賃金として支給し、その対象を超えた場合は代替休暇で振り替えるという案が検討されています。(この場合教職員調整額は10%になると試算されています、なおすべての残業に払った場合31%(筆者試算))

筆者の感想

個人的には昭和41年当時に調査に基づく4%の教職調整額というのは、全国で訴訟を起こしまくって揉めるよりかはマシで、当時の妥協案としては一定の評価ができるものだと思いました。ただ、その旧来の制度設計のまま約50年間突っ走ってきたのはなかなかで、政府としては予算の増額の阻止にちょうど良く、「制度として今までのやつがあるじゃん」といっておけばすむのでなあなあになってきたのかなと感じました。また、これから教員を目指そうという方々の参考になればという思いもあって執筆したので感想など下の欄、または冷蔵庫のInstagram、TwitterのDMに送っていただけると幸いです。(筆者を特定している方はそちらへ)

次の記事は今話題のアフガニスタン内戦(この記事を執筆したときにはほぼ終戦といっていい)についてまとめて考察をしようと思っています。それでは。


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