実写版『鋼の錬金術師』という禁忌の映画

時は2022年。
ワーナー・ブラザーズ・ジャパンは酷評の悪魔こと、実写版『鋼の錬金術師』の続編を、なんと二部作連続で公開するという暴挙に出た。

この出来事こそが、後の世に語られる「Ragnarøk(ラグナロク)」である。

ところで、ワーナー・ブラザース・ジャパンというと『デスノート』や『るろうに剣心』などの傑作実写映画を世に送り出した実績を持ち、世界にその名を轟かせる映画配給会社の日本支部というのが表の顔だ。 

一歩、裏の顔は『テラフォーマーズ』や『ジョジョの奇妙な冒険』、『BLEACH』などに代表される“混沌-カオス-”を煮詰めて煮凝りにしたかのような激毒物実写映画を嬉々として量産する悪の組織である。 

そして『鋼の錬金術師』第1作目も激毒物実写映画であるのは言うまでもない。

ここまでは皆さんも周知のところであろう。 


しかし、勘違いしないでもらいたい。

俺は今日、実写版ハガレンがクソだったって言いたくてここに立っているのではない。

実写版ハガレン、そんなに悪くなかったって話をしにきたのだ。

え…、いやいや、俺は正気である。

進化した完結編

ここで、もう一度声を大にして言わせてもらうが、大前提として、1作目は面白くなかった。

この事実は共通認識として皆さんにも持っていてほしい。

あの映画に人生の貴重な133分を消費するくらいなら、缶コーヒー片手にその辺の公園で漠然と景色を眺めている方がずっと有意義だ。
ほら、蝶々さんとか飛んでて少しは楽しめそうだし。

しかし、そんな呪いの1作目の屍を超え、完結編2部作は怒涛の進化を遂げてスクリーンに帰ってきたのである。

具体的な話をしよう。 

まず、アクション映画として観れるレベルの水準にはなった。

コレはでかい。 

そもそも少年漫画の実写化がアクション映画として観れないレベルで酷い前作に問題はあるのだが、完結編はアクションの量も質もしっかり底上げしてきた。

少なくとも、暇にならない程度にはアクションが詰まっている。

曽利監督の得意分野であるVFXも、錬金術を使ったアクションと上手く融合しており、かなり見応えが増したのではないだろうか。


次にキャスティングだ。

日本でファンタジー物を実写化するにあたり、一番の課題となるところがキャスティングである。

日本人が西洋人を演じるのは遺伝子レベルで無理がある。

一作目も往々にしてここを指摘されており、実際本当にコスプレにしか見えなかった。 

しかし、完結編のキャスティングは非常に頑張っているのではないだろうか。

内野聖陽、新田真剣佑、山田裕貴、栗山千明、そして舘ひろし。
実力のある俳優が、いい意味でキャラクターを私物化しており、己の演技力一つで、一見コスプレのようにしか見えないキャラクターに説得力を持たせている。

前作からは到底見出せなかった魅力だ。

キャラクターという枠に俳優を無理やり押し込めるのではなく、俳優の演技力に任せてキャラクターを造形させる。

これは、ファンタジー物の実写化において、日本人が西洋人を演じるという課題についての、一つの答えのように思えた。


気概

といってもまぁ数値化するならば
 
「マイナス100点だった前作と比べると、完結編は60点くらいにはなったよね」
 
というくらいのもので、やはり1本の映画として観るならば、全くもってまだまだ荒削りな出来栄えだ。

尺が足りてなさすぎるとか、台詞の言い回しがくどいだとか、不満点もそれなりに多い。

それでも俺がこの映画を見捨てたくない一番の理由は“気概”である。

「成功させてやろうぜ」という気概。

俳優や監督、製作陣が一体となって本気で良い映画を作ろうとする気概が、スクリーンを超えてヒシヒシと伝わってくるのだ。

主演の山田涼介にしても、エドを演じることについての努力の片鱗がインタビューなどで垣間見える。

確かに前作は散々だった。
 
だが、その反省点を真摯に受け止め、完結編では有終の美を飾ってやろうという製作陣の姿勢、これだけは絶対馬鹿にしたくない。

頑張っている映画を馬鹿にしてしまうと業界の衰退に繋がりかねないからだ。

「面白い」「面白くない」とは別の評価軸。
この映画は「頑張っている」から駄作ではなかった。

何を隠そう、今日はそれを言いにきたのだ。

きっと実写版『鋼の錬金術師 完結編』はこのまま興行的にも失敗に終わるであろう。

酷評も避けては通れないであろう。

年間何千と作られる映画の波に飲まれて、数年後には忘れ去られる宿命だ。

だからこのnoteを書いた。 

「実写版ハガレン、言うほど悪くなかった」っていう記録。

それが電子の海のほんの片隅にあってもいいんじゃないかなって思える映画だったから。

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