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パイロットになりたい自分の根底にあるもの、それはチーズなのかもしれない。
1年以上もnoteを更新していなかった。
大学生だった私は、パイロット訓練生になって、同期たちと空を目指している。
2ヶ月もすれば、初めて、夢にまで見た大空に飛び立つ。
いよいよだ。そんなタイミングである。
そんな中、中学の友人と話をする機会があった。
そこで多くを語り合った時、明確に溢れる気持ちがあった。
「書きたい」
今後は、パイロット訓練に向かう気持ち、感じたこと、思ったことなど、
空への気持ちを文字にしていきたいと思う。
大学4年時のマガジンと、
空を目指すマガジンは分けようと思う。
よかったら、マガジンも覗いてみて欲しい。
さて。
なぜパイロットになりたいのか。
これは、パイロット訓練生についてまわる質問ではある。
もちろん色々な答えがある。
正直、就活用に話す内容も持っているし、率直なきっかけのようなものもある。
純粋に「直感だよね」という気持ちもある。
そんな中で、今回は
もしかしたら自分がパイロットを目指している1つの理由は、
「チーズ」ではないかという視点でお話ししたい。
私は、小さい頃から鉄道が大好きだった。
京浜東北線沿線に住んでいた私は、両親に連れられてずっと電車を眺めていたそうだ。
家でも、飽きずにずっとポケトレインという鉄道のおもちゃで遊んでいた記憶がある。
そんな鉄道大好きな少年が、今でも忘れられない1つの出来事がある。
6歳の時に起こった、福知山線脱線事故である。
6歳というと多くのことは覚えていないはずだが、
ニュース映像を食い入るようにみたことを本当によく覚えている。
大好きな電車の惨劇。
幼いながらに、感じることが多かったのだと思う。
この時点では、私はまだチーズとは出会っていないのである。
時は流れ、私も高校の卒業を間近に控える歳になった。
推薦で大学が決まった私には、比較的時間があった。
そんな中、読み漁り始めた資料がある。
運輸安全委員会が出している、福知山線脱線事故の、事故報告書である。
小説をたくさん読む人間なので、
気づいたら朝になってしまうような現象にはよく巡り合っていた。
なんと、この事故報告書で、その現象に巡り合ってしまったのである。
「なぜこんなことが」
という漠然とした、疑問、憤り、怒り、悲しみ、不安が、
事故報告書という文章によって解き明かされていく。
その瞬間、人間の本質を見たような気がして、一心不乱に読んでいた。
小さい頃に起こった「悲惨なこと」が、
人間が、そして組織が起こした、「エラー」であることを明確に認識した瞬間だった。
そこから、もっぱら事故資料を読む日々が続いた。
当時はすでに職業としてパイロットを目指していたが、
航空事故に関しては、あまり多くのことは知らなかった。
(小学生の時に日航ジャンボ機墜落事故の遺体を回収された方の手記を読んだ記憶はあるので、興味を持っていたことには違いなかったが。)
こうして多くの事故を見ていく中で、衝撃的な事故を発見するのだ。
航空関係者なら誰しもが知る、「テネリフェ空港のジャンボ機衝突事故」である。
583名の尊い命が奪われた、死者数で今も史上最悪の事故だ。
今でも覚えているが、
最初にこの事故の記述を読んだのはWikipediaだった。
「なぜこんなにも不運が重なってしまうのか…」
読み進めたくなくなってしまうほど、頭がぐるぐるしたのを覚えている。
詳細はWikipediaに任せるとして、
私が本当に強く感じたのが、
「1つでも何か違う行動をしていれば、583名もの方が亡くなることはなかった」
という事実の恐ろしさである。
事故が起こって、583名もの命が奪われたのももちろん恐ろしいが、
恐らく20〜30もの「やってはいけないこと」「不運なこと」「不利に働くこと」「規則違反」が重なり、
その結果として、583名もの命が奪われたという事実を前に、
なぜか、固まってしまった。
ここで、「なぜ人間は事故を起こしてしまうのか」というのが
突然、自分の大きな命題となった。
ここで、人間工学、安全工学と出会うのである。
文系の身なので、できることはあまり多くはなかったが、
ある文献で「チーズ」に出会ったのである。
もうもったいぶらずに話すこととしよう。
その名は、「スイスチーズモデル」。
イギリスの心理学者ジェームズ・リーズンが提唱した、
ヒューマンエラーから事故・トラブルに至るモデルである。
![](https://assets.st-note.com/img/1652013537444-Hv6GytCcwn.png?width=1200)
この写真を見て欲しい。
スイスチーズとは、穴の空いたチーズ(らしい)。
このチーズには穴が空いている。
それがシステムの脆弱性を表している。
そしてこの穴を貫く1本の矢。
これが端から端まで貫通した時、事故が起こるのである。
直感的に、とてもわかりやすいモデルだと思う。
難解な文献の中で唯一理解できた部分と言っても過言ではない。
この時から、事故資料を読む時に脳裏に浮かぶのが、
このスイスチーズである。
チーズの枚数が多ければ多いほど、
チーズの穴が少なければ少ないほど、
そしてチーズの穴が小さければ小さいほど、
貫通する可能性は低くなる。
だが同時に、勘違いしてはいけないのは、
チーズの穴をなくすることはできないということだ。
人間はミスをする。
これはまがいのない事実である。
やるべきことは、「どうしたらミスをしないか」ではなく、
どのようにしてミスを事故に繋げないか、だ。
そこに「気を引き締める」などという精神論が入り込む隙はない。
さて、結論を述べよう。
私は、パイロットというのも、このスイスチーズの大事な役目を担っていると思う。
操縦、チームコントロール、コミュニケーション。
数え切れないほどの要素を、パイロットは担っている。
つまりそれは、スイスチーズの穴に関わる機会が多いと思っている。
人間には必ず穴がある。
それが貫通しないよう、多くのことを学び、考える必要がある。
だからこそ、成し遂げられる「安全」がある。
私は、そのために、訓練するのだと思っている。
そして、そのために訓練をしたいと思っている。
長文となってしまったが、私の根底には、
この気持ちが流れていると思う。
もちろん訓練に向かうモチベーションはさまざまな分野があると思う。
毎回頑張る理由が、チーズではない。
だが、改めて自分の心にあるチーズに想いを馳せ、訓練に臨みたい。
多分、飛び始めたらこういうことを考える時間も多くはないだろうから。
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